第22話 ドワーフとの遭遇
オオガワからチャットをもらった。新エリアを一緒に探索しないかとのことだ。
『筋肉最高』のクランメンバーも同行する。顔を合わせるのは第一回イベント以来か。
俺はOKの返事を出して準備した。きら丸にアイテムをたくわえさせてでけえ丸を爆誕させた。
「よーししゅっぱーつ!」
「キューッ!」
俺はマイルームを出て待ち合わせ場所の広場におもむく。
噴水の前でオオガワたちを見つけた。
「おっす」
「よっす。きら丸もキュな」
「キュ」
「てかどうしたんだそのファーコート。かっけえじゃねえの」
「だろ? ゴリラの素材から作ったんだ。これでもうフトシなんて呼ばせないぜ」
「そうか。よかったなフトシ」
全員そろって街を出る。
談笑しながら歩いた末に大きな石の建造物が目についた。外壁をうめつくす苔や蔓が年月の経過をうかがわせる。
「風格ある遺跡だな」
「だろ? 何かいいの眠ってそうだろ」
期待に胸おどらせて石の階段を上ると、前方に中へつながる入り口が見えた。
慎重に石の階段を下りる。
中に入ると明るさが確保されていた。通路の両側に一定間隔で並ぶ鉱石が光を発しているようだ。
「フトシはあれからどうよ。どっかのクランに入ったか?」
「いいや。クランに入っても基本クラフトと素材集めしかしないし」
「さすがクラフトぐるいだな。まあクランに入ると集会や強制参加とかあるだろうしなぁ」
通路に乾いた音が鳴り響く。
通路の角からガイコツが現れた。三つの人型が剣を持って駆け寄る。
オオガワたちが武器を構える。
「そういやフトシってパーティでの狩りやったことあるか?」
「ない」
「じゃ基本的なことだけ教えるぞ。最初に盾持ちが前に出るから、エネミーが前衛を攻撃し始めたらエネミーの横や後ろから叩くんだ」
「魔法使う場合はどうするんだ?」
「それも前衛がヘイトを取ってからだな」
「分かった」
「じゃ行ってくる」
オオガワがガイコツに向かって突撃する。
攻撃の許可が出て剣をかかげた。光の雨がガイコツの頭蓋を打って灰に変える。
オオガワのフレンドが目をぱちくりさせた。
「え、なに? 何が起こったの」
振り返ったオオガワの顔には笑みが浮かんでいた。
「今の魔法すげーじゃん! マッスルいつ覚えたんだよあんな魔法!」
「いや俺じゃねえよ」
「じゃバンプか?」
「違う」
オオガワの視線が俺に向けられた。
「もしかして、お前?」
「ああ」
「お前メイジだったの? 剣持って鎧着てるくせに?」
「ファーコートのくせに?」
「ファーコート関係ないだろ。この剣には光の雨を降らせるアビリティがついてるんだ」
「何だそりゃ。その剣俺も持ってたけど雨なんか降らなかったぞ」
「そうなのか?」
「ああ。状態異常を治すことしかできなかった」
それは知らなかった。
儀剣の素材になったシャインライト鉱石はレア鉱石だ。一本しか作ってないし二本目以降は作ろうとも思わなかった。
クラフトの評価がアビリティに作用することもあるんだなぁ。
「状態異常治すのもすごいじゃん」
「バカいえ。状態異常治すならそういうアイテムかメイジの魔法で十分なんだよ」
「範囲攻撃できる魔法も使えるんだろ?」
「消費MPが多いから普通は連発できねえの。アビリティって話だし、どうせMP消費しないんだよな?」
「ああ。リキャストだけだ」
「はー、やっぱすげーなクラフト品。評価Sになるとそんなアビリティつくのか。いくらここのエネミーが光属性に弱いったってぶっ壊れじゃね?」
「いつかナーフくるかもな」
俺たちは歩みを再開する。
「ナーフってなんだ?」
「下方修正だよ。高すぎる性能を修正して低くすんの。雑魚エネミー相手とはいえワンパンできるのは明らかに強いし、いずれクラフトには手が入るだろうなぁ」
「ミニゲームを遊べなくなるってことか⁉」
それは困る。ミニゲームをやるためだけにクラマギやってるのに!
