第26話 古代のスクロール
遺跡に転移して右に進むと洞窟が見えた。
洞窟内には松明が規則正しく並んでいる。炎を温かいと思いつつも少し不気味だ。怪物の口内を歩いているみたいで猛烈に引き返したい。
進んだ先には扉があった。覚悟を問うような重々しいそれを開いて進む。
広場があった。
石づくりの地面が広がるだけだ。壁には空間を照らす松明が飾られている。
チェアすら見当たらない。鞘を模したような装飾が妙に浮いて見える。
「エネミーいないじゃん」
後方でバタンと扉が閉じた。
地面に大きな影が映った。巨体が地面を鳴らしてその威容を露わにする。
「ごいつ、ゴーレムか?」
きら丸と会った洞窟のボスエネミーに似ている。
その一方で毒々しい結晶があちこちから伸びている。体が真っ黒な岩で構成されているから俺の格好よりも禍々しい。
こいつはやばい。
本能的に察して剣をかかげた。エーテルの矢を飛ばして先制攻撃を仕掛ける。
ゴーレムが真正面から突っ走ってくる。
飛来する矢をものともしない力強い突進。威圧的な容姿もあいまってすごい迫力だ。
「逃げろきら丸!」
「キュ」
受け止める気満々なでけえ丸を逃がして突進をかわす。
振り返るとでかい拳が地面を叩いた。大きな手が砕いた瓦礫を握りしめて振りかぶる。
「痛って!?」
礫を受けてHPが四割削れた。散弾のごとく広範囲に散るからかわすこともままならない。
この防具かなり強いのに。
何なら散弾の大半は外れたのにこのダメージ。至近距離で受けたら即死するんじゃないかこれ。
視界の左上に視線を振る。
相変わらずでけえ丸の方は大してダメージを受けてない。地面を砕き始めたらでけえ丸の後ろに隠れた方がよさそうだ。
リキャストが明けて矢を飛ばす。
最初のインパクトこそあったものの、魔法の類は使用しないようだ。落ち着いて対処すればどうとでもなる。
いける。
手ごたえを感じた時ゴーレムが背中を向けた。のしのしと歩いて壁の飾りに歩み寄る。
きら丸が背中を追いかけて追撃をかける。
岩の腕が鞘の飾りに向けてせいけん突きを繰り出した。
「何してんだあれ」
つぶやきの答えは、くずれた装飾から現れた先にあった。
「剣?」
大きな手が岩剣の柄を握りしめる。
ゴーレムが振り返りざまにでけえ丸を斬りつけた。
「きら丸!」
呼びかけながらHPバーを確認する。
満タン近かったHPが四割もっていかれた。斬撃はでけえ丸の弱点なのか。
すぐにハイポーションを取り出して投げかける。
「危ないと思ったらたくわえてるハイポーションを使うんだぞ」
「キュッ」
俺はきら丸の負担を減らすべく駆け寄る。
俺にはプライマルファーコートのアビリティがある。動きだけは玄人レベルなんだ。そう簡単にはやられない。
ゴーレムが腰を落とした。引かれた剣が黒いもやにおおわれる。
何かが来る!
「キューッ」
でけえ丸が俺とエネミーの間に入った。丸みある巨体の向こう側で黒と赤のエフェクトが散る。
視界の左上にあるHPバーが見る見るうちに削られる。
削りが速すぎる。今からハイポーションを準備しても間に合わない。
ペットのHPが0になったらどうなるんだ。まさか消えたりとかしないよな?
そんなの、そんなの嫌だぞ。
「きら丸ゥゥゥッ!」
視界内がまばゆさを帯びた。丸みのあるフォルムがひらひらしたものに変化する。
遺跡で一度見せた変身だ。左上に視線を振ると、HPバーの減少速度が急激に遅くなっている。
やがて禍々しいエフェクトが収まった。
受け切った。
察してきら丸の陰から飛び出した。剣をかざしてアビリティを発動する。
矢が飛んでいく横で金色の光が収束する。
「キューッ!」
視界を横断するように黄金の線が引かれた。
きらめきがエネミーの禍々しい様相をのみ込む。
「び、ビームぅ!?」
きら丸、いつの間にそんな男のロマンを!
光が弱まって広場が薄暗さを取り戻す。
黒い巨体がポリゴンと化して爆散した。祝うようなサウンドに遅れてCongratulationsの文字がどでかく表記される。
「すごいぞきら丸! 何だ今の!」
きら丸は言葉を話せない。
でもニュアンスは伝わったらしい。青緑に変わった巨体が振り返って得意げに反る。
目の前にリザルト画面が表示される。
あのエネミー固有の素材はないみたいだ。見覚えのある鉱石群に混じって見慣れない文字を見つける。
「古代のスクロール?」
何だこのアイテム。
一度リザルト画面を閉じてからアイテム欄を開く。
気になったアイテムの名前をタップすると詳細文が開いた。
『古代のスクロール』
古より伝わる魔法が秘められたスクロール。何が秘められているかはランダム。
「よく分からないが、すごいアイテムなのは間違いなさそうだな」
古代ってついてるくらいだし。
試しに使ってみよう。アイテムをタップして『使用する』のボタンに触れる。
発動したのは複製の魔法だった。
「複製って、コピーできるってことだよな」
きら丸からオーパーツBを受け取って魔法の対象に指定する。
オーパーツBの数が二個になった。
「すげえ、本当にできた」
オーパーツの数はまだ足りない。でも遺跡を探し回るよりはるかに効率がいい。
ここ、難しいけど最高においしい場所なのでは。




