第41話 ラムネ色の小鳥
ミニゲームの指導を終えてサグミさんのマイルームを後にした。
ちょうどいい機会だからサグミさんに新コンテンツについて聞いた。
サグミさんいわく、新コンテンツはペットを連れていないと遊べないそうだ。
俺にはきら丸がいる。何のうれいもなく遺跡に転移した。
おもむく先はブリーダーのジョブを得た場所だ。NPCことブリーダさんと話をして、新しく解放されたジャングルに足を踏み入れる。
目的は生態系の調査。ブリーダさんの格好は帽子にリュックサックと探検家仕様だ。
身なりにふさわしく目的地はジャングルだった。濃厚な土と樹木のにおいに包まれながら奥を目指す。
色々な動物の鳴き声が聞こえる。サルに鳥、他にも色々な動物の生息をうかがわせる騒々しさだ。
森らしく虫もいる。地を這うアリはもちろん、ひらひら飛んでいる蝶も常識を外れてでかい。
それらは俺を見つけても攻撃してこない。区分はエネミーではないようで、俺を見つけても攻撃してはこない。
指でつまむとアイテムとして入手できた。
「これアイテムなのか」
ってことはクラフトか何かに使うのか。もしくはペットのエサとか?
あり得る。ブリーダーのNPCが同行するクエストだし。
何の素材が何の役に立つか分からない。目についた採取ポイントや虫には積極的に歩み寄って採集した。
ブリーダさんからはペットに関することを聞けた。
遊具で遊ぶとスキルが発現することもあるらしい。ペットにはエサを食べるタイプがいるらしく、いいエサを上げると特殊な成長をする個体もいるのだとか。
「ぴぃーっ」
消え入りそうな鳴き声を耳にして足を止める。
「今のは鳥か?」
「そうですね。行ってみましょう」
ブリーダさんの背中に続いて鳴き声の方向に走る。
走った先には小鳥がいた。羽が生えそろっていない翼をぱたぱたさせて土の上でもがいている。
長いこと暴れているのだろう。土が付着して体全体が汚れている。
「フトシさん、あれ」
ブリーダさんが上方に人差し指を伸ばす。
指し示された先を視線で追うと巣があった。枝の上で似たような鳥がぴぃぴぃと鳴いている。
「落ちちゃったのか」
「そうだと思います。見たところ怪我はないようですけど汚れちゃってますね」
「近くに水源があれば洗えるんだが」
「湖ならさっき見かけましたよ」
「ならそこに連れていくか」
俺は小鳥に歩み寄って抱え上げる。
「ぴぃーっ、ぴぃーっ!」
鳥がバタバタと暴れ出した。
「おとなしくしててくれ。何もしないから」
言葉が通じたのか、小鳥は数秒しておとなしくなった。
俺はブリーダさんの案内を受けて元来た道を戻る。
本当に湖があった。視界一杯に広がる水面がきらきらと日光を反射している。
「キュッ! キュッ!」
きら丸がぴょんぴょん跳ねる。表情がなくてもはしゃいでいるのが分かって口元がゆるむ。
俺は小鳥を地面に下ろす。
「水浴びできるか?」
「ぴぃっ」
小鳥が一鳴きしてとてとて歩く。
痛がる様子もなく水に入った。羽づくろいをして水浴びを存分に楽しむ。
「気持ちよさそうですね」
「そうだな」
鳥から視線を外すと一際きらきらした水面が映る。
よく見るとそれはきら丸だった。
ぺらっぺらだ。カーペットのごとく広がってぷか~~っと浮いている。
「何だありゃ」
楽しいのか?
何と言うか、自由だなぁきら丸。クラフトレシピにプールが追加されたら作ってやろう。
小鳥が水浴びを終えて戻ってきた。体を震わせて水しぶきを飛ばす。
土色が落ちた羽はきれいな水色。日光を反射するラムネ瓶みたいな清涼感にあふれている。
「もういいのか?」
「ぴぃ」
分からないけどいいんだろうな、たぶん。
ブリーダさんが風の魔法で小鳥の体を乾かす。
「きら丸、行くぞー」
「キューッ」
ぺら丸が戻ってきた。土の上に戻るなり体がぷるんっと丸みを帯びる。
俺は安心して小鳥を抱え上げた。自分たちの靴跡をたどって巣への道のりを歩く。
ジャングルに猛禽類のおたけびが響き渡った。
「今の、巣のある方角から聞こえたような」
「急ごう。嫌な予感がする」
俺たちは巣への道のりを急ぐ。
予想通り大きな鳥が巣を襲っていた。立派なくちばしには鳥が咥えられている。
猛禽類と視線が交差する。
鳥がおたけびを上げて翼を広げた。事切れた鳥を地面に落として俺たちに迫る。
「おわっと!」
とっさにしゃがんで飛びかかりをかわした。
俺は腰を上げながら剣を引き抜く。
「こんにゃろ!」
方向転換する怪鳥に向けてエーテルの矢を飛ばした。
HPが低いのか、それだけでエネミーがポリゴン化して霧散した。
「巣は!?」
顔を上げて枝の上を確かめる。
巣を構成していた枝はバラバラだ。戦闘の影響なのか、視線を下ろすと地面の上に物言わぬ小鳥たちが寝転んでいる。
ブリーダさんが駆け寄って腰を下ろす。
細い首が左右に振られた。
「駄目です。残念ですが、他の子はもう」
「そうか」
俺は足元に視線を下ろす。
本能的に何かを感じ取っているのか、小鳥が悲し気な鳴き声を上げる。
弱肉強食が自然界のおきて。あの大きな鳥も生きるために食料を求めただけ。
分かっていてもやっぱり心にくる。
「この子、どうしましょうか」
ブリーダが哀れむように小鳥を見下ろす。
小鳥を主食とする獣はきっとたくさんいる。小鳥が生きて明日をむかえることはおそらくない。
この落ち込んでいる小鳥を置いて去るなんて、俺にはできない。
俺はそっとしゃがむ。
小鳥が大きな瞳で俺を見上げた。
「俺と一緒に、来るか?」
問いかけが森の静けさに吸い込まれる。
それでも言葉は聞こえたらしい。小鳥がおもむろに歩み寄って胸元に顔をうずめる。
体は小さくて頼りないが、そこには確かに生きようとする鼓動があった。
 




