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第09話 騎士団か

「――?」


 これは魔法士の嗅覚があるから(わか)るのかも。石見(がらみ)が言うには空気を操って真空の円刃を作り、辺り一帯に配置されているとの事。


「今、空気の流れを知覚化してあげる。

 視えろ()


 石見が一言唱えると光が広がって大気に色がついていく。黄色がメインできらきらと光って見えるそれはまるで――


「海の中にいるみたい」


 恐らくこう言ったモノを見るのは初めてだったのだろう。古栞(こおり)は状況を忘れてこの幻想的な光景に魅入っていた。


「……って、この円刃、ゆっくり動いとるで」

「そうだね。一つ一つがぶつからないように私たちの逃げ場を完全に封じている。

 私たちがただの人間だったら成功しただろうけれど――」

「破りますぞ。

 風よ(オン)!」


 校長の魔法によって大気に流れが生まれ、暴風となってオレたちを包み込む。それに煽られた円刃は互いにぶつかり合って壊れていき。

 ところが。


失格(C)


 校長の造り出した暴風が一瞬にして霧散。


「なんと⁉」

捕縛(C)


 縄が幾つも投げ込まれ、その全てが蛇に化ける。


「いやぁああああああああああああああああああ!

 うちこれあか~~~~~~~~~~ん!」

「私もダメ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

火精に願う(ソ=ル)!」


 初君(ういくん)の火魔法。蛇たちが炎に包まれた。


殺せ()!」


 石見はその残り火を利用して炎を蛇を放った人間に向けて逆流させる。


『ああああああああああああああああああああああああああああああ!』


 どさり、と上から落ちて来る何者か。


「あんたは――」


 その姿は魔法士にしては中々に異様だった。

 全身に機械を纏っているのだ。手に持つ剣もまた機械製。準魔法士はなんらかの魔法具を介して力を発揮するが、それとは違う。つまり魔法を使いながらも魔法士でも準魔法士でもないのだ。

 見覚えがある。彼は間違いなく、


「騎士団か」


人赦聖騎士団(アイディール・ナイツ)』――魔法具を介しても魔法を使えぬ人間が機械で魔法を再現する世界的な財団。

 この男はそこの聖騎士(パラディン)で間違いない。


「他にもいるな。出てこいよ!」


 しかしその呼びかけに応えるモノはなく。当たり前か。

 ならば炙り出す。


刺せ()


 茨の鞭が顕現し、石見はオレたち以外の人の気配に向けてそれを放つ。


防護(C)!』

裁断(C)!』

弾圧(C)!』


 様々な場所から()こえて来る声。

 ぼとりと落ちて来る聖騎士(パラディン)

 オレは迷わず聖騎士(パラディン)の動きを封じる為に脚を撃ち抜き――銃弾の威力を加減した――その隙を狙って上から別の聖騎士(パラディン)が光の剣を以て襲い掛かって来た。


叩け()

『――⁉』


 しかし聖騎士の両側から巨大な手が顕現して叩き潰される。

 蚊の如くに叩かれた聖騎士(パラディン)が落ちて来て、そちらは校長が動きを封じた。


「ん?」


 防御に回っていても埒が明かないと睨んだのだろう、一斉に襲い掛かって来る聖騎士(パラディン)たち。攻撃は最大の防御とも言うしね。


ぶっ飛ばせや(ミスティ)!」

「おお?」


 殆どヤケクソ気味な古栞の声。すると大地が盛り上がって巨大な土の拳骨が聖騎士(パラディン)たちをぶん殴った。

 思わぬ攻撃だったのか聖騎士(パラディン)たちは情けなく飛ばされて次々に落ちて来る。


「どや! 貴重なマジックアイテム使ったで! タダで! 悲しい!」

「うん立派ですよ」

「校長せんせ! 通知表に色つけてや!」

「そ、それはダメです」

「ええ?」


 ダメに決まってる。






 そんなこんなでその後オレたちは気を失っている聖騎士(パラディン)たちを縛り上げて一息。一旦地上に戻った。

 捕らえた聖騎士(パラディン)たちを『日雷(ひがみなり)』の外部顧問である教会に護送する必要もあったから檻を引きながらの帰還である。

 地上に戻ると野次馬化していた生徒たちが好奇の目を向けてきたがそんな中で吸う地上の空気が妙においしく感じられた。地下の空気も澄んではいたのだがやはり吸い慣れた空気の方が安心する。あれだ、三大珍味よりいつもの食材の方がおいしく感じる、あれと同じ。

 オレは一人、聖騎士(パラディン)たちを教会に預ける為に別行動、その後学校へ戻る為に歩き出した。


「ん?」


 学校への帰路の途中で大きく手を振っている女の子が。


「石見」

「遅いよ糸掛(いとかけ)

「どうしたんだ?」

「どうしたって、日が暮れて来たから迎えに来ただけだけど?」


 ごくごく当たり前のように言って来る。

 迎えに、か。


「なに笑ってんの?」

「いや別に」


 迎えに来てくれる人がいるのはうれしいモノだ。独り身が長いと尚更嬉しく感じる。独り身って言う程歳とってないけど。


「きもいよ」

「きも⁉」


 ショック。

 そよ風が吹いた。ふわりと舞う石見の髪の毛から緑の香りがして。


「石見、山の匂いが染みついているよ」

「ええ? お風呂入ったらちゃんと洗おう。私、果実の匂いが好きなのに」






「おっかえり~」

「ただいま」


 学校まで戻って来て出迎えの一言をくれたのは、古栞。他の面々も首を縦に振る。


「合流出来たみたいやなぁ。石見ったら一緒に行けば良かったってずっと心配しとった――むぐい」


 ぺらぺらと良く動く口を手で封じる石見。頬が少し朱くなっていた。可愛い。

 心配して迎えに出てくれていたのか……それはなんと言うか……こそばゆいね。

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