第99話 ちょっと威嚇してみようか
返事と同時に駆け出すオレたち。
いつエンリと遭遇しても良いように愛銃を抱え、工房の庭を通って大階段を一思いに駆け降りる。
「あの!」
「うぉう!」
大階段を降りきったところでその辺にいた人に声をかけたのだが驚かせてしまった。ごめん。
「この住所ってどっちでしょう?」
メモを見せながら。
よくよく考えてみたら書かれた住所がどこか解らない。
「どうも!」
住所の場所を訊いて、再び走り出す。
まずは近くにある職場の方へ。
オレと石見は体力を必要以上に使わないよう少しの間声を出さずに走り続け、茶葉の売店に辿り着いた。五十種類以上の茶葉を扱う売店だった。試飲も可能なようだ。
いやそれは良くて。
駆け込んだオレたちをお客さんや店員さんが驚きと共に迎え入れて、困ったような表情になる。
「ここにエンリと言う女性の御両親は居られますか?」
しかし今はしようがない、と思ったのだろう。構わず問いを投げかける石見。
だが、残念ながら狙われている御両親は現時点居られなかった。
事情を説明したら、今の時間なら茶葉の仕入れに他区画に向かってこちらに帰ってきている頃だそうだ。
「ありがとうございます。糸掛」
「ああ」
店内から出て、屋上へとひとっ飛び。足を着く。
さて、どうする? エンリは御両親のスケジュールを把握しているだろうか?
それともこの周辺まで来ているか?
或いはイーラ・スカイから出て家のあるイーラ・アースの方に?
「ちょっと威嚇してみようか」
「え?」
オレの返事を待たず、石見が魔力の放出を高め――轟音。近くにあったデパートの屋上からだ。
敵意を感知し即座に銃を構えるオレと魔法を発す手を伸ばす石見。
その内の一方、オレの持つ銃の銃身に足を着く、豹人。
エンリがデパートの屋上から跳躍して来たのだ。石見が放った魔力、そこに込められた殺気に釣られて。
オレの方に着地したのはオレが石見の前に陣取ったからだろう。けれど狙いは石見だ。エンリの眼は殺気を放った石見を捉えているから。
ならば。
「――っ!」
今度はオレが石見よりも大きく殺気を放つ。
エンリの眼がオレに向き、オレは一瞬だけ銃から手を離して銃身を斜めにずらしエンリの体勢を崩させる。
「エンリ! 訊こえるか⁉」
即座に背後へと跳んで距離を取ったエンリ。
魂は消失させられている、はずだ。だが話によるとエンリの意識は少なからずある。きっと体にも意識は宿るのだろう。ここに、御両親の元に来ているのがなによりの証拠。
オレの言葉にも反応してくれるのを期待したが、エンリに動揺は見られず、代わりに幾人かの人がエンリへと飛び掛かった。
準魔法士に、自分に自信のある普通の人。
そうか、もうエンリたちは危険度AAのグリムとしてクエストリストに載っているんだ。彼女を狙う人もそりゃいる。
だが。
「いけない!」
石見の懸念の叫び。不安は的中し飛び掛かった人たち全てがエンリの爪によって刻まれる。
住民や観光客からの悲鳴。苦悶と流血、刻まれた人たちが倒れていく。
「私が魔法で治療します! 動ける人は自力で下がって!」
戦闘とは無関係の人たちの前方へ移動しながら、石見。
彼女が治療に入ったのを確認してオレはそちらにエンリの意識と攻撃が向かないよう銃を撃ち続ける。
エンリは殺気に反応した。ならば殺気を浴びせ続ければ全ての攻撃はオレに向くはずだ。なのだが、エンリを止めようとするのはオレだけではない。
他の準魔法士、警察、賞金稼ぎ。特に仲間を傷つけられた人たちが傍観していられるわけがなく。
エンリと距離を縮めて各々の武器で攻撃し、または後方から援護する。
しかしこれら全てをエンリは捌き続ける。速いのだ。全部の動きが。
そうしていると人々の避難が警察の誘導によって始まった。オレたちが戦闘を繰り広げる場所から遠くへと離れていく。
ありがたい。時間が経つごとに増える傷つく建物には申し訳ないが。まあこれらはまた建て直せば良いと言う事で。
「行くぞ」




