第1話 音ゲーやりたいからクラフトします
七色の玉が画面の上から下へと流れる。
俺はせわしなく両腕を動かして大きなボタンを押し込む。
ノート一つ逃さない。周りの騒々しさをBGMにして音楽のリズムに乗る。
よし、もう少しでコンプリート――。
「倉坂」
目を開ける。
同僚の小川が立っていた。
「小川か。悪い、寝てた」
「気にすんな、待たせてたの俺だしな」
「仕事終わったのか?」
「ああ。飲みに行こうぜ」
「おう」
二人で会社を出て居酒屋に入った。
酒の油のにおいに包まれながらカウンター席に座った。ビールと焼き鳥を注文してジャケットを脱ぐ。
「さっき何の夢を見てたんだ?」
「ああ、音ゲーの夢」
正式名称音楽ゲーム。
音楽に合わせてプレイヤーがボタンを押す、ステップを踏む、楽器を模したコントローラを操作することで点を獲得するゲームだ。
学生の頃はアルバイトで稼いだお金を使ってゲームセンターに通った。
今はもうゲームセンターも下火。通っていた場所は潰れて音ゲーをプレイすることもできない。
「お前本当に音ゲー好きだよな。だったら俺と一緒にクラフトマギアやろうぜ。今友人招待キャンペーンやってんだよ」
「クラフトマギアって最近話題になってるVRMMOだよな?」
「そうそう。魔法や剣で戦う世界なんだけどよ、クラフトで物を作る時に音ゲーみたいなミニゲームをやるんだ」
「音ゲーだって?」
「お、早速興味持ったな。基本無料だからダウンロードして遊んでみろよ。すごいもん作るには難しいゲームをクリアしなきゃいけないからやり込み甲斐あるぜ」
「そりゃいいな。帰ったらダウンロードしてみるよ」
「よっしゃ。招待報酬ゲットだぜ」
俺たちの席にビールが到着した。まずは炭酸のきいた清涼飲料をあおってのど越しを楽しむ。
音ゲーするのは久しぶりだな。物作りとどう結びつくのか楽しみだ。
俺はチュートリアルを終えてマイルームに転移した。
プレイヤー一人一人に割り振られる部屋だ。質素な室内には生活感をかもし出す物しか置かれていない。
俺は玄関から外に出た。緑豊かな空間の中央に大きなツボがある。
俺は帰りの電車内でクラフトマギアについて調べた。
クラフトを行うには、大きなツボに決められた素材を突っ込む必要がある。
俺は始めたばかり。所持金も少ない。
でも今は友人招待キャンペーンの真っ最中だ。プレゼントボックスからゲーム内通貨やアイテムを受け取ってツボに近づく。
壇に足をかけるとウィンドウが表示された。
「何を作るかここで決めるのか」
剣や盾、テーブルやチェアといった家具もある。文字が半透明な物は作れないようだ。
「手始めに剣からいくか」
木製の剣のレシピを選択した。
ツボの上に素材となるアイテムが実体化した。大きなツボの中に消えて中の液体が鈍い光を発する。
目の前にウィンドウが展開された。黒を背景に何本もの線が縦に並ぶ。
手元にはレーンと同じ数のボタン。音ゲーに近いものを感じて心が踊る。
「いっちょパーフェクト出してやりますか」
緑の弾が下りてくる。
丸い印と重なるタイミングで手元のボタンを押し込む。
カチッと軽快な感触。これは気持ちいいな。
お、玉の下りるスピードが速まった。
問題ない。そう思う間にも少しずつペースが上がる。
もはやまばたきしたらタイミングを逃してしまいそうなスピード。でもこの程度なら見慣れたものだ。
「音ゲーマーなめんなよ」
より一層速く腕を動かす。
楽しい。
何だこれ。久しぶりなのに若返ったみたいに腕が動く。
終了の文字が表示された。
「ふーっ、つい熱中しちまった」
目の前にウィンドウが展開された。
リザルト評価はS。
ツボの周りが輝いた。祝福するように光が舞ってツボの中に入る。
パーッと光が弾けた。まばゆさに目を細めているとツボの中から一本の木剣が浮き上がる。
新たにウィンドウが表示される。
レア度1
『木製の剣』
攻撃力 +3
アビリティ【新たなる風】
素晴らしい出来。このレベルの物は中々お目に掛かれない。
何かすごそうなことが書いてある。
「てか新たなる風ってなんだ」
指先でタップしてみる。
詳細分が表記された。親切な仕様だ。
「なになに、レベル20以下のプレイヤーはステータスが上昇するのか」
これって強いの?
俺が使っても強いのはいいけど現状戦うつもりないしな。
いや待て、戦わないとゲーム内通貨や素材って手に入らないんじゃないのか。だったらプレゼントボックスに入ってたアイテムを売るとか。
待てよ。
「そうか、作った物を売ればいいのか」
売ったお金で素材を買って、それでまたクラフトすれば無限ループの完成だ。
そうと決まったら早速クラフトだ。
俺はツボに素材を詰め込んだ。またパーフェクトを出して同じ品を手に入れる。
数をこなして勘が戻ってきた。
「そろそろお高めの素材を使ってクラフトしてみるか」
銅をツボに放り込んで構える。
きた。
さっきよりも手元に下りてくる玉が多い。
「これはボリューミーだぜ」
夢中になってボタンを押す。押しまくる。
完成品をショップに並べてこの日はログアウトした。
後日俺の作った剣が話題になることを、この時はまだ知るよしもなかった。
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