第27話 運営視点
そこはクラフトマギアの運営本部。無機質なフロアに高価な機器が並んでいる。
モーター音をBGMにして一人のスタッフが目をぱちくりさせる。
「おい、試練の洞窟もうクリアされてるぞ」
「へえ、そりゃすごいな。近日中に出るとは思ってたがもうクリアしたのか」
「どうせトップクランのパーティでしょ?」
「いや、無所属のプレイヤーだ。それもソロでクリアしてる」
「はあ?」
男性がすっとんきょうな声を上げてモニターをのぞき込む。
画面に表示されているのはログ。ダンジョンをクリアしたプレイヤーとその詳細が記されている。
「うわ、本当に一人でボスエネミー倒してる。てかこいつフトシじゃん」
「このプレイヤーのこと知ってるのか?」
「逆にお前知らないのかよ。ゲーム内外の掲示板でフトシフトシ言われてるのに。そもそも第一回イベントで優勝した中の一人だぞ。ハイポーションをたくさん作って話題になっただろ」
「ああ、あのクラフターか。じゃあ評価Sのクラフト品で固めたんだな。それにしたってソロ踏破はエグいけど」
「エグいというか不可能だろ。そういうふうに作ったんだから」
「不可能じゃないと思うぞ。こいつエーテライトの儀礼剣使ってるからな」
「何ですって?」
スタッフの女性が目を細める。
「あの剣ってクラフト難易度すごく高いんじゃなかった?」
「ああ。何せエーテライト鉱石が必要だからな。入手確率を高めるイベントは設けてるけど確実じゃないし、何よりクラフトのミニゲームもめっちゃ難しい」
「ゲームがうまいスタッフですら評価S出すの苦労したもんな。『エーテルの矢』まで発現させたとなりゃクリアできたのもうなずける。で、どうするよ」
「どうするって?」
「エーテライトの儀礼剣は当分先にクラフトされる想定だったろ。こんなに速くレアアビ付きを作られたらバランスブレイカーにもほどがある」
エーテライト鉱石は超レア素材のアイテムだ。運よく入手したところで高難度のミニゲームがふたをする。レアアビリティの取得までこぎつけるのは困難だ。
ミニゲームに失敗したら大金はたいて二個目以降を購入し、何度も失敗した末に評価Sまでたどり着く。そこまでしてようやく取得できる代物だった。
このプロセスを達成するには相応に時間がかかる。達成する頃にはアップデートも進んでいる。エーテライトの儀礼剣には一歩およばないまでも、それに近い強さの装備が実装されている、はずだった。
この条件がそろっていない今、エーテライトの儀礼剣はただのぶっ壊れ武器だ。
「ナーフしろって言うの? このプレイヤーには何の落ち度もないのに」
「それでも下方修正は必要だろ。このフトシ、味をしめて試練の洞窟を周回してやがる。古代のスクロールを大量取得されたら差は開く一方だぞ」
「せめて第二回イベントが終わった後にしてよ。ただでさえいそがしいのに、作業が増えたらプログラムの作成に手が回らないわ」
「確かにな。見たところフトシは他のプレイヤーとあまり交流しない。放っておいても問題ないんじゃないか?」
「そうだな。今は第二回イベントの準備を進めるのが先だ」
スタッフがほっと安堵のため息をついて各自の作業に戻る。
近い将来フトシとそのペットが暴れまわることを、この時の運営はまだ知らない。
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