第104話 ドラゴンゾンビ
俺は左に伸びる通路を突き進む。
走った先で行き止まりに突き当たった。
正面に宝箱が鎮座している。
大きい。周りに小さな宝石が転がっていて中身への期待をふくらませる。
「これはレアなアイテムの予感!」
俺は宝箱の前に立つ。
後ろででけえ丸たちもそわそわしている。中身が気になるんだな。
分かるぜ、その気持ち。外から見えないとなおさらわくわくするんだ。
「早く開けてほしいでありますよ」
「分かってるって。行くぞ」
俺は宝箱のふたに手をかけた。指にぐっと力を込める。
手首にチクっとした痛みが走る。
「ん」
俺は思わずまばたきする。
宝箱のふたの縁からナイフじみた歯が伸びていた。
「な、何だこりゃ!?」
噛みつかれてる! 俺の手が宝箱に食われてるぞ!
「痛って! 離せ箱!」
俺は腕にぐっと力を込める。
ふたを持ち上げようにも鋭利な歯が邪魔をする。
この宝箱を作った奴、何ていやらしいんだ!
「みんな助けてくれ!」
「キュ!」
「はいなであります!」
きら丸とゼロツーが箱の側面に回り込んだ。ふたの両端をはさんで持ち上げようと試みる。
ラムネが宝箱のふたにとまってくちばしでつつく。
全く開かない。
こうなったら!
「ゼロツー、俺のポーチからニュールネトリオングを取り出してくれ」
「ニュール、何でありますか?」
「缶詰だ」
「こんな時に食事でありますか? マスターは食いしん坊でありますね」
「いいから早く!」
こうしている間も俺のHPバーが削れてるんだっつーの!
両手を噛まれてたら回復アイテムも使えない。こんなことでリスポーンするのはださすぎる。
「はぁ、了解であります」
ゼロツーが首をかしげながらも歩み寄った。ポーチに腕を突っ込んで缶詰を取り出す。
「キュッ!?
ピィッ!?」
ペットの悲鳴。
ああ、この先の展開が読める。
「ゼロツー。缶詰のふたを開けて宝箱の中に放り込んでくれ」
「食べ物を無駄にするのは反対であります」
「食べ物じゃない。いいか? その缶詰は生物兵器なんだ」
「なるほど兵器でありますか。それなら問題ないでありますね」
このロボちょろいぜ。
ゼロツーが缶詰のふたに指をかけた。
でけえ丸とゼロツーが宝箱から離れて通路に消えた。
「あれ、きら丸とラムネはどうしたでありますか?」
「気にするな。それより早く」
尽きる! 俺のHPバーが砕ける!
ゼロツーがふたを開けた。
動じた様子はない。予想通り機械のゼロツーに悪臭はきかないようだ。
問題は宝箱に通じるかどうかだが。
「ていっ」
ゼロツーが箱の中に缶詰を投げ込んだ。
懸念は杞憂に終わった。宝箱が俺の手を解放してどったんばったんとコメディ的に暴れまわる。宝箱の中に何かが潜んでいるんだろうか。
宝箱が暴れながら寄ってきた。
「来たああああッ!? 逃げるぞゼロツー!」
俺は身をひるがえして通路を逆走する。
背後に機械的な足音が続く。
振り向くと宝箱も追ってきていた。横に長い体を上下させながら器用に走っ
ている。ガッタガッタと実にうるさい。
分かれ道に差しかかった。
道は覚えている。俺は左の道を選んで外を目指す。
地響きがした。天井からパラパラと小さな瓦礫が落下する。
後方からうなり声が聞こえる。
いや、どんどん近づいてくる?
「何だ?」
気になって振り向くとすごいのがいた。
竜だ。
しかし炭化したように黒いアゴからは骨が露出している。禍々しい赤の光が点滅して目の様相をかもし出す。
ひどく活力に欠けている。まるで亡き骸に糸をくくりつけて操ってるみたいな忌避感がある。
「ヴォオオオオッ!」
突き出たアゴから体液が飛び散る。
臭いっ! ニュールネトリオングほどではないが臭い!
