第23話 一億鉱石ゲットだぜ
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「何しとる。先行くぞい」
「待った待った、俺も行くってば」
カジさんの背中を追いかける。
程なくして見慣れたエネミーが現れた。
でも色合いが違う。一部初見のエネミーも混じっている。
光の雨を降らせても一回じゃ終わらない。残ったエネミーに駆け寄って儀剣を振る。
剣を振って気づいた。
「感じが違うな」
自分の腕を見下ろす。
俺は剣道をしたことがない。戦闘に自信がなかったから今まで儀剣のアビリティに頼ってきた。
でも今、まるで数千回素振りをしたように体が動いた。
「もしかしてこのコートのおかげか?」
プライマルファーコートのアビリティは『本能の目覚め』。
説明文にはすごくあいまいなことしか記されてないが、コートを着てから覚えた違和感だ。原因はこれしか考えられない。
「便利だなぁ。着るだけで動きが洗練されるのか」
こりゃいい。体で動きを覚えれば別の服を着ても再現できる。戦いに不得手なプレイヤーの救済アイテムってわけか。
そうと分かれば回数を摘むだけだ。
「お、採取ポイント発見」
駆け寄ってピッケルを振るった。こぼれた鉱石がころころと地面の上を転がる。
回収しようと思って腕を伸ばすと鉱石が逃げた。
「ん」
俺は顔を上げる。
ネズミがいた。デフォルメされているが耳や手の形状から見て間違いない。
短い腕には俺が掘った鉱石が握られている。
「それ俺の」
告げるとネズミが鉱石をガリガリかじり始めた。
「そいつじゃ! わしのハンマー取っていったやつ!」
ネズミが背中を向けて走り去る。
「待て、俺の鉱石置いてけ!」
あわてて鉱石を拾い集めてから追いかける。
追いかけた先には部屋があった。ネズミが住み家にしているのか、光り物が一か所に集められている。
「もう逃げ場はないぞ獣め!」
カジさんがハンマーを構える。
俺は儀剣をかかげた。アビリティによる先制攻撃から近接戦闘に持ち込む。
ネズミの攻撃はかみつきにひっかき、たまに鉱石をほおばってからの射出。いずれも動きが素早くてHPが持っていかれる。
HPが削られすぎて視界が赤く点滅する。
「これはちょっとまずいか」
つぶやいた時だった。視界内から赤い点滅が失われる。
体がすっと軽くなった。
「キュッキュ~~ッ」
横目を振ると青緑に光るスライムがいた。
「きら丸?」
声色からして間違いない。
でも形状がだいぶ変わっている。ひらひらしたパーツが増えて、頭上にある輪っかがほのかな金色を発している。さながら天使みたいな様相だ。
変身。そんな言葉が脳裏をよぎる。
「もしかしてハイポーションをたくさん食わせたからか?」
当初は俺ときら丸だけで遺跡に潜る予定だった。
他プレイヤーからの助力は望めない状況だ。俺はきら丸にたくさんのハイポーションをたくわえさせた。その備えが意図せず『変身』発動条件を満たしたらしい。
今回の変身でもたらされたのはHPの回復効果。こうしている今もHPが少しずつ回復していく。
ネズミの動きは早いけど、一撃もらった時のダメージはそれほどじゃない。連続で受けなければ回復は間に合う。
後は消化試合だった。ネズミが光の雨を受けて霧散する
ハンマーが重力に引かれて石の地面に落ちた。
「わしの鍛冶ハンマー!」
カジさんが走ってハンマーを拾い上げる。
「よかったなカジさん」
「ああ、お前たちのおかげじゃわい。これでまた色んな物を作れるぞい」
部屋の奧には、ネズミが拾い集めたであろう光り物がある。
俺はカジさんとネズミの収集物を物色する。
「何だこりゃ」
カジさんが丸っこい物を持ち上げる。
それは見覚えのある色合いをしていた。
「これ、妖精界にある装置と似てるな」
「お前さん妖精界を知っとるのか?」
「ああ、この間招待されたんだ。その言い分だとカジさんも知っていそうだな」
「妖精とドワーフは色々あったからの。自然を重んじる妖精と技術やクラフトを重んじるドワーフ。そりゃ仲良くおててつないでとはならんよ」
「つまり仲が悪いってことか?」
「と言うより反りが合わなかっただけじゃな。ところでさっき妖精界に装置があると言っておったが、それは本当か?」
「ああ。ちょうどカジさんが持ってるような機械があった」
「妖精が住まう世界に機械じゃと? 見たい! わしをそこにつれて行け」
「でも妖精と反りが合わないんだろ?」
「安心せい、別に憎み合ってはおらん。それにお前さんは困っとるんじゃないか? 妖精界にまともな技師が要るとは思えんし、せっかく見つけた機械を持て余しておるんじゃろ」
「それは、まあ」
「決まりじゃな。そうとなればこんな遺跡とっととおさらばするぞい」
「え、決まったの今」
俺まだ返事してないのになぁ。
まあいいか。アメリアたちも謎の機械があると落ち着かないだろうし、一度見せてみるのもいいだろう。
俺たちは元来た道を戻って遺跡を出た。
「そうじゃ、同行してくれたお礼をしてなかったな。これやるぞい」
カジさんが籠から青白い鉱石を引き抜いた。
俺は目を見開く。
「くれるの⁉ それを!?」
「ああ。欲しそうじゃったろ」
「そりゃ欲しいけど、これ一億鉱石だぞ? そんな簡単に手放していいのかよ」
「構わん。人の間じゃ価値ある物かもしれんが、今のわしにとっちゃ石ころでしかないからの。あとその俗な呼び方はやめい」
俺は鉱石を受け取る。
一億鉱石、じゃなかった。エーテライト鉱石がこんな形で手に入るなんて。きら丸も心なしかうれしそうだ。
「んじゃ妖精界につれて行ってくれ」
「分かった分かった。つれて行くからそう焦るなって」
俺は鉱石をポーチに収める。
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