第28話 村の拡張
俺は洞窟を行き来してボスエネミーを倒しまくった。
古代のスクロールは必ずドロップするわけじゃなかった。たまにドロップしても複製以外が秘められているケースはザラにあった。
討伐経験を積んだおかげできら丸天使形態の仕様が分かってきた。ボスエネミーをほうむった黄金の光は、どうやらカウンター攻撃の側面があるようだ。
ゴーレムが黒いオーラをまとって乱舞するのは瀕死状態の時。乱舞をカウンターすることで確実に倒せることが分かった。
攻略手順が決まれば後は作業だ。まれに得られる複製スクロールで地道にオーパーツを増やした。
ついに必要なパーツを集め切って妖精界におもむいた。
「カジさん、必要なパーツ集めてきたぞ」
「おお、早かったのう。もっと時間がかかるものと思っとったが」
「ちょっと裏技を使ってな」
俺は驚くカジさんから視線を外して装置を見る。
装備はピッカピカに磨かれていた。
「きれいにしたんだな」
「苔びっしりは装置がかわいそうじゃからな。じゃ早速パーツ作りを始めるぞい」
「ここで作るのか?」
「ここじゃないと騒音がするからな」
なるほど、そういう問題もあるのか。
金属を加工するとなれば打ったり切ったりの作業がある。シルフの村はそう遠くないところにあるし樹木で騒音を防ぐのは無理があるか。
「分かった。そこも考えてみるよ」
「ほ、何か作ってくれるの?」
「特に案があるわけじゃないんだ。あまり期待しないでくれ」
「よっしゃ、期待して待っとるぞい」
俺は苦笑して洞窟を後にする。
シルフの村に足を運ぶと立派な柵ができていた。カジさんががんばってくれたみたいだ。
俺は回り込んで門から村に入る。
妖精たちが羽をぱたぱたさせて寄ってきた。
「いらっしゃいフトシさん」
「久しぶり。あれから変わりないか?」
「はい。あれから魔獣の襲撃もありませんし平和な毎日を送ってます」
「訓練はしてるのか?」
「はい。毎日かかさずやってます」
バスケットを持った妖精がすれ違う。
「君、どこに行くんだ?」
「木の実を摘みに行くんです」
「柵の中に果樹園とかはないのか?」
「ないですね。倉庫に保存用をためてはありますけど、在庫が少なくなってきたので補給しないと」
それだと外で魔獣と遭遇した時に対処できない。
でも妖精だって食べなきゃ生きていけない。村を出ての果実採取はおかさなければならないリスクだ。
「きら丸、この子に同行してやってくれ」
「キュ」
きら丸が頭部らしき箇所に触手を添えた。さながら命令を受けた軍人だ。
「いいんですか? きら丸さんをお借りして」
「どこで魔獣と出くわすか分からないしな。きら丸がいれば安心して採取できるだろ」
「ありがとうございます!」
妖精ときら丸が村を出た。
俺は訓練場におもむく。
「放て!」
一瞬別人かと思った。凛々しさのある声に遅れて前方が色づく。
火球が遠くの大岩に当たって弾けた。
「やってるなアメリア」
指揮官が振り返る。
小さな顔に微笑が浮かんだ。
「フトシさん! いらっしゃってたんですね」
「ああ。いつも急で悪いな」
「連絡のしようがないですから仕方ありませんよ」
こういう時スマートフォンがあれば便利なんだがなぁ。
ないものねだりしても仕方ないか。
「訓練を邪魔するつもりはないんだが、一つ提案したいことがあるんだ。村の中に果樹園を作らないか?」
「果樹園を?」
「ああ。食料を得るには村の外に出なきゃいけないだろ? でも外出はスプリガンや魔獣に遭遇するリスクもある。村の中で調達できれば事故の可能性を減らせると思うんだ」
「それはいいですね。でも私たちにその手の知識はありません。またフトシさん頼りになってしまいます」
「実は俺も素人同然なんだよな。トライアンドエラーで開拓していくしかない。ちなみに何の木の実を主食にしてるんだ?」
