王城へ──渡り人、謁見のとき
ついに王城へ向かうことになったカナコ。初めての異世界での目覚め、そして謎多き「渡り人」としての立場。アースファルトさんと共に、王との謁見に挑みます。少しだけ胸が高鳴るのは……きっと気のせい?
朝、目を覚ますと、見なれた天井ではなく、簡素な木造の天井が目に入った。
「……やっぱり夢じゃないかー」
現実を受け入れきれずにため息をつく私に、遠慮がちなノックの音が響いた。
「カナコ様、目覚められましたか? 朝食をご用意しました。あと、簡素ですが着替えもあります」
声の主はアースファルトさんだ。
「はい、起きてます。着替え、ありがとうございます! 着替えたら朝食いただきます!」
返事をすると、「失礼します」とドアが少し開き、中から着替えがそっと差し入れられた。
用意された服に着替え、食堂らしき場所に向かうと、アースファルトさんがテーブルの向かいに座っていた。
朝食は……硬いパンと、野菜らしき具の入った薄いスープ。それだけ。
「すみません、今は食材がこれしかなく……」
申し訳なさそうにうつむく彼に、私は心から微笑んだ。
「いいえ! 見ず知らずの私を助けてくださって、ありがとうございます。お腹も空いてたので、うれしいです」
その瞬間、アースファルトさんはガタッと椅子を鳴らして立ち上がりそうになり、顔を真っ赤にしてむせてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫です!」
なんか、かわいいな……。
食事を終えると、王城へ向かうために馬に乗ることに。もちろん私は馬なんて初めてで、彼の前に座る形で乗せてもらった。アースファルトさんの背中越しに聞こえる、鼓動が妙に速くて――
(こんなにドキドキしてくれるなんて、なんか悪いなぁ……。特別イケメン好きってわけじゃないけど、こんなイケメンに意識されると、こっちも意識しちゃうじゃん。だって、女の子だもん)
森を抜けると、大きな城壁と賑やかな街が見えた。人々の笑顔があふれ、治安の良さを物語っている。
フードを深く被せられた私は、アースファルトさんの横で、門番に通行証のようなものを見せて街に入った。
そして、ついに――王城の前に到着した。
「渡り人様だ。王に謁見を要請する」
そうアースファルトさんが告げると、城の扉がゆっくりと開かれた。
案内された謁見の間。中央に玉座、王冠をかぶった人物が座っている。その右に王妃らしき人、左には……王子様?
(……うん、予想はしてたけど、やっぱり地味寄りなビジュアルだなぁ)
髪も目も、くすんだグレー。背もあまり高くないし、顔立ちも優しげだけどのっぺりしてる。たぶんこの世界ではこれが「美形」なのかも。
そんなことを思いながら、私はこれからの運命を感じ始めていた。
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いよいよ王城にたどり着いたカナコ。アースファルトさんとの距離が少しずつ縮まりつつも、謁見の場では新たな出会いが……? 次回は王の口から明かされる「渡り人」の秘密に迫ります!お楽しみに!