第92話 一段一段歩いて昇ってくるように
なんかすっごい。
区画最大の停留場に着いたのだがなんて言うかデザインが……奇想天外。
そこかしこに謎のパイプがくっついていると思ったら歯車が絡み合って不気味と言うか奇妙と言うか子供が泣き出しそうな人形を動かしているのだ。
他にも泡がブクブクと下から出ている水槽がある。
顔を持った太陽の金属板があれば顔を持った月の金属板に睨まれていたり。
大きくカラフルな筒を覗き込んでみると花が大きな口を開けて笑っている。
一番厄介――じゃなくて変わったデザインなのは出入口だ。
床を決められた順番で踏まないと落とし穴に落ちて出入口から遠ざかり、辿り着いても決められた順番に木片を動かさないと出られない。
トイレが普通なのはせめてもの良心、ではなくデザイナー本人がここを作っている際に漏らしたくなかったからだと訊いた。
「めんどいな!」
「やっと出られたねえ」
無事に駅を出て、意味なく疲れを感じるオレたちであった。
出るのに二十分使ったよ……迷路か。
「んじゃ、工房の情報とホテルをとるのどっちを先にする?」
「え? 工房に泊めてもらえば良いんじゃね?」
オレの問いに応えたのはカノ。
「……まあ宿代は浮くけども」
変な人でありませんように。
て言うかこっちの図々しさに怒らない人でありますように。
「じゃ、工房探しだね。レッツゴー」
ゴー、と言った石見を先頭に動き出すオレたち。
停留場の正面には大通りがある。
土産物屋が並んだ通りだ。
食をアピールする人、木造りのパズルをアピールする人、ガラス細工の器をアピールする人。
様々な文化が入り乱れていた。
成程、交易の街の影響を受けた区画に恥じない品揃えだ。
「あの、この辺りに魔法石の工房があったりしませんか?」
「ああ! あるよ!」
訊いた石見の言葉に元気良く返すのは綿菓子を売るおっちゃん。もちろん全員分綿菓子を買った後の質問だ。だから応えてくれた――のかどうかは今となっては不明か。
「けどここにはないんだ! イーラ・アースにもない! あるのはその中間! 一応住所はイーラ・スカイになっているけれど実際は半分イーラ・スカイで半分イーラ・アース! 小さな浮島にあるんだ! 大通りをまっすぐ進んでみな! 浮島に伸びる階段が見えてくる! そいつを昇れば工房だよ!」
街の喧騒に負けないように大声を張るおっちゃんに「ありがとうございます」と返して言われた通りに大通りを進む事にする。
種々様々な店前を通り過ぎてまっすぐ伸びる大通りを進み――
「あれか」
直進する道と大きく右にカーブする道、つまりは枝分かれする場所に着いた。
そしてカーブする方に目を向けると確かに階段が見える。イーラ・スカイから、ガラスに覆われた街から外に出る階段だ。
これを目指してカーブする道を進む。
色んな土産物が売られていたから目移りしつつ、工房主に渡す為の菓子を二つ選んで購入。初めて行くところだから一応ね。
端っこに着いた。
階段は――光の階段は既に始まっていて、しかしわずか三段昇ったところでガラスに先を塞がれる。ガラスには扉がない、ように見えたが正面のガラスに触れると前に少し引っ込んで左右に開いてくれた。
「おっと」
と、ちょっとだけ驚いて足を止めるオレ。
外に出て階段の続きを昇ろうとしたらいきなり目の前にホロウィンドウが表示されたからだ。
「注意書き、みたいですね」
内容はと言うと。
『一段一段歩いて昇ってくるように。ズルすると会ってやんないんでよろしくサンキュー』




