第4話 そんなの無敵じゃないか!
クラフトしたアイテムをマイショップに出品して戦闘エリアに出た。
俺がクラフトできる商品はレア度の低い物ばかり。レアアビの分価格を上乗せしても儲けには限度がある。
誰かが買うまでマニーは入らない。しばらくは自分の足で素材やクラフト費用を稼がないと。
しかし自分の武器や防具をクラフトでまかなえるってのはいいな。レアなアビリティがついてるから他のプレイヤーよりも有利に進められる。
レベルの低いエネミーは相手にならない。お世話になった大樹とすれ違ってさらに奥を目指す。
途中テントが見えた。
エネミーがテントを張るとは思えない。近づいてみるとプレイヤーがいた。
彼はたき火にコップ、チェアまで持ち込んでいた。クラフトマギアの世界ではキャンプができるようだ。
俺はキャンプのうんちくを聞いてその場を後にした。
「キャンプか。やってみようかなぁ」
テントで休憩すればマイルームに戻る手間がはぶける。
やらない手はない。コンソールからクラフトレシピを確認する。
ショップで購入できるだろうけど、どうせなら手作りの道具を持ち込んでキャンプしたい。
「あったあった。チェアとテントのレシピ」
コップもある。これはやりがいがあるなぁ。
足りない素材はこの森で得られるみたいだ。これだけ樹木にあふれていれば木材には困らないし、動物の皮を使えばテントも張れる。まさに初心者救済エリアだな。
木材は運営から配布された斧を使って入手した。
動物の皮はエネミーから。マイルームに戻ってテントとチェアをクラフトした。
レア度2
『ウータ材のチェア』
アビリティ【HP自然回復】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
レア度2
『ハイゾン皮のテント』
アビリティ【MP自然回復】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
「うん、今回もいい物ができた」
俺はNPCショップで手頃なつまみを購入して街を出た。
キャンプと言えば自然あふれる場所。素材集めでお世話になった森が最適だ。
キャンプついでにエネミーを狩りながら最適なポイントを探す。
日が暮れてきた頃にちょうどいい広場を見つけた。
「ここにするか」
すぐにテントを設置した。チェアも実体化させて腰かける。
コンソールを開くとキャンプの文字がつけ足されていた。
たき火の文字をタップするとたき火セットの文字。ゲーム内通貨を消費することで枯れ枝や薪を出せるようだ。
早速タップ。
目の前に薪や枯れ枝が実体化した。世界観を壊さない程度の火起こしセットもある。
「便利だなこれ」
運営の配慮に感謝を捧げて火起こしを試みる。
火がついた! 初めてやってみたけどうまくいくもんだな。
俺はチェアの背もたれに体重をあずけて目を閉じる。
温かい。
小鳥のさえずり、ぱちぱちと弾ける音、濃厚な土と樹木の匂い。サラリーマン生活で得られなかったものがここにある。
静けさを堪能してつまみとビールにありつく。
すっかり日が沈む中、俺の周りだけが明るい。
知覚できるのは自分だけ。キャンプは自分を見つめ直すのに最適かもしれない。
離れた位置でガサッと音が鳴った。
「エネミーか?」
俺はチェアから腰を浮かせて銅製の剣を握る。
「ま、待った待った! 俺に交戦の意思はない!」
茂みから男性が現れた。
「何だプレイヤーか。おどかすなよ」
「悪い悪い。やたら明るい場所があったから気になっちまって。なあ、少し休んでっていいか?」
「構わないよ」
「ありがとう」
男性がたき火の前に座る。
「なんか不思議な感じするな」
「自分を見つめ直せる感じするよな」
「それもあるけど、胸の奥から何かがわき上がる感じというか」
「ああ、それってHPじゃないか?」
「どゆこと?」
「このテントには、一定範囲内のプレイヤーのHPを自動回復するアビリティがついてるんだ」
「へえ。って、マジで⁉」
突然声を張り上げられてびくっとする。
マイルームでも小川のやつにびっくりさせられたな。
「何にそんなに驚いたんだ?」
「そりゃだって、テントにHP自動回復ついてんだろ? ってことは街に戻らなくても回復し放題ってことじゃないか。もしかしてそのチェアにも何かついてんのか?」
「ああ。MPが自動で回復する」
「そんな!?」
「どんなだよ」
「だってお前、MPも回復って、そんなの無敵じゃないか!」
「無敵じゃないよ。自動で回復するだけだって」
「でもアイテム使わなくても全快するじゃん。ずるだろそれ」
ずるかなぁ。便利とは思うけどそこまで速く回復しないのに。
「HPやMPを即時回復するアイテムがあるじゃないか。そっちの方がよほどズルだろ」
「何言ってんだ、そっちはだべってるだけで回復するんだぞ? 放置してリアルで別のことをやれる」
「なるほど、お前頭いいな」
「だろ? じゃなくて、ずるいぞ。売ってくれ」
「ずるいのか売ってほしいのかどっちだよ」
「売ってくれ。ついでにどこで買ったか教えてほしい」
「俺が作った」
「え?」
「俺が作った」
ドンッ! そんな効果音をセルフで出した。
ここまでほめられたら少しくらい自慢したっていいじゃないか。
「でもその装備初心者が着るやつじゃん。もしかして転職者か?」
「転職って何」
「知らないってことはガッチガチの初心者か」
「失礼な。本当にクラフトで作ったんだってば」
「分かった、じゃあ誰から買ったかはいいから売ってくれ。いい値を出す」
「えー」
せっかく作ったのになぁ。
でも相応の値段で売ればまた作れるし、別にいいか。
「じゃ持ってるマニー全部」
「よし、商談成立だ」
「まじで? いや冗談だぞ」
「こっちは冗談のつもりないぞ」
「そこまでして欲しいのか。さすがに引くぞ」
「引かれては困る。売ってくれ」
「そっちの引くじゃないっつーの」
もうビール飲み終わるし面倒くさいからいいや。
俺は商談に応じてテントとチェアを売り払った。
キャンプの中断を代償にして、俺の所持金は数十倍にふくれ上がった。