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06.デート


日曜日の朝、私は、とても憂鬱だった。


一樹にダブルデートの約束を勝手に取り付けられた後、星奈と話す機会は、幾度となくあった。きっと、星奈も丸め込まれただけだ。話を聞いて、星奈が本当は嫌だったと一言、言えば、一樹に断りを入れればいい。そう思ったのに、結局聞けなかった。


もし、彼女の口から「実はね、神代のこと好きなんだよね」なんて、言われた日には、もう立ち直れない気がしたから。加えて、彼女からも私に何も言ってこないことが余計に私の不安を煽った。


そうやって、まごまごしている間にも件の日曜日は、すぐにきてしまった。私は、もしものことがあれば、琉惺くんに是が非でもチクってやるという三下のような何ともお粗末な心構えでいた。


デートという名目だから、あんまり適当な服装だとダメだよなと思い、黒のパフスリーブブラウスにデニムのワイドパンツを合わせた格好にした。シンプルだが、遊園地だからパンツスタイルの方がいいだろう。


待ち合わせ場所に着くまでの間も私は、気が重かった。なぜなら、友情というものは、恋愛が絡むと面倒くさいことになると知っているからだ。


私にとっての最優先は、星奈だ。だから、今まで彼氏も作ってこなかったし、必要だとも思わない。星奈だって、全くといっていいほど恋愛に興味がない……と思っていたのだが、どうやら違ったようだ。

もしかしたら、私に遠慮していただけなのかもしれない。


「おはよう!」


私が駅前に着いた時、もう既に星奈と戸田は着いていた。ちょっと早めに着いたつもりだったが、そんなこともなかったみたいだ。


星奈は、Tシャツにデニムのスクエアスカートという格好だった。スカートの丈は、少し短めだが、家を出る時に琉惺くんに咎められなかったのだろうか。そんなことを考えていると、星奈が私の隣にぴたりとくっついてくる。


「遅い……」

「ごめんって、これでも早めに着いたつもりだったんだよ」

いつもは、ツンツンしている彼女のしおらしい姿を見て可愛いなと思う。

「星奈と戸田って話したことあるの?」

「ない」

「そっか。なんか気まずい感じにしてごめんね」

「まぁ、一樹と二人よりは、マシだったんじゃない?」


彼の一言に、もしかして、そこを気遣って、彼は早めに来てくれていたのだろうか。たまたまかもしれないが、一応礼を言おうとすると、私より先に星奈が口を開いた。


「だから、戸田くん、私よりも先に来てたんだ。かなり、早めだったんじゃない? ありがとう」

「別に」

「星奈が素直に感謝することってあるんだ……」

「いや、私だって、ちゃんとお礼くらい言えますけど」

「でも、りこありがとう! 大好き! って言ったことなくない?」

「それは、いつもあんたが面倒ごとしか持ってこないからでしょ」


私達がいつもの調子で軽口を叩き合っていると向こうの方から一樹が駆けてきた。


「ごめんごめん! 遅くなって」

「いや、予想通りって感じ。ね、星奈」

「え、私は、神代くんのことよく知らないから分からない」

「いやいや! 言っとくけど、今日は、たまたま姉貴のせいで遅くなっただけだから!」

「一樹の名誉のために言うと、マジでいつもは、こいつが一番に着いてる」

「そうそう、で、寧ろ翔真が遅い方」

「一樹の印象が上がって下がったね」

「いや、何でだよ」

「よくこんな人と友達やれてるね。戸田くん」

「いや、星奈ちゃん。それは流石に辛辣すぎない……」


星奈の鋭すぎる一言に思わず、私も笑ってしまった。この様子なら、あまり心配しなくても良さそうだ。と思っていたのも束の間――


一樹は、相変わらず距離が近いし、星奈にベタベタとくっついていて、星奈も特にそれを咎めようとはしなかった。琉惺くんが見たら発狂ものだろう。

私は、今すぐ二人の間に割って入りたいのをグッと堪えていた。すると、隣から今の私の心境には、似つかわしくない、何とも爽やかな笑い声が聞こえてくる。


「何? 突然どうしたの?」

「いや、和泉ってそんな顔もするんだって思って」

「え、そんな顔って、私どんな顔してた!?」


少し大袈裟に茶化すと戸田は、私の眉間を指でトンっと叩く。


「しわ、寄ってた」

「マジか。うちの可愛い星奈ちゃんが一樹の毒牙にかかったらどうしようって気が気じゃなくてさ」

「あぁ、なるほど。他の男のものになるのが怖いんだ」


彼は、平然とそう言ってのけた。大体の人は、ここで、過保護かだとか、実は一樹のこと好きなんでしょだとか、言ってくるのに。真っ直ぐに核心を突いてくる一言に心臓が痛くなる。


