第33話 俺、このイベントが終わったらジョブに就くんだ
門は遺跡内部に通じていた。
天井や壁はSFチックな色合いを帯びている。宇宙船に潜り込んだみたいでわくわくする。
エネミーも色合いがどこかメカメカしいが、相変わらず武器と指輪のアビリティだけで片がつく。スムーズに進めてノンストレスだ。
「ずっと気になってたんだが、ペットってHPがなくなったらどうなるんだ?」
「マイルームに戻る」
「それだけ?」
「仮に消える仕様だったら間違いなく炎上してますよ。どうやったってペットに情はわきますから」
じゃあきら丸を心配しなくてもよかったのか。洞窟じゃ思わず叫んじゃったよ恥ずかしい。
でもきら丸だって斬られたら痛いだろう。やられないに越したことはないか。
ボス部屋特有の扉前にたどり着いた。
扉を押した先にいたのはやはりサソリ。例によって体表は銀色を帯びている。
恒例の矢と魔法の先制攻撃。
数秒で右のハサミが砕け散った。
「左のハサミと尻尾の針に注意な」
「ふむ、一応状態異常回復のアイテムを用意しておくか。天使たちのために」
平常運転の仲間とともにハサミと尾の針を破壊した。
サソリも特殊行動をとった。壊れた尾針の先から霧状の毒をまき散らす。
普通の毒じゃないのかメリメリとHPが減る。ボス部屋全体にかかっているのか、回復アイテムを使っても状態異常が解除されない。
でも瀕死は瀕死。エーテルの矢がサソリをポリゴンに変えた。
部屋の中央に新たな門が出現する。
「楽勝だな」
「気を抜いちゃ駄目ですよ。まだ先があるんですから」
全員で門を駆け抜ける。
洞窟に出た。
見覚えのある地形が禍々しい赤を帯びている。魔王でも待っていそうな雰囲気だ。
「エネミーいないな」
「不気味ですね」
進んだ先には黒く重々しい扉。結局エネミーとは出くわさなかった。
「ラスボス感ありますね」
「そうだな。よし、行くぞ」
扉を押して、奥で待ち構えているであろうエネミーを拝む。
洞窟に違わずゴーレムが鎮座している。
ただし重装甲だ。一対の角を生やしたヘルムはまさに悪魔の様相。金属でできているのか動くたびにカチャカチャ鳴る。大きな手にはすでに岩の剣が握られている。
ゴーレムが石の地面を踏み鳴らしながら迫る。
足が地面に落ちるたびに揺れが伝わる。近くで足踏みされると足を取られそうだ。
相手が強そうでもやることは変わらない。先手必勝の雨あられを浴びせかける。
指輪の魔法を撃ち切った頃にゴーレムがのけぞった。黒い足が地面にひざをつく。
宙に放り出された剣が地面に突き刺さった。
「チャンスよ、たたみかけて!」
「イエムマム!
イエムマム!
イエムマム!
イエムマム!
イエムマム!」
ほんと仲いいなぁこいつら。俺も乗っかればよかった。
接近した漫才五人衆の武器が鮮やかな色を発する。
「ダンシングエッジ!」
「ネザークロー!」
「ショックウェイ!」
聞き覚えのない言葉が空間をにぎわせる。ジョブをセットしている者にのみ許される特殊なスキルだ。
「いいなぁ」
俺もかっこいい技とか撃ってみたい。
俺、このイベントが終わったらジョブに就くんだ。
ゴーレムが立ち上がる。
ゴーレムが触れてないのに剣が浮いた。鍔の辺りに目玉を思わせる紋様が浮かび上がる。
どこからともなくダンゴムシが落ちてきた。
剣がダンゴムシを突き刺した。何かを吸収するようなエフェクトに遅れて丸みのあるエネミーが消滅する。
「ふむ、先にダンゴムシを駆除した方がよさそうだ」
「何で?」
「おそらくエネミーを吸収して自己強化する。他のゲームにそんなのがあった」
「へえ、そんなのがあるのか。面白いな」
だったら狙いを変更だ。リキャストが明けるなり矢と指輪で残りのダンゴムシを倒す。
剣が再びゴーレムの手に収まる。
ゴーレムが既視感あふれる動きで剣を引く。
「みんなきら丸の後ろに隠れろ!」
「え、何、どういうことですか?」
「貴様、ペットを盾にすると言うのか!」
「きら丸の活躍の場を奪わないでくれ」
「何? きら丸が活躍するというのか」
お、態度が軟化した。漫才五人衆にはペットのためを思うような言い方が効くみたいだ。
「そうだ。今からきら丸が大活躍する。見たいだろ」
「見たい! よし分かった、頼んだぞ僕のきら丸」
「さりげなくお前のペットにすんな。きら丸、変身!」
「キュッ!」
でけえ丸の体色が神秘的な青緑に変わった。フォルムもひらひらが伸びてやわらかみを帯びる。
きら丸の向こう側で禍々しいエフェクトが散る。
ろくにダンゴムシを食べられなかったせいなのか、きら丸のHPゲージは大して減らない。
これなら洞窟で戦った個体の方が強いくらいだ。大勢が参加するからイベント用に攻撃力を下げたのかもしれない。
エフェクトがピタリと停止した。
代わりにほのかな金色が収束する。
「やっちまえきら丸!」
「キュ~~ッ!」
黄金の光線がゴーレムをのみ込む。
ボスエリアが薄暗さを取り戻すとクリア音が鳴り響いた。遅れて目の前にリザルトウィンドウが表示される。
「お、古代のスクロール落ちてる」
ラッキー。複製したいアイテムは今のところないが、スクロールはあればあるほどいい。
「よし、次行こうぜ」
今回のイベントは時間内なら何度でも挑戦できる。今回の反省点を活かせばもっとタイムを短縮できる。
返事がない。
振り向くとみんなポカンとしていた。
「え、なんですか今の破壊光線」
「きら丸のカウンター攻撃だ」
「知りませんでした、クリスタルスライムにはそんな攻撃方法あるんですね。無敵じゃないですか」
「無敵ではないと思うぞ。剣にダンゴムシ全部食わせたら耐え切れなかっただろうし」
「それでもあんなの見せられたらびっくりしますよ。事前に言っておいてくださいよ」
「そうだな、確かに知らせて置いた方がいいか。きら丸はたくわえてるアイテムに応じて変身するんだ」
「それは面白いですね」
サグミさんがでけえ丸天使形態を見上げる。
でけえ丸の体がほのかな光を帯びた。見る見るうちに丸くなって愛らしいフォルムに戻る。
「変身……すごい! さすが僕のきら丸!」
「だから俺のだっつーの!」
こいつ、 いつになったら現実を見るんだ。
俺は小さく嘆息する。
「いいから次行こうぜ。色々分かったしもっと効率化できると思うんだ」
「そうですね。二周目行きますか」
俺はでけえ丸に追加のハイポーションを食わせて門に駆け寄る。




