ヒーローもスパダリも来ないぜ!婚約破棄
「婚約破棄を宣言する!エリザベートよ!嫉妬のあまり男爵令嬢フローリを虐めたな!」
学園でのパーティの事だった。
この国の王子ゲオルド殿下が高らかに宣言をする。
背後にはピンク色の髪の令嬢が王子の背に隠れプルプル震えていた。
「見ろ!こんなに震えて!お前がイジメの首謀者であることは明白だ!」
「そうですぅ!パーティにも招待されませんでした!公爵家のパーティに行きたかったのに!それに私物を破壊されましたぁ~グスン」
通常、公爵家のパーティに招待されるのは、高位貴族の令嬢である。
私物も男爵令嬢が壊されたと言っているだけだ。
しかし、大勢の前で大声、しかも、殿下が言えば、それなりに信じる者も出てくる。
印象操作はできるのだ。
くだんの王子の婚約者、エリザベートは優雅に王子の前に参上した。
「どうした!言い分があれば聞いてやる!もっとも、その証拠とやらが無効だったら賠償として、フローリは公爵夫人、僕は公爵位を継ぐぞ!」
やってないことの証明は難しい。王子は全て無効と言い張る気だ。
一方、エリザベートも試されている。この場をどう対処するかで今後の彼女の貴族としての格が決まってしまう。
☆エリザベート視点
‘‘力を示しなさい’‘
何故、今、この言葉を思い出すのだろう。
この言葉は義母の言葉だ。
お母様が亡くなった後、お父様は結婚をした。お兄様は外務卿に仕官をし。屋敷を出た。夫人と外国で大使をやっている。
だから、屋敷の事をする者が必要と夫人を迎え入れたのだ。
連れ子もいた。
オレンジ色のフワフワした髪の可愛いタイプの子だ。
初めて会ったときの印象は最悪だった。
「貴女を可愛がると、野心ありと思われるから可愛がりません」
「はい、お義母様」
お義母様は私の教育を担当するが。
今までとは違った教育を受けた。
高笑いの練習だ。
「オ~ホホホホホホホホ~~~~~!」
えっ。扇で口元を隠し。高笑いをする。まるで演劇の女優だわ。そう言えば、この方、歌手兼舞台女優だったわね。
「はい・・・オ~ホホホホ・・・」
「ダメね。これは勝利の高笑い。腹から声を出さなければなりませんわ!」
私の令嬢教育は既に終わっている。だから、後は学園でやることは復習と人脈作りが主だわ。
時間はあるのだけども。
「いいですか。呼吸は内筋を鍛えますわ!もう一度!」
「はい・・・」
腹を押されて、体全体での発声を教えられたわ。
次はカーテシーの練習だわ。
「カーテシーの練習をしますわ!膝を折った姿勢を私が良いと言うまでやりなさい」
「はい・・・」
数十分でグラついた。思わず義母を見る・・・
義母もカーテシーの姿勢のままであった。文句はいえないわ。
8時間連続の日もあった。
「次は早くカーテシーをやります!1日一万回!」
「はい・・・」
疲れるわ。まるで女騎士のような訓練かしら。
しかし、自分の子には甘い。
「キャハハハハ、お母様!ドレスを買って~」
「まあ、いいでしょう。ドレスのカタログを持って来なさい」
疲れるし、この練習が何の成果を得るか分からなかったわ。
王宮に参内した時に誰かに相談しようかしら。お父様は義母の教育には口を出さない。そういう契約で結婚したらしい。
殿下とは・・・疎遠だわ。
王宮のお茶会の会場に向かう途中に王妃殿下に呼び止められた。
「これ、エリザベート、少し妾と話でもしようか」
「はい、王妃殿下・・でも、殿下とのお茶会に遅れてしまいます」
「まあ、伯爵家出身の妾とは話したくないと・・・グスン」
メソメソし出した。
私は軽くカーテシーをした。この人苦手だ。
いつも、私にカーテシーやマナーの指導をする。体型や家門により差があるのに。時々、変なマナーを作ったりもするから苦手だわ。
マナー違反を指摘するのがマナー違反なのに・・・さっそく、指導が入ったわ。
「ほお、カーテシー・・これが公爵令嬢のカーテシーかのう。妾は伯爵家出身じゃったが、日頃から厳しく令嬢教育を受けたが、こんなカーテシーははじめて見た。姿勢が悪い・・・あれ・・あれ」
王妃殿下が私の体を押す。
しかし、ブレないわ。動かないわ。
もしかして、お義母様の特訓の成果?
