第103話 俺こそがロマンなのかもしれない
ヴォイド・グラスパーのクラフト動画は短時間の内に万を超えた。
神業すぎる!
次も楽しみにしてます!
続々と殺到する賛辞のコメントが実に温かい。
チャットを見るに、何とクラマギには俺以外にもフトシがいるらしい。
試しに検索してみると数十件ヒットした。
名前かぶりもあるだろうとは思っていたが、ここまでフトシという名前が人気だとは想像もしてなかった。
こんなことなら名前を決める前にちゃんと調べておくんだったな。
周りが妖し気な紫の霧に包まれた。
「そろそろか」
渓流に人型が現れた。相も変わらず体表には蛇じみたものがうごめいている。
異形ナルモノが俺に気づいて向かってきた。
俺は両腕を前に突き出す。
「よーし来い!」
人型が右腕を振りかぶった。
俺はすぐさま両手を開いた。手の平近くに黒い渦が発生する。
「出た!」
感嘆がつぶやきとなって口を突く。
黒いエフェクトは秒とせず消失した。
「ぶへぇッ!?」
衝撃に遅れて左上の緑棒が一瞬で消し飛んだ。体が勝手にひざを折って地面に伏す。
眼前にアイテムの使用を問う文字が表示された。
俺は地面に伏せながら『はい』の文字をタップする。
枯渇したゲージの半分が緑色で満たされた。視界の隅を彩る赤色がすーっと色あせる。
俺は立ち上がるなり走った。
伸びてきた触手が俺の背後を通過する。
「何だよさっきの! 無力化判定短すぎだろ!」
おかげでペットの前なのに無様をさらした。この恨み絶対晴らしてやるからな。
さあもう一度だ。
俺は足を止めてエネミーを正面にすえる。
また触手が伸びてきた。
「今度こそ」
ぐわっと手を開く。
今度はタイミングが合った。黒い渦と触手の先端が接触する。
手の平に衝撃が来ない。ゴムのように伸びた腕が縮まってエネミーの元に戻った。
「よっしゃ成功!」
達成感に任せてぐっと拳を握る。
効果時間は一秒にすら満たないものの、一撃でHPバーを消し飛ばす攻撃も無力化できる。
つまりは俺のプレイスキル次第で完封も可能ってことだ。
「今度はこっちから行くぞ」
思い切って地面を蹴った。迎撃の突きをブラックホールで受け止めて距離を詰める。
たまったカウンターは3。
最大出力くらえ!
「うおりゃああああああっ!」
助走とおたけびを乗せて異形の顔面に拳を叩きつけた。
渓流に破裂音が響き渡った。巻き起こった紅蓮が紫の霧を吹き飛ばす。
人型の異形がよろけた。
「おお、見た目通りの威力だな」
あるいはエネミーをひるませやすい効果でもあるのか。
どちらにしても貴重な攻撃チャンスだ。
「着装、パワードアーマー!」
「了解であります!」
人型ロボットことゼロツーが宙で分解された。
パーツが俺の体に殺到してパワードアーマーを形作った。
「あれ」
手に黒いグローブが残っている。
コンソールを開いて装備欄を確認すると、ヴォイド・グラスパーの装備が解除されていない。
「ナックルはつけたままパワードアーマーを着れるのか」
ミサイルを撃ち終わったらアーマーを脱ごうと思っていたが、これならアーマーを着たまま戦える。何て相性のいい武器なんだ。
俺は威力向上カスタムのミサイルを発射した。
ミサイル発射のクールタイムはカットされない。
カジさんから受け取ったマーク2は、クールタイムをリセットしない代わりにロマン砲を兼ね備えている。
たたみかけたいのはやまやまだが、ここはがまんだ。
エネミーが立ち上がった。
俺は再び攻防の駆け引きに臨む。
完璧に防ぎきるには俺のプレイスキルが不足している。五回に一度はしくじって復活アイテムのお世話になる。
でも順調だ。
復活アイテムはショップでたんまり買い込んできた。リトライは何度でも行える。
異形ナルモノを倒せるまでやる。これは決定事項だ。
「ストーンミサイル!」
「了解であります!」
右腕に備えつけられた砲口からミサイルが射出される。
左上にある三本目のゲージが満たされた。
十回目のパンチを経てエネミーの右足が形を失う。
「離れろきら丸!」
でけえ丸が巨体をぷるんとさせて飛びのく。
俺は両腕を引いてWを描いた。ウィンドウが目の前に展開される。
ウィンドウに新たな表記が追加されていた。
『チャージバースト!』
音声認識でスキルが発動した。
ミサイルの発射でたまったゲージを消費して放つゲージ技。はてさてどんなものなのか。
勝手に両手が開いた。手の平に火炎球が生成される。
両腕が体の前にかざされたのを機に、宙を飾る炎球が融合してふくれ上がる。
炎球がベクトルを帯びた。エネルギーが放射状となってエネミーをのみ込む。
リザルトウィンドウが視界内を飾った。
レアドロップはない。経験値とマニーも大した数値じゃない。
でもその落胆は気にならなかった。
「素晴らしすぎる」
思わず涙が出そうになる。
