第15話 試練
俺はきら丸と新しい街に入った。
視界内にどっと人が増えた。ここが最前線なんだと実感させられる。
「まずはショップでものぞいてみるか」
それっぽい場所を探してうろつくこと数分。NPCショップを見つけて歩み寄った。カウンター越しに周辺地図を注文してマニーを支払う。
俺はベンチに座って地図を広げた。きら丸がとなりにぴょこんと座って地図をのぞき込む。
「まずは密林に行ってみるか」
「キュッ」
俺は街を出て密林に向かった。程なくして正面に繁殖した緑が映る。
植生している植物が違うのか、カブトムシを見つけた森よりも樹木の高さや密度が違う。ジャングルにも負けない自然のパワーが感じられる。
「見上げても先っぽが見えないな」
根本からの景色を楽しんでいざ前進。
早速採取ポイントを見つけた。
希少素材を目的にしてここに来たものの、採取はこまめに行うと決めている。
「いつどこでレアアイテムが出るか分からないしな」
例え入手確率1%を切っていても一回は一回。大事に大事に植物を摘む。
きら丸にもぱくぱくさせて次の採取ポイントを目指す。
あちこちから動物の鳴き声が聞こえる。
声色からしてサルとか出てきそうだ。これだけ樹木がはびこる場所で立体的に動かれたらこっちの攻撃当たらないだろうな。
「お、怪しい入り口発見!」
闇をのぞかせる入り口に駆け込んで坂を下る。
がらんとした空間が広がった。緑はびこる空間に日光が差し込んでいい感じの雰囲気に仕上がっている。
「地下なのに明るくてさわやかだな」
「キュッ」
きら丸もこの場所が気に入ったみたいだ。
周りを見渡すと岩壁の亀裂が見えた。ピッケルを取り出して採取ポイントに振り下ろす。
【ルビーレ鉱石を入手しました】
レア度2
『ルビーレ鉱石』
燃えるような色合いの鉱石。きれいな見た目から装飾品などに用いられる。
初めて入手する鉱石だ。
レア度は低い。ピッケルを振ればいくらでも手に入る物だろうけど気分は上がる。
「やっぱ新マップっていったら新しいアイテムだよな」
さらにピッケル。ポロポロ落ちる鉱石をきら丸にふくませる。
広場を出る頃にはすっかりでけえ丸が完成していた。
「次のエリア行くか」
「キュ」
奥に進むにつれて日光の明るみがしぼられる。
地面に横たわる人影を見つけた。
「大丈夫か!」
駆け寄ると女性が上体を上げた。
頭上に逆三角のアイコンが浮いている。これはNPCか。
「大丈夫ではありません。ポーションを切らしてしまったんです。よろしければハイポーションをいただけないでしょうか? 評価Sの物が飲みたいです」
「ずうずうしいなおい」
でもこの前作ったやつが余ってるし、一個くらいならくれてやるか。
ポーチからハイポーション入りのビンを実体化させて手渡す。
「ほら飲め」
「ありがたい」
女性がビンの中の液体をぐびぐび飲み干した。
「ありがとうございました」
「役に立てたならよかったよ。これで立てるか?」
「立てはしますが、先程追いはぎに遭って装備がないのです。何か武器や防具を持ってませんか? 評価Sの物を」
「またかよおい」
しかもまた評価Sねだり。いっそ見捨てて奥に進んでやろうか。
一応持ち合わせはある。ミニゲームやインゴットのお試しで量産したやつだ。
ろくに強化してないから大した性能じゃないけど、密林を出るだけなら十分だろう。
「ほれ、もってけ」
NPCの女性が目を丸くした。
「おお、どちらも評価Sじゃないですか! 全部あなたがクラフトしたんですか?」
「ああ。俺が作った」
次は何をねだられるか分かったものじゃない。さっさと話を切り上げて先に行こう。
「じゃあ俺はこれで」
「待ってください。あなたならきっとあの試練を乗り越えられる」
「試練?」
「この奥に人面の岩があります。奥へ進むには、人面岩がもたらす試練を乗り越えなくてはいけないんです。ぜひあなたの力を貸してください!」
クラフトの試練か。もしかして新たなミニゲームなのでは。
そんなこと言われたらわくわくするじゃないか。試練っていうくらいだし、乗り越えた策にはいいものがあるに違いない。
「分かった。協力しよう」
「ありがとうございます! 私アメリア。あなたは?」
「フトシだ。こっちはきら丸」
「フトシさんにきら丸さんですね。こっちです、ついてきてください」
女性が嬉々として駆け出した。俺は遠ざかる背中を追いかけて広々とした空間に靴音を響かせる。
本当に人面岩があった。
口に該当する箇所が開いて言葉を発する。
「この先に通りたくば試練を突破せよ」
「こっちこっち」
女性に腕を引かれる。
つれて行かれた場所には五つのタルが並んでいた。ライブでドンパチやるドラマーの設備みたいだ。座れそうな高さの切り株まである。
「ささ、ここ座って」
女性が肩に手を置いて俺を座らせた。
「何が始まるんだ?」
「試練だよ。始まるから気を引きしめて」
何が何だか分からんぞ。試練以外に情報はないのか。
「まあなるようになるか」
クラフトとタル。ここまで情報がそろえばやることは大体想像できる。
「よおし、どんと来やがれ!」
俺は両腕を構える。
ズゥゥゥゥンと嫌な振動があった。日光差し込む空間に大きな影が伸びる。
顔を上げると、日光をバックに巨大なゴリラが立っていた。
丸太のような腕が大岩を持ち上げる。
「……待て」
これってまさか。
悪い予感を裏づけるようにゴリラが岩を投げた。




