第31話 クランメンバーとの顔合わせ
一時的にペット愛好会に加入することが決まった。
第二回イベントの内容からしてパーティを組んでの活動になる。他メンバーとの連携は必須だ。
サグミさんの方で他メンバーとの予定を調節してもらった。
幸いイベント前に顔を合わせる機会ができた。俺はサグミさんから招待コードをもらってクランスペースに転移する。
転移して真っ先に映ったのは遊具。俺が生まれる前に撤去されたと言われる器具の数々だ。
遊具で遊ぶのは小さなゴーレムやネコ。いずれもデフォルメされていて明らかにエネミーとは違う。
「いいよー素晴らしいよー!」
猫なで声を耳にして振り向くと例の五人がいた。手にカメラを持ってファインダーをのぞきこんでいる。全員ヘルムをかぶってるけどちゃんと見えてるのか?
……俺は声をかけていいんだろうか。
「むっ、キュートなペットの気配!」
男性の一人が顔を上げた。確かぷるるとか言ったっけ。
男性がシュバババッと手足を振ってきら丸に迫る。
「おお! そのクリスタルのごとくキラキラしつつもぷにっとしそうなフォルムはきら丸! ついに我々のペットとなる決心がついたのだね!」
「ちげーよ! きら丸は俺のだっての!」
ぷるるときら丸の間に入る。
「何だ、フトシも一緒か」
露骨に肩を落とされた。
もう帰ろうかな俺。
「こらぷるる、来てもらったのにその態度はないでしょ」
クランスペースにサグミさんの姿もつけ足された。
ぷるるが背筋をシャキっと伸ばす。
「リーダーこれはその、違うんです。てっきりきら丸が自分の意思で来てくれたんだと勘違いして」
「あんたらまだ凝りてないの?」
「ら?」
「え、おいらたちも入ってるの?」
「心外なり」
ペットを撮っていた四人が顔を見合わせる。
俺が来た時には気づかなかったのに、サグミさんが来た途端これだ。
よほど叱られてきたんだろうなぁ。この変わらないフリーダムっぷりを前にしたら納得しかないが。
「ちなみにフトシさん。我々にきら丸を譲る気は」
「ない。あの遊具はなんだ? どこかで売ってるのか」
「売り物ではない。我々で作ったのだ」
「作れんの? 初めて知ったぞそんなの」
「知らんのか? きら丸というものがありながら、そんなことではブリーダー失格だな」
こいつぅ。きら丸を得られない腹いせにいちいちマウント取ってきやがる。
でも貴重な情報を得られる機会だ。ここはぐっとこらえる。
「クラフトにそういうレシピはなかったけど、どこかでレシピ入手するのか?」
「つーん」
ぷるるがぷいっとそっぽを向いた。
「ブリーダー関連のクエストがあるんです」
「リーダー!?」
ぷるるが裏切られた! と言いたげに目を見開いた。
サグミさんが呆れたように目を細める。
「これからお世話になるんだからそれくらい教えなさいよ。遺跡からずっと左に進むとNPCがいるので、そこでクエスト受けて指定されたアイテムをクラフトすると作れるようになりますよ」
「そうなのか、教えてくれてありがとう。なあ、きら丸もあの遊具で遊ばせていいか?」
「よかろう」
「お前が許可すんのかよ」
どのみち許可されたことに代わりはない。きら丸がぴょんぴょんと跳ねて遊具に向かった。他のペットと合流して仲睦まじげに跳ね回る。
和む。まるで天使がたわむれているみたいだ。
あらためて見るとペットにリボンやアーマーがついている。
「ペットっておしゃれできんの?」
「無論だ。防具も装備できる」
「まじか」
じゃきら丸はもっと強くなるのか。
数分してスズさんも合流した。俺たちは同じテーブルをかこむように座る。
サグミさんがあらたまってコホンと咳払いした。
「クランのみんな、そしてフトシさん。このたびはイベント前の会合に集まってくれてありがとう。公式がアナウンスしている通り、第二回イベントではボスエネミーの討伐速度を他クランと競います。当日はチームを組んでの挑戦になるので、事前にすり合わせを行うべくこの場を設けさせていただきました」
「リーダー硬いな」
「クランメンバー以外がいるから緊張してるんですね」
「クラン設立当初を思わせる初々しさ、よき」
「お黙り男ども」
「その複数形やめてほしいっす」
「この漫才見てるとあの頃に戻ってきたって感じしますね。人数はだいぶ減りましたけど」
「求心力がなくてすまぬ」
いまいち締まらない会合が始まった。ペット愛好会のメンバーが名前とジョブやロールを口にする。
サグミさんが俺に視線を向ける。
「最後にフトシさんお願いします」
「ああ」
俺はチェアを立った。
「俺はフトシだ。基本クラフトしかしないが、今回は一身上の都合でこのクランに参加させてもらった。つたないところもあると思うがよろしく頼む」
ちょっとしたパチパチパチが空間をにぎわせる。
「次にフトシさんのジョブとロールを教えてください」
「その前に一つ確認。フレンドに教えてもらったからロールのことは知ってるんだが、ジョブってなんだ?」
「え」
空気が一瞬凝固した。
おや、知らないの俺だけ?
「ジョブはあれですよ、戦士とか魔法使いとかそういうのです。コンソールで設定できるはずですが」
「いや分からん」
視界の隅で漫才五人衆が顔を寄せ合う。
「どうする。あのフトシ、本当にクラフトにしか興味ないみたいだぞ。この分ではきら丸に対するあつかいもずさんなのでは」
「放置プレイかましてクラフトに没頭しているまである」
「やはりきら丸は任せておけぬか」
「おーい聞こえてるぞー」
こいつら隙を見せたらまた襲ってきそうだな。寝首をかかれないように注意しないと。
「フトシさんはどんな戦い方をするんですか?」
「俺は剣を使って戦ってる」
「じゃ戦士でいいじゃん」
「待て待て、剣は強いがそれ以上にアビリティが強いんだよ。きれいな矢を飛ばすんだが、これがまたすごくてさ」
「矢? 雨じゃないのか」
「ああ、あの時の武器を強化したんだ」
「ほう、どれ」
ぷるるたち五人衆が指で宙をかく。コンソールを開いて俺の装備を確かめようとしているのだろう。
息をのむ音が聞こえた。
「うわつよ! 何だこの剣!」
「レア度5の武器なんて初めて見た」
「攻撃力が俺の剣の倍以上あるじゃん。てかエーテライトって、あの激レア鉱石使ってんのかよ」
あの剣やっぱ強かったんだな。
そりゃそうか。オオガワたちとパーティ組んだ時よりもスムーズにエネミーを一掃できたし。
サグミさんも指で宙をなぞる。
「確かにすごい攻撃力してますね。この性能で斬るよりアビリティの方が強いってどんだけですか」
「いっそ魔法職として運用するのもありかもしれませんね」
「じゃ一度パーティ組んでやってみよっか。手頃なボスって言えばサソリかな」
「遺跡か。エーテライトチャレンジっすね」
「おいで、ボクの天使たち!」
ペットが遊ぶのをやめてぷるるに駆け寄る。
俺もきら丸に呼びかけてクランスペースを後にした。
進んだ先で交戦するは遺跡のボスサソリ。サンドバッグにしつつ戦い方を適度調整する。
回数を積むたびに討伐タイムが早くなる。自分たちが上手くなっている実感を覚えて、後半は時間を詰める作業にやみつきになった。
これはいける。
確かな手ごたえを得てその日は解散した。