「マクワの実です。村を出て真っ直ぐ進んだところに植生してますよ」
「ありがとう。行ってみるよ」
村を出て真っ直ぐ進む。
並ぶ樹木が見えた。バスケットを持つ妖精ときら丸が木の実を集めている。
「収穫の調子はどうだ?」
妖精が振り返って目を丸くした。
「あれ、フトシさんも来たんですか?」
「一度マクワの実を見ておきたくてな。村の中で栽培できないか検討中なんだ」
「なるほど、確かに村の中で栽培できれば安全ですね」
「だろ?」
俺は樹木に歩み寄って果実を手に取る。
『マクワの実』
MPを10回復する。
アイテムの詳細は至ってシンプルだ。妖精はMPを摂取して生きてるってことか。
「とりあえず村で植えてみるか」
ポーチに何個かマクワの実を突っ込んだ。きら丸たちと俺の靴跡をたどって村に戻る。
村に帰ると果樹園の候補地が用意されていた。アメリアの案内を受けてちょっとした広場に踏み入る。
早速土をたがやしてマクワの実を植えた。
マイルームの温室購入時についてきたじょうろで水をかける。
「しばらくは水をやりながら様子見だな」
「では水やりは私たちの方で行いますね」
「頼む。それともう一つ相談したいことがあるんだ。カジさんには機械を見てもらってるんだけど、あんなところで一人作業させるのもかわいそうだと思うんだよ」
「そうですね。洞窟は暗くてじめじめしてますし、スプリガンや魔獣の存在も気になります」
「そこで提案なんだけど村を大きくしてみないか? 鍛冶場を作ってカジさんの拠点にするんだ。もちろん迷惑なら断ってくれていいんだが」
「迷惑なんてとんでもありません。これから先何が起こるか分かりませんし、技術に富んだ方が村にいてくれるのは心強いです」
妖精とドワーフが仲がよくなかったと聞く。見えないだけで不満を持つ妖精がいないとも限らない。そういった個体にとってカジさんの拠点を構えるのは業腹だろう。
アメリアはシルフ代表のような立ち位置にある。ここはアメリアの求心力を信じてみるか。
「分かった。じゃあカジさんにもそう伝えておくよ」
「はい。お願いします」
小さな顔がにこっと笑む。
思い返すと、大事なことを決めてる時にはいつもアメリアがいるな。
「なあアメリア、この際だから役割を分担しないか?」
「分担と言うと?」
「今まで魔獣対策に果樹園、鍛冶場と色んなこと話してきただろ。これから他にも問題が出てくるだろうし、そのたびにアメリアに相談してたらいつかパンクすると思うんだ」
「それはあるかもしれませんね。今でもいそがしいと感じることはありますから」
「じゃあ試しに役職を作ってみようぜ。カジさんはクラフト担当として、魔獣対策や果樹園のことはそれぞれ別の妖精に任せるんだ」
「それだと私は余っちゃいますよ?」
「アメリアはみんなの長としてそれらの役職を統括するんだ」
「私がですか?」
アメリアが目をぱちくりさせる。
想像もしてなかったような表情を前に、俺は小さく笑った。
「他に誰が適任なんだ? 君はずっと村のために奔走してきた。トップに据えるならアメリア以上の適任はいない」
「でも、みんなは納得するでしょうか」
「今まで反対を受けたことはあるのか?」
「ありません。みんなこころよく任せてくれました」
「それは信頼されてる証だろ。仮に面倒ごとを押しつける意図があったとしても、アメリアさんはみんなのために率先して動いたんだ。俺だったらそういう人に上に立ってもらいたいな」
アメリアが考えるように口元を引き結ぶ。
やがて花開いたような微笑を浮かべた。
「分かりました。村のみんなに相談してみます」
「そうしてくれ」
ひとまずここでやれることはやった。そろそろログアウトするか。




