第102話 運営視点その2
「どうして異形ナルモノを倒せるように設定したんだ」
「仕方ないでしょ。設定上倒れないとおかしいんだから」
弁解の言葉が無機質なフロアの空気に溶ける。
スタッフの男性が小さくため息をついた。
「お前が設定にこだわってるのは知ってるけど、そのせいでバランスブレイカーを作られたら大変だろ」
「いいじゃないバランスブレイカー。強いエネミーを倒したら相応の見返りがあるべきだわ」
「お前、それでこの前えらいことになったの忘れたのかよ」
女性がうっ、と言葉に詰まる。
スタッフが想起したのは、エーテライトの儀礼剣が議題に上がった時のことだ。
あの件で、フトシというプレイヤーは古代のスクロールを大量に入手した。
そのおかげでパーツをそろえる作業がはかどって、妖精界にある装置が想定以上のスピードで完成した。フトシはさらなるレアアイテムを入手して周りと差をつけるに至った。
隠しエリアは妖精界だけじゃない。フトシ以外にも特殊な世界に足を踏み入れた者はいる。
それでもサイレント実装したレア度7のアイテムを入手したのはフトシだけだ。次のイベントでもフトシが暴れまわるかもしれない。
他二種の素材が未実装なのは唯一の救いか。
「あなたは考えすぎなのよ。フトシはまだレア度7のアイテムを一種類しか入手してないじゃない」
「残りの二種類も実装される予定だろ」
「そう簡単になんて集まらないわよ。エネミーを倒したところで確実に素材が得られるわけじゃないし」
「確率の話をしたって意味ないだろ」
男性スタッフが椅子を引いて座り直し、モニターに映るログデータを指先で叩く。
「確率ってのは全体で収束する。フトシのプレイ履歴を見てみろ。あいつはクラフトの神に愛されてるんだ。いずれ残りの素材も入手するに決まってる」
女性スタッフが腕を組んで黙り込む。
フトシは無駄な行動をほとんどしていない。ここぞという時は決まってレアアビを引き当てるし、一見遠回りなゲテモノ料理もクエストの進行に貢献した。
今度はダークエルフを味方に引き入れようとしている。魔界での探索も早々に進むことだろう。
「魔界のエネミーってどれくらいの強さだったっけ」
「最低でもレベル五十以上が推奨。エネミーの耐久値もそれなりに設定してある。でもフトシは異形ナルモノとの戦闘でかなりの経験値を稼いでるのよね」
「ヴォイド・グラスパーも入手したしな。レア度6の装備があれば狩りの効率は格段に上がる。そうしたらきっと」
「分かった、分かったわよ」
女性スタッフが両手を上げて降参の意を示した。
「でもどうしろって言うの。魔界のエネミーだけ強化したら、まるで私たちがフトシに嫌がらせしてるみたいじゃない」
「エネミーの強さを調整するんじゃなくて、素材のドロップ周りを調整するんだ。今までは隠しエリアとエネミーの強さに甘えてそこそこ落ちるようにしていたが、レアアイテムはやっぱり落ちにくくてなんぼだろ」
「そうね。ドロップ率を0にするわけにはいかないし、それがいい落としどころだと思う」
要はレア度7の素材アイテム入手に時間を要すればいいのだ。
入手に手こずれば次のアップデートが近づく。
アップデートが実装されれば他のプレイヤーにもレア度6の装備が生き渡る。周りとの装備格差も最低限に収まる。
「決まりだな。あいつらが戻ってきたら話をするぞ」
スタッフがモニターに向き直ってキーボードの上に指を置いた。
「もしフトシがレア度7の装備を完成させたらどうなるんでしょうね」
「クラマギは装備差がもろに強さに出るからな。またフトシが無双するんじゃないか」
「他のプレイヤー怒らないかしら」
「隠しエリアはアカウントごとに各種用意されてる。可能性自体は平等だし、見つけた隠しエリアを秘匿するのも自由だ。いっぱい遊んでくれた人がチャンスをつかむのは自然なことだろ」
「そうね。サイレント実装とはいえ、私たち公式が実装したんだもの。胸を張って仕事をすればいいのよね」
「ああ。バランスを気にしてちんまりさせても驚きは生まれないからな。堂々とインパクトあるもん実装してあっと言わせてやろう」
「クラフトで魔法をかけるのが私たちのゲームだものね」
室内にキーボードを押し込む音が鳴り響く。
フトシが知らない場所で、運営の方針がしっかり根づいた瞬間だった。