オオガワが苦笑いした。
「いや、ミニゲームはいじらないだろ。レアアビの性能が下方修正されるかもしれないってことだ」
「なんだそっちか。驚かせるなよ」
「おいおい、いいのかよ。評価S出してもいい物作れなくなるかもしれないんだぞ」
「別にいいや。俺は面白いミニゲームができればそれでいい」
ついでに言うなら、作って売ってまた作ってのサイクルが乱れないならそれでいい。
「お前フトシだなぁ」
「何当たり前のこと言ってんだよ」
「いや、俺もフトシ呼びしたくなってきてさ」
「してるだろさっきから」
ガイコツやコウモリ型のエネミーを相手しながら通路を進む。
前方に発掘ポイントを見つけた。解放感のない閉所だから一種のご褒美にすら見える。
「行くぞきら丸!」
「キュッ!」
きら丸と鉱脈に走ってピッケルを取り出す。
転がる鉱石をきら丸にたくわせさせて次のポイントへ。金属質な音を聞きながら新たな鉱石をむかえ入れる。
「お前戦闘の時よりも楽しそうだな」
「実際楽しいからな。知ってるか? 作る物によってミニゲームの内容全然違うんだぞ。花火が散ったり輪っかがぐるぐるして楽しいんだ」
「クラフトのミニゲームってそういう感じなのか。一回やったことはあるけど苦手意識ついてやってねえんだよなぁ」
「もったいないな。あんなに楽しいのに」
「楽しいのは思い通りにエクセレント出せるやつだけだろ」
鉱石の発掘を終えて再び移動する。
さらなるアイテムを求めて奥を目指したものの、途中で引き返す判断を下された。オオガワたちのポーチが所有数の上限をむかえたようだ。
俺はきら丸がいるからまだ余裕がある。
それを踏まえた上で引き返す判断に従った。
何だかんだエネミーに回復アイテムを使わされた。一人残ってもできることがない。
「んじゃ先落ちるわ」
「お疲れー」
オオガワたちと遺跡の外で解散した。
俺は一度マイルームに戻った。倉庫に詰めておいた回復アイテムを取り出してポーチに突っ込む。
きら丸にはハイポーションをありったけ食わせた。
「これでよしと」
俺はきら丸を連れて遺跡に戻った。
さっきの探索で少し疲労感がある。休憩がてらに遺跡の近くでテントを張った。
ランタンの灯りに照らされながらつまみを口に運ぶ。
「こんばんは」
俺はビールをあおりながら横目を振る。
しわがれた声の主はおじいさんだった。
背丈が小さい一方で立派なヒゲをたくわえた人型。これはドワーフってやつか。
頭上には三角のアイコンがある。NPCと見て間違いない。
「こんばんは」
「めずらしいのう、こんなところでキャンプとは」
「遺跡に潜る前に休憩しようと思いまして。ここは色んな鉱石がたくさん採れて楽しいんですよ」
「そうじゃな、わしもよく通っていた。愛用していたハンマーを奪われるまでは」
「奪われたんですか」
「ああ。以前ヘマをやってな、巨大な獣に盗まれてしまった。取り返しに潜っては追い返される日々を送っておる」
「それは辛いですね」
「まあな。お主冒険者じゃろ? よかったら一緒に行かんか」
目の前にウィンドウが浮かび上がる。
クエストだ。ドワーフの老人についていくかどうかを問いかけている。
そろそろ出発しようと思っていたところだ。断る理由はない。
俺は『はい』の文字に触れた。
「ありがとう。私はカジだ」
「フトシって呼んでください。こっちはきら丸」
「スライムか。妙に大きいな」
「きら丸はアイテムをたくわえられるんです。大きくなるだけじゃなくて強いんですよ」
「キュッ」
「おお、それは頼もしい」
俺はテントをたたんで石の階段を上った。午前中と同じく入り口から遺跡に入る。
午前中とはまた違った雰囲気がある。
何というか、お化けが出そうだ。何度もガイコツと遭遇した身で何言ってんだって話だが。
「カジさんはどんな戦闘スタイルを取ってるんだ?」
「わしはハンマー一筋じゃよ。鍛冶でハンマーを振るってきたせいか、ハンマーがないとどうも落ち着かなくてな」
「じゃエネミーが出てきたら俺が最初に攻撃するからさ、カジさんは雨が降ったら攻撃してくれよな」
「雨?」
通路の角からガイコツとでっかいダンゴムシが現れた。
「んじゃ行くぜ」
俺は剣をかかげてアビリティを発動した。光の雨がエネミーに降り注ぐ。
「何と、人間は珍妙な術を使いおる」
ガイコツが蒸発した一方でダンゴムシは健在だ。転がって通路の床をゴロゴロ言わせる。
「ぬうぇい!」
カジさんがハンマーを振りかぶって正面から打った。
ダンゴムシが通路の壁に跳ね返って無防備にお腹を見せる。
ハンマーの一撃がもがくダンゴムシをポリゴンに変えた。
「カジさんつええじゃん」
「当ったり前じゃい。まだまだ若いもんには負けんぞい」
カジさんが得意げに力こぶを作る。
本当にムッキムキだ。オオガワに紹介して筋肉最高のクランに入れてやりたくなる。
新たな採取ポイントに到着してピッケルを振る。
視界の左端からムッキムキな腕が伸びた。
「貸してみい」
「ほい」
ゴツゴツした手にピッケルを手渡した。
カジさんが力いっぱいピッケルを振り下ろす。
水色の光を発する鉱石が地面の上を転がった。
「これ、一億鉱石!」
まじかよ! あのアイテムってここで得られるものだったのか!
カジさんが瞳をすぼめる。
「何じゃい、その俗世にまみれた名前は。これはエーテライト鉱石じゃ。勝手に変な呼び名をつけるでない」
引き続きカジさんがピッケルを振るう。
さすがに二個目は出なかったものの、平均してレア目な鉱石が続いた。
カジさんが自身の籠に鉱石を放り込む。
「すごいな。何かコツとかあるのか?」
「経験じゃな」
「どうしようもないじゃんそれ」
気を取り直して石の地面を歩く。
歩いているとカジさんに腕を引かれた。
「どこへ行く。こっちじゃこっち」
「え、でもそっち行き止まりじゃん」
視線の先にあるのは行き止まりの通路。ふたを開けた宝箱があるだけだ。
「こっちに隠し通路がある。こっちからでないと奴が逃げた部屋には行けんのだ」
「そんな隠し部屋あったのかよ」
知らなかった。オオガワたちも知らないんじゃないか? これ。
カジさんが腕を振りかぶってハンマーを振るう。
石の壁が砕け散った。あらわになった階段が闇をのぞかせる。
「その壁わざわざ作り直したのか?」
「そんなことせんわい。気がついたら修復されとるんじゃよここ」
「遺跡の神秘ってやつか」
階段を下った先には相変わらずの通路。
その一方で通路を構成する石の色合いが暗い。闇に浸食された道を歩くみたいで不安になる。




