「聖女の願い、護衛はあなただけ」
異世界に召喚された普通の私。戸惑いながらも、どうせなら――この世界のために力を使おうと決めた。
でも、信じられる人なんてこの世界にはいない。そう思っていたのに、出会ってしまった。
誰よりも不器用で、誰よりも真っ直ぐなあなたに――。
王様は重々しい声で語りはじめた。
「現在、我が国は魔族と敵対している。城壁に守られ、かろうじて平穏を保ってはおるが……その外には、魔獣や魔族がはびこり、森も川も魔素によって侵されておる。人々の住処も次々と奪われていっているのが現状だ」
まるで教科書のように整った説明。それでも、国を想う必死さは伝わってくる。
「城外の防衛には、アースファルトら傭兵団に魔獣討伐を依頼しておるが、それにも限界がある。伝承にはこうある――“真の聖女が現れしとき、魔族を討ち、浄化し、国を救わん”と……」
そして、王様は私を真っ直ぐに見据えた。
「どうか、聖女よ。この国を、救ってはくれぬか?」
王子様と違って、王様の言葉はまっすぐで誠実な響きだった。権力者のわりに、ちゃんと話が通じる感じ。ちょっと安心する。
私はこくりと頷いた。
「もちろん、お引き受けします」
……最初からそのつもりだったしね。
すると、王様はパッと顔を明るくした。
「それはありがたい! では聖女には、最高の待遇を約束しよう。すぐにでも王宮内に住処を用意する。専属の護衛団も組織し、万全の体制でお迎えしよう!」
専属の護衛団、ねぇ。
悪くない話ではあるけど、知らない人たちに囲まれるのはちょっと不安だった。せっかくこの異世界で、唯一少しだけ打ち解けた相手がいるのに。
私はそっと後ろを振り返る。
アースファルトさんは、いつもどおり無表情でそこに立っていたけど……きっと私が見てることには気づいていたと思う。ちょっと目をそらされたけど。
私は王様の方へ向き直り、意を決して言った。
「……でしたら、護衛にはアースファルトさんをお願いしたいです。短い間でしたが、彼の人柄には信頼が持てます。できれば、身近にいてほしくて……もし、ご本人がよければ、の話ですが」
一瞬、謁見の間の空気がピシッと張りつめた。
あ……やっぱり、空気読めなかったかな? アースファルトさんにとっては迷惑だったかも。
なんて不安に思ってたら、王様が思わず口を開いた。
「……ほう、聖女が自ら望むとは。だが……本当にその者でよいのか? 見目に多少……いや、かなり問題があるが……」
おーい、めっちゃ失礼なこと言ってるけど、気づいてる?
でもその直後、王様がアースファルトさんへと視線を向けた。
「アースファルト、どうだ?」
突然話を振られたアースファルトさんは、目を丸くしてしばらく固まっていた。
あ、やっぱり無理だったかな……?
と思った次の瞬間、彼はハッとしたように背筋を伸ばし、大きく一礼した。
「謹んでお受けいたします。聖女様のため、命を懸けてお守りする所存です」
(……そこまでかしこまらなくていいのに)
なんか申し訳ない気持ちにもなったけど、彼の顔は――どこか、嬉しそうに見えた。
よかった。ちゃんと嫌じゃなかったんだ。
その様子を見ていた王子様はというと、さっきからずーっと苦々しい顔でこっちを見てる。
(あ~……嫉妬? でも婚約者いるよね、あなた)
こっちとしては、キラキラ顔より、地味だけど頼れる人の方が安心するんだけどな。
そんなこんなで、無事(?)に護衛問題が解決し、謁見の場の空気も少し落ち着いてきた――そのときだった。
ドォンッ!!!!
突然、王城の天井がものすごい音を立てて崩れ落ちた!
「……っ!」
思わず悲鳴を上げそうになったその瞬間、私はアースファルトさんに強く抱き寄せられた。
「伏せてください!」
がしっと私を覆うようにして、彼は瓦礫の中で私を守ってくれた。
「だ、大丈夫ですか!? アースファルトさん……!」
彼の服には土埃がつき、肩に小さな傷も見える。でも、真剣な顔で私を見て、ひとこと。
「無事で……よかった」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなった。
いったい何が起きたのか――まだわからない。でも、ただひとつ思ったのは。
(やっぱり、この人がそばにいてくれてよかった)
――王城を襲った突発の事件が、聖女カナコの運命をまた大きく動かしていく。
次回、 「黒き影の襲来! 聖女、力に目覚める?」
をお楽しみに!
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ここまで読んでくださってありがとうございます!
不器用だけど誠実なアースファルトさんと、異世界で必死に生きようとする聖女の物語、少しずつ展開していきます。
王子様との関係も、これからどうなるか……?お楽しみに。
次回もどうぞよろしくお願いいたします!