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【祝10万PV達成】音ゲーマスターのおっさん、VRMMOのクラフトで評価Sを連発して無双する  作者: 磯野カジキマグロ


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第17話 へ~~んしん!


 歩き回ってシルフ族の村周辺の地形を把握した。


 俺が装備を届けるまでにアメリアたちが襲われるかもしれない。避難場所の設置を提案してから妖精界を出た。


「何で俺クエストやってんだろ」


 レア素材を求めて探索したのに、気がつけば妙なクエストを受けてしまった。


 とんだ脱線だ。岩が飛んでくるミニゲームは面白かったからプラマイゼロだが。


 それに時間が経てばレア素材の供給量が増える。クエストが一区切りする頃にはお求めやすい価格になってるかも。もしかしたらすでに価格が暴落してる可能性だって。


 期待に胸を高鳴らせて街に戻った。オンラインショップを開いてレア素材の値段を確認する。


「まだ一個しか出品されてないし」


 しかも不動の一億。論外だ。

 

 今度は売られている武器防具を眺める。


 アメリアたちでも持てる武器と魔法耐性のある防具。検索をかけてみたけど目ぼしい物は見当たらない。せいぜい炎耐性がある物品くらいだ。


「炎耐性アップは効果が限定的すぎるよなぁ」


 炎属性があれば水や雷だってあるはずだ。相手が何属性を使うか分からない以上はまんべんなく対策するしかない。


 武器も妖精が持つことを考えると小さい方がいい。


「何かいい感じのやつないかなぁ」


 画面をタップしながら思考をめぐらせる。


 やがて気づいた。


「なけりゃ作ればいいじゃん」


 ショップに並ぶ商品の大半は評価Aにすら満たない。それどころかろくにクラフトされてない物ばかりだ。


 そんな品に炎耐性がついている。だったら評価Sでクラフトすれば全耐性がついてもおかしくない。


 そうと決まれば何を作ろう。妖精が着るんだから軽い方がいいよな。


「コート、はだめか。羽を動かす時邪魔になるし」

 

 妖精にとっての羽は足そのもの。羽の動きを阻害したら回避もおぼつかない。


「背中が大きく開いた服ってなるとドレスか」


 女性用の装備を検索してドレス系の防具を見つけた。


「バラフライドレスか。素材はっと」


 クラフトのレシピを探す。


「あった」


 名前のとなりに『!』のマークがついている。さっき探索した密林の素材を使うようだ。


 でも素材になる『シトリンローズ』の数は十に満たない。シルフ全員に配れる頃には何回夜が明けることやら。


「せっかくだし畑に植えてみるか」


 課金して追加された畑は植物の成長を促進する。密林を駆け回ってかき集めるより早いかもしれない。


 俺はきら丸とマイルームに戻った。特別温室に入って土の近くでしゃがみこむ。


 ウィンドウが開いた。植えられるアイテムの名前が縦一列に連ねられる。


「よし、シトリンローズは植えられるな」


 アイテムの名前を人差し指でタップする。

 

 土の上に種子が植えられた。種はアイテム一個を消費して植えられる仕様のようだ。


 ひとまずシトリンローズをありったけ植えた。再び密林におもむいて今度は蝶型エネミーを探す。


 見つけるまでの暇潰しに植物や鉱石を採集していると、視界内にひらひらした物が映った。

 

「あれかな」


 宙を頭部大の蝶が三匹ほど舞っている。


 儀剣をかかげて開戦だ。光の雨を受けて蝶が俺たちに向き直る。


「キュッ」


 でけえ丸が前に出た。触手を振り回して蝶の足止めをする。


 シャインライトの儀剣による光雨のリキャストは十秒。視界の隅にセットしたアラームで確認する。


「きら丸、下がってくれ」

「キュッ」


 ぷるんとした巨体が飛びのく間にクールダウンが終わった。


 俺は再度儀剣をかかげて範囲攻撃を行う。


 三匹のエネミーがポリゴンとなって砕け散った。リザルト画面がドロップアイテムを表記する。



『エメラルドバタフライの羽』×3

緑色の大きな羽。ひらひらしているが耐久性は抜群。家具や衣服の素材に用いられる。


 

「よし、まずは三枚ゲットだな」


 まだまだ足りないけど密林で得られることは分かった。後は走り回ってエネミーを見つけるだけだ。


 蝶は花のある場所に集まるのが常識。


 あちこち樹木だらけで視界は悪いが、密林の花はどれも派手な上にでかい。探し出すのに苦労はしない。


 もちろんアイテムの採取も忘れない。


 羽が目的の枚数集まる頃にはでけえ丸がご立派になっていた。


「いやーほんと……でかいな」


 すでに俺の頭を越してやがる。立派に成長してくれて俺はうれしいよ。


 まあアイテムを回収したら元に戻るんだけど。


「一応聞くけど苦しくないか?」

「キュッ」


 返事はいつも通りの声色。特に不調はないようだ。


 出合った当初は限界までため込んでもご立派にならなかった。レベルが上がるとアイテムの所有上限も上がるんだろうか。


 ズシンと地響きが鳴る。


 地面が微かに揺れる。振動の原因が規則正しいテンポでどんどん迫ってくる。


「何か近づいてくるな」


 俺は剣を構える。


 前方に大きな人型が映った。見覚えのある巨体が俺を見つけて向き直る。


「出たなゴリラ。あの時はずいぶん世話になったじゃねえか」


 岩を投げてくれたおかげで妖精界に入れた。そう考えれば恩人ならぬ恩獣だ。

 

