第18話 俺のペットすごすぎ?
選んでしまった。男の子のロマンを。
まあ押しちまったものは仕方ない。自分を納得させるようにつぶやいてマイルームに戻った。
「キュッ」
何をしようか考えながらマイルームに入った時だった。俺は足を止めて振り返る。
でけえ丸が建物の入り口につっかえていた。
「アイテムをあずけすぎるのも考えものだな。ちょっと待っててくれ」
「キュ~~」
悲しげな鳴き声を耳にしつつ、ポーチ内のアイテムを倉庫に預ける。
「きら丸、触手をここまで伸ばせるか?」
「キュ」
きらきらした触手が伸びた。触手の先端からアイテムボックスへとアイテムが落ちて消える。
でけえ丸がきら丸に戻った。小さなスライムがぴょんぴょんと玄関に入る。
「おかえりきら丸」
「キュ」
きら丸と温室に踏み入る。
畑に植えた植物が急成長して黄色の花をつけていた。
「お、ほんとに成長してる!」
きら丸と収穫に取りかかった。手分けしてシトリンローズを採取して回る。
植えた数の倍以上を収穫できた。種子一つから二つ以上のアイテムを収穫できるみたいだ。
早速クラフトとしゃれ込みたいところだけど。
「まずは数を確保した方がいいか」
全属性耐性のアビリティがあるかどうかは分からない。仮にあるとしてもレアアビあつかいだろう。目的のアビリティがつくまでクラフトを繰り返す必要がある。
それを実現させるためには在庫を確保しないと。
「こういう時レアめの素材だと面倒だな」
得たアイテムを種子に変換して畑に植え直す。
別の防具に考え直したくなるものの、レアなアイテムを素材として使うからには性能もいいはず。クラフトできる時が楽しみだ。
シトリンローズの種子を植え終えて一息ついた。
「成長を待ってる間に武器の方も決めておくか」
結局アイデアは浮かんでない。
非力な妖精に持たせるって時点で武器種は限られるけど、特別何かを注文されたわけじゃないから選択肢が多すぎる。
「オオガワにでも相談してみるか」
増殖の意図を兼ねてきら丸に『エメラルドバタフライの羽』をたくわえさせる。
電子音が鳴り響いた。目の前に受話器のアイコンが浮き上がる。
相手の名前が表記されて目を見張る。
「サグミさん?」
俺に何のようだろう。
応答するなりツリ目がちな女性の顔が表示された。
「こんにちはフトシさん。今時間いいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「よかったぁ。今ちょっと暇してて、クラフトの手ほどきをお願いしたくてコールしたんです」
手ほどきか。確かに約束したことを覚えている。
教えてあげたいところだけど、いつスプリガンが攻めてくるか分からないしなぁ。
「待てよ、そういえばサグミさん復帰したって言ってたな」
ってことは俺よりもクラフトマギアに詳しいはず。彼女の意見は参考になりそうだ。
「いいよ。どこに集まる?」
「私のマイルームに来てください。今から招待コード送ります」
「分かった。よろしく頼む」
秒とせずコードが送られてきた。
俺はコードを入力してきら丸と転移する。
白一色に染まった視界が他の色を取り戻すと、そこは見慣れない草原が広がっていた。花壇に色とりどりの花が植えられていて華がある。
正面には暖色の建物。俺のマイハウスと比べるとすごくおしゃれだ。
俺は玄関のドアをノックした。
「はーい今出まーす」
カチャと鳴ったドアが整った顔立ちをのぞかせる。
「いらっしゃい。どうぞ中に入ってください」
「お邪魔します」
告げて玄関に入った。サグミさんが腰を落としてきら丸にもあいさつする。
「きれいな家だな。自分で模様替えしたのか?」
「はい。こういうの好きなので」
サグミさんのアトリエに踏み入る。
やっぱりアトリエの方も内装が違う。作業場を思わせる堅苦しい印象とは無縁。かわいい魔女と妖精がたわれむていそうな雰囲気だ。
「ここでクラフトするの楽しそうだな」
「ありがとうございます。こだわったので褒めてくれてうれしいです」
サグミさんが照れくさそうに笑う。
微笑ましい心持ちで眺めているとサグミさんが向き直った。
「えっと、何をしましょうか」
「まずはクラフトするところを見せてくれ」
「分かりました」
サグミさんが素材をツボに入れてミニゲームに挑む。
作るアイテムはポーション。ミニゲームは簡単な内容だ。
でもエクセレント評価は出ない。せいぜいグッド止まりでミニゲームが進む。
評価Cのポーションができ上がった。
「どうでしょうか?」
「あーえっと」
駄目です。
なんて言えるわけがない。もっとこうオブラートに包まないと。
「サグミさんは普段どんなふうにしてクラフトやってる?」
「どんなふうにって、普通にやってますけど」
そりゃそうだ。
らちが明かない。聞き方を変えよう。
「サグミさんはノートを見てミニゲームやってるだろ」
「ノート?」
「落ちてくる玉のことだよ」
「そんなの当たり前じゃないですか。見なきゃ判定ラインと重なるタイミング分かりませんし」
「それじゃ難易度が上がった時に目が追いつかなくなる。見る時はちらっとだ」
「それ人間業じゃないでしょ」
「んーじゃ俺がやってみるから見ててくれ」
「分かりました。じゃ素材入れますね」
サグミさんがツボに薬草を放り入れた。
俺は雨粒のごとく降り落ちる玉を片っ端からエクセレントに変える。
少しずつノーツの数とスピードが上がるものの、作るアイテムがポーションだと手ごたえがない。
あっさりフィニッシュ評価S。
人の素材を使ってミニゲームするのは不思議な気分だ。
「な? こんな感じだ」
「どんな感じですかさっぱり分かりません」
「あれ、見てなかったのか」
「見てましたよ。途中からすっごい速さでボタン押しまくってたことしか記憶に残ってません」
見稽古失敗かぁ。きら丸の時はこれでうまくいったのに。
もしやきら丸が天才だっただけのパターンか? 俺のペットすごすぎ?
いけないいけない、ついきら丸の自慢をしたくなってしまった。
相談してくれたサグミさんのためにもしっかり考えないと。
「まずは小さな目標を立ててみたらどうだ? 例えばノーツをじーっと見つめないように心がけてプレイするとか。後はエクセレント評価を最低一つ出すことだな」
「そうですね、分かりました。アドバイスされたことを踏まえて自主練してみます」
まじめな人だなぁ。知り合った当初の佐原もこんな感じだった。
なつかしい。いつ頃から甘噛みしてくるようになったんだっけ。
「そうそう、サグミさんに聞きたいことがあったんだ。小さな子供に武器を持たせたいんだけどいい物ないかな」
「小さい子供というと五歳くらいですか?」
「そんなところだ」
「だったら分かりやすい武器がいいでしょうね。こん棒や斧はどうですか? 剣や槍は技術が必要ですけど、今言った二種は振るだけでいいので楽って聞いたことあります」
「できればそういうのは無しで頼む。か弱い子なんだ」
「そうなんですか。じゃあアビリティつきのアイテムはどうです?」
「シャインライトの儀剣みたいな? あれ重いからどうかな」
「軽いのがいいなら指輪もありますよ。はめておくだけで使えますし、サイズは装備者に合わせて自動調節されます」
「それいいな! ありがとう探してみるよ」
「こちらこそアドバイスありがとうございました。時間がある時またお願いしてもいいですか?」
「もちろんだ。その時までにこっちも練習メニューとか考えとくよ」
「助かります」
俺は別れの言葉を交わしてサグミさんのマイルームを後にした。




