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メルヒェン・ヴェルト ~世界に童話を~  作者: 紙木 一覇
第二章

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96/96

第96話 グリムとしての魔法です

 さてどうするか。世話になったのに寝ている間にサヨナラしてしまうのはちょっと気が引けるな。

 ならば。


「カノ、フォゼ」


 寝室の扉を閉めて二人を呼ぶ。


「おうよ」

「訓練の続き、ですね」

「ああ」


 三人揃って再び庭に出た。

 適度に距離を取り合って銃を構え――たところである人物が現れる。

 その人、男性は千段ある階段を駆け足で昇って来たのだろう。膝に両手をついて呼吸を乱していた。

 銃を持ったオレたちにちょっと驚いて口をパクパクと開閉させた後男性は言う。


「ダ……ダアトさまは居られますか!」


 なんだなんだ?


「ダアトさんは今疲れ切って爆睡中ですよ。あ、私たちは客です」

「総警庁の者です! 緊急なのですが!」


 大声で言われた。慌てて口を塞いだところを見るに自分でも予想外な声量だったのだろう。そうとう焦っているようだ。

 と、大声に気づいて工房からお弟子さんたちが顔を見せる。お弟子さんの一人である二十後半・フレンチグレイの髪、アッシュブロンドの瞳を持つ男の人が玄関から出てきて。


「先生は眠られております。話は(それがし)が伺いましょう」


 作業着姿の男の人は一礼と共にこう言った。そして続けて、


「某はムムルと申します。先生の弟子の長を任されている者です」


自己紹介が入る。

 このムムルさん、なんと一年とちょっとでお弟子さんの長にまで上り詰めた人。努力と才能を併せ持つ万能型。ダアトさんは「一人立ちが一番近い」と話していた。


「まず中へ。可能なら落ち着いて話をしましょう」

「は、はい」


 ムムルさんに促されて男性は客間へと通された。すぐに女性がお茶を運んで、それを一気にあおる。走ってきたせいで喉が渇いていたようだ。

 扉や窓は全開にされていて誰もが視聴可能状態。『緊急』の言葉を()いたムムルさんの厚意によってオレたち含む全員に話が行くようにとの配慮だ。オレたちは外に立って窓から訊いている。


「では、案件からお訊きします。緊急の事態とは?」

「はい。

 午前の内に下の方で人同士の諍いが起こりました」


 人同士、とわざわざ言ったのは精霊や妖精もいるからだろう。


「諍いのきっかけは病を持つご老人が倒れられた事。

 現場にいた二人は、共に駆け付けたのですが一人が救おうとしたのに対しもう一人は即、命を断念しました。病院に連れて行こうとする一人を止めたのです。そしてもう助からないからと、心臓を……ナイフで一突きし、命を奪ったのです」


 ……成程。助けようともがくタイプと即断即決で苦しむなら死を、のタイプの衝突か。


「基本的に考えが違うようでした。

 互い認め合えれば良かったのですが、助けようとした一人は怒りました。もう一人も自分の行動に自信を持っているので譲りません。

 意見の対立は争いになり、助けようとした一人が機械獣を使用、命を絶った一人が獣人化の魔法を使用します。

 争いは魔法士の圧倒。勝負にならないようでした。

 が、ここで問題が。

 魔法士の意識が徐々に失われていきます」

「? なぜ?」

「別の意識におされていたのです。

 これをチャンスと見た準魔法士が攻撃を仕掛けますが、魔法士が別の魔法を使用しました。

 ……グリムとしての魔法です」

「「「!」」」

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