これはあれだ、ゾンビってやつだ。
「ボスなら奥でどんと構えとけよ!」
言っても竜は足を止めない。ガタガタうるさい宝箱の後ろから地を這って追る。
俺は追いつかれまいと全力で手足を振り回す。
視界内に明るみが映った。
外だ! 察して体の底からエネルギーがあふれ出る。
「うおおおおおおおおおおおおー―!」
俺は雄たけびとともに外に出た。
でけえ丸が外で待機していた。空を仰ぐとラムネが翼を広げている。大きな足音を聞いて、外で迎え撃つ準備をしていたといったところか。
俺は右方に走る。
宝箱は追って来ない。竜から逃げるように直進するも、その努力むなしく宝箱が大きなアゴの中に消えた。
視界内にリザルトウィンドウが浮かび上がる。
構っている暇はない。俺はすぐにウィンドウを閉じて竜と向き直る。
「こいつが瘴気の原因なのか」
竜の目が妖しく光る。
見るからに不浄な雰囲気だ。少なくとも友好的な存在には見えない。
咆哮に次いで黒い翼が広げられた。翼膜がドロッととろけ落ちて地面を汚す。
その翼膜だった物がボコッと泡立った。見る見るうちに隆起してトカゲを形作る。
「きもっ!」
目も口もない、形だけトカゲをなぞった物体が地を這って迫る。
ぞわぞわと音を立てて押し寄せてくる様は、見ているだけで背筋に冷たいものが走る。
「きら丸」
「キュッ」
でけえ丸がぴょーんと跳ぶ。
重力に引かれて、丸みのある巨体がトカゲの上に落ちた。
竜がトカゲをよそに駆け出す。
トカゲは竜から独立して動いているらしい。潰されてない方のトカゲがでけえ丸に飛びかかる。
トカゲに意識を取られちゃ駄目だ。横から竜の一撃を受けないように気をつけないと。
俺は横断するように走って竜の突進をかわした。
すぐさまヴォルテクス・ハチェットの柄を握って掲げる。
「くらえ!」
フルチャージされたプラズマが竜とトカゲを打った。
トカゲが汚泥みたいなドロドロに戻った。ドロップ無しが少し寂しい。
竜が方向転換して戻ってきた。通過する途中で汚泥が竜の体に取り込まれる。
秒で翼膜が再構成された。竜が翼をはためかせて浮遊する。
真っ黒な口から黄緑のブレスが吐き出された。
見るからに状態異常を付加してきそうな攻撃だ。俺は走り回って毒々しい息から逃げ回る。
通った跡が変色して、草や石がどろりと融けたように質感を失った。
「こわっ!」
あれに当たったらどうなるんだろ。浴びてみたいが激しく当たりたくない。
竜が着地するなりまた翼膜が溶け落ちた。
今度はドロドロから二足歩行のトカゲが生成される。
「作られるエネミーは固定じゃないんだな」
念のためプラズマを再チャージしておいてよかった。
ヴォイド・グラスパーよりも範囲攻撃できるヴォルテクス・ハチェットの方が戦いやすそうだ。
「生まれたところ悪いがくらえ!」
プラズマが二足歩行のトカゲを打ちすえる。
今度は生き残った。黒い人影が電気のエフェクトをまとって地面に伏す。
「さっきのトカゲよりも耐久力が上がってるのか」
何だか嫌な予感がするな。早いところ本体を叩いた方がよさそうだ。
「着装、パワードアーマー!」
「了解であります!」
シャキーン! と変身を終えて威力カスタムのミサイルを放った。
ボスエネミーだけあってミサイルで吹っ飛びはしない。
その一方でひるんだ。でけえ丸の触手ムチや体当たりもしっかりきいている。
竜の攻撃をかわし切るプレイングこそないが、持ってきた回復アイテムは潤沢だ。一撃が重くてもパワードアーマー込みの防御力があれば耐えられる。
三度目のプラズマ放出で二足トカゲも消し飛んだ。
「ヴォオオオオオオオオッ!」
竜の咆哮に遅れて薄い紫色を帯びる。
見覚えがある景色に違わず、地面からうねうねしたものがわき出た。それらが警戒する竜の体表を這い上がる。
「前も言ったけどきもいっっつーの!」
俺は叫びながら腕でWを描いた。カスタム画面からチャージバーストを選択する。
放射状に発射された紅蓮が蛇もどきごと竜をのみ込んだ。
熱の放出が終わっても竜は健在。
それどころか姿が変わる。見えていた骨がうろこに隠れて、ドロドロになっていた部位も明確な輪郭を取り戻す。
「復活してるのか? これ」
見るからにゾンビだったのにどういう理屈なんだ。
竜が活力ある咆哮で大気を震わせた。
翼膜がボトッと液体化して地面に落ちる。
「それは仕様なんだな」
どろっとしたものが小さな竜を形作った。
フルチャージしたプラズマを当てても消滅しない。電気のエフェクトも発生しない。
「取り巻きがどんどん強くなっていくな」
先に本体を倒し切った方がよさそうだ。