「!!!これは何じゃ!」
「では、ご指導有難うございました」
お茶会についた。時間は五分前だ。しかし、殿下は既に来ていた。
【おう!遅いな!王族を待たせるなんて!マナーがなっていないな!】
ガミガミ怒鳴られたが・・・
あれ、お義母様の高笑いに比べたら全然音量がたいした事がない。
「チィ、これにこりたら、王子を待たせるな!」
「はい、申し訳ございませんでした」
その日、思いあまってお義母様に訓練について尋ねた。
「無意味な反復訓練だと思いましたが、意味があるのですか?」
「そうさのう。基礎は出来たか・・・なら、満月の日に秘伝!『馬鹿王子地獄徹』を伝授しよう・・」
「はい、馬鹿王子地獄・・」
「貴女、鍛えれば千里走る馬と普通の馬、どちらを特訓しますか?」
「千里の方ですわ」
「貴女のひたむきさ。千里走る馬ですわ。私の実の子は、向いておりませんの!だから貴女に厳しくしたのですわ!」
「そ、そうなのですか?」
「私は商家の港町出身の舞台女優よ・・・貿易船で来た東洋人から習ったわ。秘伝の武術・・ハッケイ!」
その後、満月の日に秘伝、『馬鹿王子地獄徹』という技を受け継いだわ。
お義母様は大木に手のひらをあて、呼吸をすると、【フン!ハー!】
ドン!
大木が揺れるほどの威力だったわ。
・・・・・・・・・
「ほら!エリザベート!やっていない証拠を出せ!証言だけならダメだぞ!」
私はゆっくり床を滑るように王子に近づく。
「証拠は近くでなければ見せられないものですわ。少し、ご辛抱を、そしたら、爵位が手に入りますわ。末の王子殿下」
「な、何だ」
「ゲオルド~ォ怖いわ」
手の掌をゆっくり王子の腹にあて呼吸を・・・そして、カーテシーの上下運動と連携をさせて・・・
【フン!ハー!】
息を吐き。運動量の全てを手の掌に通した。
「ウワワワワーーーー!」
王子は三メートルぐらい宙に舞い。地面に背中から着地して。
ゴロゴロと転がり。壁に当たり止った。
『徹』とは上手く言ったものだ。殴るでもなく、打つでもない。
その余波で男爵令嬢は吹き飛んだ。
クルクル何回も回って、地面にへたり込んだわ。
ざわつきが聞こえる。
私は扇を口元にあて、勝利の高笑いをした。
【オ~ホホホホホホホホ!皆様、お聞き遊ばせ!】
「男爵令嬢なんて、軍で例えるならば、100人隊隊長!一方、公爵家は万を超える軍の将軍ですわ!
何故、虐めますの!とっくに暗殺をしていますわ!!」
これで力を示せたのかしら。
奥を見ると、王妃殿下がいるわ。カーテンに手を掛けて、座り込んでブルブル震えている。成り行きをのぞいていたのね。
後に聞くとこの婚約破棄は仕込まれたもので、王妃殿下はどうしても、自分の縁戚の子を王子妃にしたかったらしい。
では、私は颯爽と帰りますか。
「どなたか。エスコートして下さらない?」
「では私めが」
駆けつけた騎士の方が腕を貸してくれた。
このまま馬車止めに行こうと思ったが、そうは行かなかった。
「ご令嬢、申し訳ございませんが、少々取り調べのお時間を頂きたいです」
とイケメン騎士たちに膝をつかれてお願いされたら、嫌とは言えないのが令嬢の辛いところだわ。
「宜しくってよ。お紅茶を頂けるのなら」
「お茶菓子も用意させます」
「あら、いいわね。気が利くわね」
女騎士の宿舎に案内され。数日間丁重なおもてなしを受けた。
陛下の耳にも入り。お父様とお兄様の抗議もあって王家の有責で婚約破棄だわ。
条件は、王子をぶん殴った事はなかったことにする。口外禁止。婦女子に殴られるのは武芸未熟、紳士ではないとの事らしいわ。
しかし、ゲオルド殿下は噂が広まり。その後、王族の籍を抜け。男爵令嬢と結婚したけども上手くいってないらしいと風の噂で聞いたわ。王妃殿下は実家の伯爵家に出戻り状態だわ。
私には賠償金が入り。また、普通に貴族学園に通学する。
お義母様は普段と変わりなくそっけない。
「もう、私が教えられる事は全て教えたわ。貴族という魔物の大海、時として物理が有効になる時があるのよ」
「はい、義母様」
「使うときは、人生に一度か二度と思いなさい」
もう、あの技は使う事はないだろう。しかし、我が子には伝えようと思う。
お義母様は生家の商会と連携を取り。公爵家を発展させようと計画している。
義妹があんなに買ったドレスは・・・
「まあ、どれも既製品じゃない」
「お義姉様、ドレスは数です。数は力です!!」
商業学校に進みたいらしい。
私は、
王子をぶん殴った女として、婚約者がつかないと思ったが、辺境伯、騎士団長から縁談の話が舞い込んでいる状態だ。
最後までお読み頂き有難うございました。