 でも岩は岩。当たったらどうなるかなんて獣でも分かる。後半は真っ赤になって投げつけてきたし、俺たちに敵意があったのは間違いない。


「お返ししてやらなきゃな。痛い目見せてやるから覚悟しろ」


 ゴリラが二本の足で立ち上がった。両の拳を胸にたたきつけて大きな音を響かせる。


 そのドラミングが開戦の合図となった。俺はシャインライトの儀剣をかかげる。


 光の雨に構わずゴリラが突っ込んできた。足に絡みついた雑草を引きちぎってダイナミックに迫る。


 でけえ丸が前に出た。ムチのごとく振るわれた触手と剛腕がぶつかる。


 腕力の差は歴然。触手が一方的に弾かれた。


「やっぱ肉弾戦は分が悪いか」


 拳を受けたでけえ丸が地面の上を転がる。


 ゴリラが俺に向けて一歩踏み出した。


「うおっ」


 あわてて横に飛ぶ。


 大きな手の平が俺のいた地面をならした。飛び散る小石がその威力を物語る。


「危ねえなおい!」


 儀剣のクールダウンまであと三秒。歩幅差があるから距離を空けるのも難しい。


 でけえ丸がゴリラの足に体当たりする。


 巨体がよろめいてあお向けに倒れた。


「ナイスだきら丸!」


 クールダウンが終わった瞬間に光の雨を放った。ゴリラの頭上に無数の光が降り注ぐ。


 やっぱり効果は薄い。ゴリラが痛がる素振りも見せずに腕を振りかぶる。


 大きな丸い体が樹木の幹にぶつかった。


 今ので拳を受けたのは二発目だ。さすがにやばいと思って視界左上のHPバーを見る。


「あれ」


 でけえ丸のHPは三割ほどしか減ってない。


 攻撃がダイナミックだからすごいダメージが入ってると思ってたけど、実はそうでもないのか?


 でも地面は簡単に潰れた。雑草を引きちぎったし岩も軽々持ち上げる。そんなゴリラの攻撃が弱いわけない。


「もしかしてきら丸は打撃に強いのか?」


 スライムの体はぷるぷるしている。打った衝撃が波紋のように広がってダメージが入りにくいのでは。


 だとしたらきら丸はゴリラの天敵になり得る。


「きら丸、正面から行け。俺は後ろに回り込む」

「キュッ」


 でけえ丸がゴリラに突っ込む。


 ゴリラが頭上で組んだ拳を振り下ろした。でけえ丸の脳天に直撃して、丸みを帯びた体がぷるんと震える。


 でもそれだけだ。丸い巨体はびくともしない。


「やっぱりな。物理攻撃はほとんど効かないんだ」


 後はでけえ丸を回復する手段があればどうにかなる。


「とりあえず試してみるか」


 ハイポーションの栓を抜いてでけえ丸に内容液をかける。


 でけえ丸のHPバーが全快した。


「ハイポーション作り置きしといてよかったぜ」


 後は消化試合だ。ゴリラが真っ赤になって荒ぶってもでけえ丸は落とせない。


 光の雨と触手のムチを受ける内にゴリラがひざをついた。巨体がポリゴンと化して砕け散る。


「よっしゃあっ!」

「キューッ!」


 でけえ丸と歓喜のおたけびを上げる。


 遅れてリザルトウィンドウが開いた。経験値や獲得マニーに続いてアイテムの名前が連なる。



『ワイルドゴリラの毛皮』

『がんじょうな骨』



 新たにウィンドウが浮かび上がった。俺に続いてきら丸のレベルも一つ上がった。


「ってことは」



【レベル3になったのでスキルを以下の中から一つ獲得できます】


『アイテム所有数拡張』『アイテム増殖率アップ』『変身』



「変身?」


 前の二つは何となく意味が分かるけど変身ってなんだ。


 気になる。


 文字を人差し指でタップする。



『変身』

 たくわえたアイテムによって姿を変える。



「何じゃこりゃ」


 説明がいまいち要領を得ない。こんなのだったら前二つの方がまだマシに見える。


 どうせ俺はクラフトしかやらないんだ。素材集めのことを考えても戦闘に重きを置く理由がない。


「所有数拡張と増殖率アップか』


 たぶん後者は、きら丸がたくわえたアイテムを増やす確率に関係している。


 一見魅力的に見えるけど、俺が検証した結果ではたくわえたアイテムの数だけ増殖の判定が抽選される。所有数を増やせば効果は疑似的に再現できる。


「所有数拡張一択だな」


 たくわえられるアイテムの数を増やせばでけえ丸の戦闘能力も上がる。素材集めもはかどるし一石二鳥だ。


……変身。


「いやいや」


 かぶりを振ってその選択肢を頭の中から振り払う。


 変身だけはあり得ねえって。戦闘特化とか一番使い道がないんだから。


「絶対こっちの方がいいし」


 指を伸ばしかけて手が止まる。


「キュ?」


 きら丸が身をくねらせる。いつまでも決めない俺を見て不思議に思っているようだ。


「悪いな待たせちまって。今決めるから」


 俺が選ぶべきスキルなんて決まってる。

 

 へ~~んしん!


「いやいやいや、あり得ねえって」


 何がへ~~んしん! だよ。仮〇ライダーや戦隊モノじゃないんだから。


 俺は大人。知的でクールなナイスガイ。冷静に最善の選択肢を選べる男だ。


 人差し指を伸ばしてスキルの名前に触れる。


 指を離したそこには『変身』の文字があった。


「はぁっ!?」


 変身を押した? あれだけあり得ないと確信していた俺が?


 興味が、ロマンが、理屈と理性を上回ったというのか。


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