第2話 男の子のロマン
土曜日。
休日出勤なし! 最高の気分だ。
早速クラフトマギアにログインしてショップを確認した。
「まだ売れてないか」
木製の剣や銅の剣はまだ残っている。初心者用の武器なのがまずかったか。
初心者は始めたばかりだからゲーム内通貨を持ってない。プレゼントボックスに入ってた額だってクラフト数回分だ。買い物には慎重になるのもうなずける。
しかし困った。
昨晩の内にゲーム内通貨は使い果たしてしまった。このままじゃクラフトできない。
評価がいいから相場よりも高めの値段にしたけど、ちょっと冒険しすぎたかな。
でも最低価格で売ったところで次が続かない。
「自分で素材を集めるしかないかぁ」
戦闘に自信はないけど仕方ない。出品していた木製の剣を取り下げて装備する。防具は初心者に向けた配布一式だけど大丈夫だろう。
俺はマイルームを出て街に転移した。
視界がアバターで埋まる。
すごい人数だ。これ全員クラフトマギアのプレイヤーなのか。一種の感動すら覚える。
俺はチュートリアルで覚えた狩り場に向かう。
広々とした草原にスライムが点在している。ぷるんとした体はいかにもやわらかそうだ。木製の剣でも倒せそうな安心感がある。
「行くか」
木剣の柄を握って駆け寄る。
小細工を抜きにした上段からの振り下ろし。くらえ!
「キュー」
一刀両断。
すごい威力だ。単に相手が弱いだけかもしれないけど。
得られたマニーや素材も微々たるもの。強いエネミーを倒さないと効率が悪くて仕方ない。
俺はさらに足を進める。
イノシシがいた。前足で地面をかいて駆け寄ってくる。
真正面から突進を受ける度胸はない。接触の寸前で横に飛ぶ。
「おわっと」
わき腹をかすめたけどダメージは微々たるものだ。
お返しとばかりに背中を斬りつける。
イノシシが悲鳴を上げて体勢をくずした。
即座にたたみかける。
エネミーがポリゴンと化して砕け散った。
「やっぱこの剣すごくね」
イノシシといえば筋肉だるま。スライムよりも体力があったはずだ。
なのに一回斬りつけただけで体勢をくずした。アビリティ【新たなる風】の効果に違いない。
「イノシシの毛皮か。コートとかに使えんのかな」
ファーコートにするのも悪くない。後輩の女性社員にかわいいって言われるくらい威厳がないし、コートでも何でも羽織って風格を出さないと。
目的ができた。とりあえず毛皮が得られそうなエネミーを片っ端から狩っていこう。
「お、あっちに森があるじゃん」
樹木にまみれた空間に踏み込む。
歩を進める内に頭部サイズの虫が飛んできた。
「カナブンっぽいなこいつ」
ぶ~~んと飛んでくる巨体を避けて木剣でたたく。
一撃で墜落した。巨大昆虫が素材とマニーを吐き出して砕け散る。
寄ってくる虫を払いながら進んだ先には、天を衝かんとばかりに伸びた大樹が乱雑に根を生やしている。
樹液のある箇所に見知った形状の虫がいた。
「カブトムシ!」
あの雄々しく伸びた角は間違いない。男の子のロマンがそこにある。
獲らねば。
角を得ねばならぬ。元男の子として。
「でもどうやって登るんだ?」
俺木登りとかしたことないんだけど。
そうだ。俺の存在を知ったらさっきのカナブンみたいに寄ってくるはず。
「おりゃあああああああっ!」
樹木の幹を蹴飛ばす。
微動だにしねえ。何だこの樹木、鋼鉄か何かでできてんのか?
今度は助走をつけてのショルダータックル。
やっぱり駄目だ。
というか痛い。視界の左上にあるHPバー削れてる!
肩から伝わる振動で余計に苛立ちがつのる。
「このっ!」
木剣で幹を斬りつけてやった。樹皮の破片が弾け飛んで地面に落ちる。
ひらめくものがあった。
「これだけ硬い樹皮ならぶつければ痛いよな」
俺は樹皮を拾い上げて腕を振りかぶる。
「とどけ、この想いッ!」
カブトムシのケツに向けて破片を投げた。
こちとら高校までは野球やってたんだ。制球には自信がある。
狙い通りカブトムシのケツに当たった。樹液をなめていた虫が振り返る。
「よっし来い!」
木剣を構える。
カブトムシが飛び立った。上から雄々しき角が迫る。
すごい迫力。でも一直線ならかわすのは難しくない。
横に飛んで避ける。
雄々しき角が土の地面に深々と突き刺さった。
「チャーンス!」
木剣でたたきまくった。角がドロップしてガッツポーズを取る。
樹液にはまだ多くの虫が集まっている。一体ずつおびき寄せてたたけば安全に狩りができる。
俺はまた樹皮を投げる。
日が暮れる頃にはマニーとアイテムがたんまり集まっていた。
「何かいいのないかなーっと」
フトシが虫を狩っている頃、男性プレイヤーがショップを利用して商品を探していた。
レベルは1。一見初心者ではあるものの、クラフトマギアにはジョブがある。
騎士、魔法使い、錬金術師。種類は様々あるが、転職した時点ではいずれもレベルが1になる。
彼は前の職を遊ぶうちに初期装備を売ってしまった。装備がないとレベル上げに支障が出るため、ショップをのぞいて手頃な装備の購入を考えていた。
「いいのないな。やっぱ転職する人が買い占めたかぁ」
告げながらウィンドウを指でスクロールしていると、一つの商品が目にとまった。
「木製の剣か。何か変なアビリティついてんな。【新たなる風】か。レベル20までステータス上昇って、マジか! 転職とめっちゃ相性いいじゃん! というか木製の剣にどうやってこんなアビリティつけたんだ」
男性は興味に駆られて出品者の名前をタップする。
他に出品されている品が並んだ。
「これも、これも、全部見たことないアビリティついてる。初心者用の武器しか売ってないのにどうなってんだ。っと、早く買い占めないと売れ切れちまう」
男性は商品を全部購入した。
「とんでもないショップ見つけちまったかもな。クランの連中に自慢してやろ」




