第84話 この『ドーン・エリア』スリートップの一つ、祭姫です
「植物と言うのは人を支えているモノの一つです。
古来より共にあり、育て、食し、愛で、慈しみ、英気を養む。
人は植物を必要とし植物は人を必要とする。
この関係を守っていけばきっと未来にも花は咲くのですよ」
大浴場施設を出て、火照った体を冷ましていると石見・心樋・カノとルゥリィが合流。四人共頬が赤い。
それが妙に色っぽくて思わず見惚れて――
「エローい」
からかい顔で、石見。
え、エロくないわ。多分。
「この後は枕投げだな!」
「いえもう夜だから騒いじゃダメですよ」
「え~」
て言うか人間用の枕が当たって無事に済むのかハィルベよ。
テントへの帰り道に交わされる雑談。
いかにも旅行って感じで心地良いのだが……この後の事をどうしても考えてしまう。
つまり、あれだ、その、ベッド。
そのベッドが鎮座するテントに着いた。
もう今夜は寝るだけだ。……寝られるかな?
ちょっとだけみんな同じベッドの上に座り込んで雑談の続きを。
そうして時間は過ぎていき――夜十一時。
「さあてえ、そろそろマインらは隣に移るか」
意味ありげに笑うな、カノ。
「行きましょうか心樋。
糸掛は今夜大人になります」
妹に変な表現吹き込むな、フォゼ。
ルゥリィとハィルベは倒れるように眠ったから心樋の手の上だ。
顔を見合わせて笑いあう、オレと石見。
まあ良いや、今夜はこのまま――
「少し構わないかしら」
「「「――!」」」
みなが出て行こうとしたところでテントの外から声が。その声音に誰もが驚き動きを止める。
だってこの声は!
「星綴澪⁉」
全力の小声で、オレ。
大声を出して周囲に気づかれてはなんだろうし咄嗟の判断だ。
石見は出かかった声を飲み込んでいる。自分の口を両手で押さえながら。
カノは思わずテントの出入り口の幕を開けようとしたフォゼを止めて、心樋は落っことしそうになったルゥリィとハィルベを抱きとめている。
「ありがとう気を使ってくれて。助かるわ。
そのまま訊いて。訊くだけで良いわ」
だけで良い、と言われたが頷く。テント越しだから見えていないだろうけれど。
こちらからは影が見えている。夜になってライトの類の光量は最小限に落とされているが歩道を照らす光はあるから。
人の、女性の影。背に羽がある女性の影だ。
声にこの影。そして雰囲気。
星綴澪に間違いなし。
しかし良く騒ぎにならずここまで来られたものだ。
「ああ、ギターとドラムの子がいたでしょう? あの二人が道を用意し見張っているの」
心の疑問に応えてくれる。
「あの二人はIのバンドメンバーであるのと同時に従者――巫女と神官でもあるから」
従者? 巫女に神官?
「信じるか否かはそちらに任せるわね。
Iはこの『ドーン・エリア』スリートップの一つ、祭姫です」




