第3話 レアアビリティ
俺はマイルームに戻った。
早速マイショップ確認。
「お、売れてる!」
完売だ。剣なんて『け』の字も見当たらない。
自分の作った物が売れた。実感すると何だか不思議な気分だ。
胸の奥が熱くなって活力がわき上がる。
「おっし、んじゃまたクラフトするか」
アトリエに入って壇の上に乗った。ウィンドウ内でレシピが一列に並ぶ。
「お、新しいレシピが解放されてる」
装甲虫の鎧に毛皮のグローブ。どちらのレシピも今日得た素材がトリガーになって解放されたようだ。
「これはやるっきゃないな」
まずは名前から強そうな鎧から。虫の素材をツボに突っ込んでミニゲームに挑む。
今回は落ちてくる玉が多い代わりにスピードが少し遅い。
「へえ、作るアイテムによってパターンが変わるんだな」
例にもれずボタンを押し進めるにつれて難易度が上がる。まるで雨の動画をスロー再生しているみたいだ。
でもあらゆる音ゲーをプレイしてきた俺の敵じゃない。
今回もパーフェクトだ。リザルト画面に遅れてアイテムの詳細が表示される。
レア度1
『装甲虫の鎧』
防御力 +7
アビリティ【反撃のトゲ】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
詳細分が木製の剣と同じだ。評価Sだと同じ表記になるのかもしれない。
しかしトゲトゲしててかっこいいな。物理攻撃を受けるとダメージを与えるアビリティはトゲトゲしたフォルムに由来しているのか。
視界内にコールのウィンドウが浮き上がる。
俺は受話器のアイコンをスライドさせた。
「よう太志。今マイルームか?」
「ああ。集めた素材でクラフトしてる」
「早速楽しんでるな。俺すぐログインするから合流しないか?」
「いいぞ。今クラフトしてるから、待ち合わせ場所は俺のマイルームでいいか?」
「ああ。じゃ招待コード送ってくれ」
「分かった」
宙を指で引っかいてコンソールを出した。タップを繰り返して招待コードを発行する。
引き続きツボに素材を突っ込んだところでピンポーンと音が鳴った。
俺は入室許可を出す。
数十秒して男性アバターが姿を現した。
「よう来たぞーって、お前アバターの名前までフトシにしたのかよ」
「考えるの面倒くさかったからな」
「相変わらず興味のないことにはとことん興味ねえな。それで何を作ったんだよ」
「手元に残ってるのは鎧だけだな。昨晩作ったのは全部売れた」
「そりゃすげえな。どんなの作ったんだよ」
「木製と銅製の剣」
「何かアビリティついてなかったか?」
「ついてたぞ。【新たなる風】とか」
「は!?」
いきなり声を張り上げられてびくっとした。
「何だよ急に大声出して」
「だってお前、それレアアビだぞ?」
「何レアアビって」
「レアアビリティの略だよ。弱い武器でもそれついてたら高額で売れるくらい需要あるんだ」
「そうなのか。じゃあもっと値段張ればよかったな」
アイテムじゃなくてアビリティで商品の検索をかけるべきだったか。
奥が深いなVRMMO。
「ちなみに鎧にはどんなアビリティがついたんだ?」
「鎧には【反撃のトゲ】 だな」
「それもレアアビなんだが。なあ、試しに何かクラフトしてみてくれよ」
「いいぞ。今から毛皮のグローブを作る」
俺はクラフト開始の文字をタップした。下へ流れる玉が印と重なるタイミングでボタンを押す。
手から伝わる軽快な感触。それがまたさらなる押し込みに誘う。
ああ、終わってしまった。
「まあざっとこんな感じだ」
「いやー分かってたつもりだったけど、ぱねーなお前。楽々評価S出しやがって」
「評価Sになるといいことあるのか?」
「そりゃあるさ。というかSにならないとアビリティつかないからな。同じSでもピンからキリまであるし、レアアビなんて普通はつかねえもんなんだよ」
「まじか」
ってことは俺、クラフトに関してはすごいアドバンテージを持ってるってことだよな。
これは大もうけの予感。
「なあ小川、取引しないか?」
「取引?」
「そ。色々素材集めてさ、俺がクラフトして売るの。その儲けを山分けってのはどうよ」
「おお、それは……いや、やっぱやめとくわ」
「どうして」
「こういうのって後々トラブルになるからなー。俺が活躍してるのにお前微妙だから減額な! とかさ」
「なるほど、確かに関係こじれたら気まずいな。同じ会社だし」
「そういうこった。でも作ってもらうってのはいいな。たまにクラフト依頼してもいいか?」
「もちろんだ。同僚のよしみで安くしてやるよ」
「ありがとう。それとゲーム内で小川って呼ぶの禁止な。リアルがばれるからオオガワと呼べ」
「分かった、以後気をつけるよ」
「んじゃこれからフレとの約束あるからもう行くぜ」
「おう。俺は俺でゆったりやってるわ」
またのぞきに来るからなー。オオガワがそれだけ言い残してどこかに転移した。
俺はクラフトに戻って新たな商品の作成に励んだ。