第86話 みんな、自分の心に決着をつけてね
思わず声が出た。これくらいの会話なら許されるだろう。
そしてなめないでいただきたい。オレにだって考えはある。
「たまにブレていたんですよ、視界が。
子供の頃、オレでありながら別の誰かが見ていただろう景色が視えた。歳を重ねるごとに視えなくなりましたけど。
あれは――オレ以外の子供たちの記憶でしょう?
オレが真紅の眼を持つ……天使と同じ魔法を使用していたからだ」
「「「!」」」
オレには魔法の才がなかった。と、思っていた。
しかし違うのだ。
なんらかの魔法をオレは使用している。
そう考えたのは一つの理由から。
オレは“定期的に石見に禁忌の魔法をかけてもらわなければ準魔法士ですらいられない”。
つまり石見の魔法が消えていっていると言う事で。
「オレが使用していた魔法、いま無意識に制御している魔法、それはきっと、魔力の吸収だ」
天使は言った。自分とオレが同じになったと。
天使は子供たちの心を把握する。それが他者から魔力を吸収する際に起こる現象だとしたら?
まさに他者の記憶を盗み見ていた子供の頃のオレと同じだ。
オレは歳を重ね無意識に魔力吸収を自分のみに抑えられるようになったが、天使はオレよりも完璧に魔法を制御しているとしよう。必要に応じてグリムたち、子供たちの心を把握しているとしよう。
まさに、頂点に立てる存在だ。
「【メルヒェン・ヴェルト】がなんで、篝火がなにか、グリムの王とは何者か、天使がどうしてそんな魔法を持っているのか、これまでの推測と貴方から今訊いた内容で察する事が出来た。
人がグリムになる。人を強く変えられるモノがあるとすればそれは人だけだ。人の想いだけだ。
ならばギフト・イヴェントを変えた残滓――【メルヒェン・ヴェルト】とて人の想い。人の心の世界そのものなのではないか! 彼の体を使うグリムはこれまで積み重ねられてきた人の心、世界を形成出来る程の心の塊、あらゆる心に繋がるからこそ『王』を名乗る!
子供たちの願いを照らす太陽――そんなモノがあるならばそれは親の祈り! 篝火とは子を想う親の心だ!」
以前『日雷』座元ネゥさんは子供たちの想いが途切れ始めているせいで篝火が消えようとしている――と語ったが違うのだ。途切れようとしているのは子を想う親の心だったのだ。
「篝火が浸透した事で世界が変わってしまったのは単純、親の心を受け、子供たちにとっての遊び場に変わっただけ! 元に戻す方法があるのかは解らない……。
天使――『グリムの緑后』が何者なのかも解らない……。
けれど、きっと人の心に関係がある。
そうでしょう?」
「……驚いた。
みくびってごめんなさい。
ええ、ええ。そうよ」
「どうして影をグリムと呼ぶのか、最初にそう名付けた者がいる。
最初にグリムと言う存在を認識した人間か、グリム自身がそう名乗ったのかまでは不明だけれど」
「そうね。
では、驚かせてもらったからそのお礼に独断で情報をあげる。
カノ、フォゼ。
魔法麻薬『エンゼルエンゲージ』の生産者は『ドーン・エリア』にいるわ」
「「!」」
「ここまでよ。
Iが言えるのはここまで。
話を少し戻しましょう。エンリたちについて。
先に情報を渡すのは貴方たちが彼女たちと近い仲だったから。裏切られたとしてもね。
だから、討伐は貴方たちにお願いすべきだと判断したの。
Iの祭姫としての占いによればエンリは近く貴方たちの周辺に現れます。『ドーン・エリア』に住み、働く彼女の親の元に向かう為に。
倒すか捕獲するかは任せます。
みんな、自分の心に決着をつけてね。
では、良き旅を」
星綴澪が去って行く。小さく靴音を響かせて、影が小さくなって消えた。
残されたオレたちは――
「さて、目が覚めたね。枕投げでもする?」
「なんでだよ。
て言うかもう寝たフリは良いよルゥリィとハィルベ」
「あ、バレてました?」
「いやーシビアな話してたからなあ」
「色々判明しましたね。国に持って帰って精霊たちでも共有したいです」
「明日にでも発つか」
「え? いなくなっちゃうの?」
驚きと淋しさを表情に混ぜて、心樋。
「大丈夫。生きていればいつか縁はまた重なるでしょうから」
「出会いは旅の醍醐味。再会もな」
「……うん」
「はあ、マインは寝るぞ。心労がすげえ」
「ではおれも。行きましょう心樋」
「はーい」
え? 待って。この状況でも二人にされんの?
「大丈夫ですよ。わたくしたち、聞き耳は立てませんので」
「安心していちゃつけよ~」
え~?




