第42話 永遠の絆(?)
俺たちは調査を終えてブリーダさんと解散した。
俺はきら丸と小鳥を連れてマイルームに戻った。新しい住人に部屋を案内して回る。
一通り歩き回ってアトリエに入った。
元気づけるには美味しい物を食べるのが一番だ。ウィンドウを開いてレシピ欄をスクロールする。
この鳥は何を食べるんだろ。ブリーダさんはペット用のエサがあるとか言ってたけど。
「お、あった」
『宝石箱のようなフルーツアソート』。鳥類ペットにも適性のある飲食系アイテムだ。
必要な素材は妖精界で採れる果実。俺は色とりどりな果実をツボの中に落とす。きら丸も食べるかもしれないし二匹分の素材を入れた。
眼前のウィンドウに意識を集中させる。
ノーツが奥から手前に回転寿司のごとくやってくる。
全体的にファンシーだ。ボタンを押して弾けるノーツはカラフルで華やか。まるでお菓子の世界に迷い込んだような錯覚を受ける。
大して難しくないこともあってあっさりクリアした。
「よし、できた」
おやつを容器に入れて外に出た。きら丸と小鳥の元に持っていく。
「おやつできたぞー。食べるか?」
「キュ!」
きら丸がぴょんぴょんと跳ね寄る。
小鳥の方は元気がない。あんなことがあったんだし当然か。
「おいで」
俺は腰を落として手招きする。
小鳥がおずおずと歩み寄った。きら丸を見て、そーっと容器の中身をくちばしで突く。
「ぴっ!」
小鳥が一鳴きして二口目をついばんだ。小さな体が勢いに乗ってがつがつとお菓子を食べる。
「これだけ食べれるならもう大丈夫だな」
心の傷が癒えるにはもうしばらくかかるだろうが、食べさえすれば生きてはいられる。いい思い出がまた小鳥を元気よく鳴かせるだろう。
その思い出を作るのは俺自身。自然と気が引き締まる。
「そういえば名前決めなきゃな。何にしようか」
小鳥を眺めて、脳裏に一つの案が浮かんだ。
「よし、今日からお前の名前はラムネだ」
「ぴぃっ」
小鳥が顔を上げて鳴く。
跳ねるようなサウンドが鳴った。目の前にウィンドウが展開される。
【ジョブ『ブリーダー』のレベルが2になりました!】
続いてウィンドウが浮かび上がる。
「スキル2になったことでアクティブスキル『エターナルボンド』を修得しました、か」
ジョブのスキルを修得したのは始めてだ。これでまた戦術の幅が広がったってことだな。
スキルの名前をタップして詳細を確認する。
『エターナルボンド』はペットと連携して攻撃する技のようだ。エネミーとの戦闘でゲージがたまると特殊な攻撃を繰り出せる。
このスキルを修得すると友愛度なるものが解禁される。これが高まると威力の上昇や特別な行動が発生するのだとか。
「本領を発揮するまで時間がかかりそうだな」
「キュ」
「ぴぃーっ」
何やら騒がしい。
ウィンドウから顔を上げると、きら丸がお団子ピラーに巻きついていた。ラムネがそれを見上げてはしゃいでいる。
「二匹で遊べる遊具あるかな」
クラフトレシピを検索。
いい感じのがあった。
「迷蔓の苑か」
複数のペット専用の迷路だ。中央にある出口を目指して順位を競う。
何とこの迷路、プレイヤーも一緒に遊べるらしい。
「よし、これに決めた」
俺はマイルームに戻って出発の準備を整える。
向かう先はブリーダさんと踏み入ったジャングルだ。作りたい遊具の端材を入手するには、ジャングルで得られるアイテムが必要になる。
現時点ではラムネを戦闘エリアに同行できない。レベルが不足していますと表記されたし、レベル2にならないと連れていけないのかもしれない。
俺はでけえ丸を連れてジャングルに踏み入る。
採取ポイントが映るたびに立ち寄った。特に植物だ。蔓と名のつくアイテムが必要だから欠かさず採取する。