チャージしたあげくに強力な一撃を放つ。しかもそれはビームに似た砲撃ときた。
なんてロマンなんだ。
いや、俺こそがロマンなのかもしれない。
俺は上機嫌になって発掘ポイントにおもむいた。一攫千金を夢見て例の発掘ポイントでピッケルを振った。
ブラックホールオニキスは出なかった。
続く植物の採取でもレアアイテムは出なかった。そう簡単に出たらレアじゃないのは分かるがやっぱりへこむ。
「そろそろダークエルフの村に行くか」
薄暗い森を抜けてダークエルフの村に足を運んだ。
また警戒されるかと思ったが、今回はすんなりと村長に会わせてもらえた。
俺はアメリアからの返事を村長に伝えた。
ダークエルフ側の返事はあいまいだ。状況的にまだ裏切る算段はつけられないらしい。
何にせよフラグは立ったってやつなのだろう。いずれチャンスは来るはずだ。
「ところでフトシとやら。先程から妙な気配を感じるのだが」
「妙って?」
「お主のポーチからだろうか、渓流で遭遇した異形と同じ気配がするのだ」
「ああ、それなら」
俺はポーチに腕を突っ込んだ。展開されたアイテム欄から無貌なる骸を選択して実体化させる。
ダークエルフたちがどよめいた。
「な、何だその禍々しき物体は!」
「しまえ! そのブツをしまうのだ!」
気になっていたからアイテムを見せただけなのに、まるで俺が悪いことをしたみたいな反応だ。
ダークエルフにしか分からない物があるんだろうか。
俺は無貌なる骸をポーチに収めた。
「貴様、それをどうやって入手した!」
「例の人型を倒したら落としたんだ」
「倒しただと? バカな、あれは人間がどうこうできるようなものではないはずだ!」
「でも本当に倒したんだって」
村長とその側近がひそひそと言葉を交わす。
五秒ほどして彼らが俺に向き直った。
「一応確認するが、本当にあの異形を倒したのだな?」
「ああ。倒したぞ」
「その腕を見込んで頼みがある。いや、我らの立場からして頼めた義理じゃないのは理解しておるが、もしよければ話を聞いてもらえないだろうか」
視界内にウィンドウが開いた。
【クエスト『山より下る瘴気』を受注しますか?】
『はい』『いいえ』
クエストだ。
魔界で見つけた初めてのクエスト。これは受けるっきゃない。
俺は『はい』のボタンを押した。
まずは話をということで長老がクエストについて語り始めた。
村から北へ進んだ方角に山がある。そこには強い力を持つ魔物が住み着いているらしい。
ダークエルフたちはその魔物を見たことはないが、山から瘴気が漂ってくるから魔物の存在自体は知覚できるのだとか。
その魔物を討伐すればクエストクリアのようだ。
「いいぜ。俺たちがその魔物を討伐してやるよ」
「ありがとう。討伐してくれた暁には何か恩を返さねばならんな。お主が戻ってくるまでに考えておこう」
「ああ。楽しみにしてるぜ」
俺は長老から村周辺の地図を受け取った。
準備が必要ってことで使われていない小屋の使用を許可された。
小屋には古びた箱があった。指で触れるとアイテム欄が展開される。
「ここからアイテムを取り出せるんだな」
ありがたい。これでいちいち妖精界に戻らなくて済む。
俺はボックスから回復系と復活系アイテムを一通り補給した。
でけえ丸たちを連れて村を出た。地図を頼りに北の方角へと足を進ませる。
植物が減って地形がゴツゴツした様相を帯びる。土臭さが漂って空気がまずい。
空気がまずくても山は山。採取ポイントには事欠かない。
俺は採取と発掘を進めつつ坂道を上る。
微かな疲労を覚えた頃になって、前方に洞窟の入り口が見えてきた。
「ここか」
他に洞窟らしい洞窟もない。俺たちは洞窟内へと足を踏み入れる。
洞窟内はほんのりと明るい。あちこちで顔を出している鉱石が鈍く光っているおかげだ。
例のごとく発掘ポイントもある。俺はピッケルを取り出して発掘に臨んだ。
レア度6の鉱石は出なかったが、いずれも魔界でしか得られないアイテムばかりだ。ありがたくちょうだいしながら奥を目指す。
やがて分かれ道に差しかかった。
「どっちに進めばいいんだ」
でけえ丸がぴょんと跳んだ。右側の通路前で振り返る。
「右か」
そう思ったらラムネが俺の肩から離れた。左側の通路前で振り返ってピィと鳴く。
右と左。
意見がきれいに別れて、でけえ丸とラムネが顔を見合わせる。
どっちを選べばいいんだ。
俺が選んだらそれはそれで片方がすねそうだ。
「ゼロツーはどっちにする?」
「どっちでもいいであります」
「どっちでもよくないからお前に聞いたんだが」
「じゃ外に戻りたいであります」
「第三の選択肢を提示するな」
どうしたものか。
俺が頭を悩ませていると、地獄の底から響くようなうなり声が聞こえてきた。
右の道からだ。
「よし、決めた。左に行こう!」
俺は知ってるんだ。こういう分かれ道では、意味がなさそうな場所にこそ宝が眠っているのだと。