「いやいや何言ってんの。そもそも星奈は、私のものじゃないし。仮に星奈に好きな人ができたって私に口出す権利はないって」


私は、半ば自分に言い聞かせるように語気を強めて言い切った。


「じゃあ、何でそんな顔してんの? 本当は、如月のこと――」

「いや、ないって」


その先を聞きたくなくて遮った。自分の心が見透かされてしまうことが怖い。見ない振りをしているものを突きつけられてしまうことが怖い。

だから、取り繕うように、それを殺すように、言葉を羅列する。


「そもそも幼馴染だから仕方なく相手してるだけだし。ていうか、私、あんなやつのことなんて――」


私の言葉は、戸田の大きな手に吸い込まれていった。


「思ってもないこと言って、自分の心すり減らすのやめて……っていっても、これは完全に俺が悪いよな。ごめん」

「……ううん。ありがとう」


戸田が止めてくれなければ、私は、私を一生許せない言葉を口走っていただろう。痛いところを突かれたからと言って、感情的になりすぎだ。けれど、同時に私にもこんなに感情的になれることがまだあったんだと安堵した。


戸田は、私の手を引いて歩き出した。気付けば、星奈と一樹の背中は、だいぶ小さくなっていた。


「待って」

「どうしたの?」

「別行動したい」


私の提案に彼は、心底意外そうな顔をした。

「如月達のこと、二人きりにしていいの?」

正直に言えば、星奈のことは、心配ではある。

ただ――


「見たくない」


星奈が他の人と仲良くしているところを見たくない。ただ、それだけだった。

私が多くを語らずとも彼は、その一言だけで察してくれたようだった。そして、ポケットから携帯を取り出すと、慣れた手つきで指を動かし、すぐに仕舞った。


「一樹には、はぐれたから後で合流しようって言っといた」

「なんか、ごめん」

「いいって、俺が和泉と二人になりたかっただけだから。ほら、どこ行きたい?」

彼は、入場時にもらったパンフレットを広げる。


「気にならないの?」


私の問いに、一拍置いて彼は、顔を上げずに言った。


「気になるよ。けど、無理に聞き出したいとは、思わないし、そういうのって、相手が話したいと思った時に話してくれれば良いと思ってるから」


ほっとした。彼が私の心にずかずかと土足で乗り込んでくるような人ではなくて、良かった。


「大人だね」

「高校生は、もう大人でしょ」

――そうかな?


小学生の頃、母親が居ないことについて、色んな子に聞かれた。

中学生の頃、両親がいないことについてあることないこと言われた。

高校生になって、一人暮らしをしたがる理由を祖父母にこれでもかと詰問された。


彼らは、自分の好奇心を満たすために私の心を荒らすだけ荒らして、去っていく。そして、私は、羽をもがれた蝶のように、その場から動けなくなるのだ。悪意だけじゃないことが余計に(たち)が悪い。


だから、上手く嘘をついて、軽く笑い飛ばして、できるだけ軽傷で済むように相手をいなす。気付いたときには、本心を言える相手は、一人も居なくなっていた。

私は、星奈にさえ、上手くぶっかれなくなってしまっていたのだ。


不意に彼が笑った。


「ごめん。大人だけど、これ乗りたいわ」


彼が指さしたのは、動物の形を模した電気自動車だった。それを見て、私も思わず吹き出してしまった。


「わかる。いくつになっても乗りたいやつ」

「だよね」


二人で笑い合い、さっきまでの緊張感が嘘のように今は、ただ心地が良かった。


その後、私達は、ジェットコースターやお化け屋敷、コーヒーカップ、あらゆるアトラクションを楽しんだ。まるで、恋人のように穏やかで心地の良い時間だった。

戸田は、私について詮索してこないし、面倒な好意を寄せてもこない。星奈と違って、良い意味で大事にしすぎる必要もない。


私にとって、まさに、理想の友達だった。


あんなに気になっていた星奈達のことも合流するまで忘れていたくらい何も考えずに過ごせた。

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