小型エネミーも討伐しつつ歩みを進めていると、途中できら丸の絆ゲージがたまった。
これでアクティブスキルを使える。でも弱いエネミーに使ったところで一発で消し飛ぶのは目に見えてる。
どうせならボスエネミー相手に試したい。
「手頃なやついないかな」
引き続き探索を続けていると前方で植物がうねった。
「何だありゃ」
近づくと開閉する大きな口が見えた。いくたもの蔓が渦を巻いて無数の歯を形作っている。
その周りでうねるのは蔓の触手。十本におよぶそれらがうねりながら大きな頭部を運んでいる。遠目で見えたのはこの触手だったらしい。
おそらくはエネミー。頭のでかさだけで俺の背丈の倍はある。
一見すると強そうだが……。
「挑んでみるか」
物は試しだ。
遊具の素材には蔓が含まれている。もしかするとあのエネミーからドロップする素材かもしれない。
だったらやるしかないだろう。
「行くぞきら丸」
「キュ」
抑えめの声で意思確認してからエーテライトの儀礼剣をかかげた。
次いでレッドリングの魔法も使用。先制攻撃をすませて距離を詰める。
エネミーが触手をわちゃわちゃさせて方向転換する。
触手がしなった。
「わっと!」
反射的にジャンプ。となりできら丸も跳ぶ。
続けざまのなぎ払いには頭を下げて対処。触手の数だけ体を駆使してやり過ごす。
「まるで大縄跳びだな」
少年だった頃を思い出す。ペットの数が増えたらここで大縄跳びするのも悪くないな。
なぎ払いが終わって触手の動きが落ち着いた。
チャンスとばかりに駆け寄って腕を振りかぶる。
狙うは触手。頭を斬りつけたいところだが、いちいち縄跳びにつき合うのは面倒だ。触手の数を減らせるならそれに越したことはない。
触手を二本斬り飛ばすと頭部が大きな口を開いた。
「痛って!?」
左腕をガブガブやられる。
植物だけあって腕を持っていかれることはなかった。
でも痛い。ゲーム内システムで痛覚は抑えられているがチクチクする。
「てめこんにゃろ!」
剣で叩く。叩きまくる。
横目を振ると、でけえ丸も触手を伸ばしてえいえいと叩いている。
かわいい。
でも全く効いているように見えない。何か武器でも持たせた方がいいんだろうか。
緑の頭部がくらっとして空をあおぐ。
たたみかけるチャンス到来だ。
「よし、エターナルボンド使ってみるか」
コンソールを介してスキルを発動する。
「お」
右腕が勝手にかかげられた。左手を添えた状態で体が固まる。
何かが始まる予感。わくわくどきどき。
「キュ」
でけえ丸も動いた。俺の近くで跳ねたかと思うと、お団子ピラーで見せた時のように体を伸ばす。
きらきらした半透明な体が剣身を包み込む。
「おお?」
俺の上半身が動いた。何かを振り回すようにぐるぐると動く。
遠心力に引かれてでけえ丸の体が地面を離れる。
これは、まさか。
「うおおおおおおおお!?」
俺の体がジャンプした。エネミーがのっそりと頭部を起こす。
復帰したての頭にきらきらしたムチが直撃した。エネミーが悲鳴を上げてまたダウンする。
体がシステムの強制から解放された。
「何だったんだ今の」
もしかして今のがスキル? きら丸をムチにして振り回したのが?
復帰したばかりのエネミーを再度ダウンさせたくらいだし、威力は相当なものだろう。エーテルの矢よりも高威力なのは確実だ。
でもまさか、俺がペットを振り回すことになるとは。
「キュ」
でけえ丸が剣から離れてエネミーに跳ね寄る。
俺も追撃のために剣のアビリティを使用する。
青白い矢がエネミーにとどめを刺した。眼前に展開されたリザルト画面が入手したアイテムを書き記す。
「お、あったあった」
見た目に違わずあのエネミーが目的のアイテムを持っていた。
俺は満足感を胸に抱いてマイルームに戻る。




