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第83話 あ、火の粉で服に穴開いているや

 お肉が焼ける匂いがする。

 野菜が焼ける匂いがする。

 口に飛び込んでくるちょっとだけ血が混じった味のお肉は歯を使わず舌で切れるレベルの柔らかさ。生に近いくらいがオレの好みだ。

 野菜はぶっちゃけ焼かなくてもいけるからちょっとだけ火を通して口に運ぶ。


「あー!」


 と言いつつトマホーク肉に噛みつくハィルベ。ちっこい体のどこに入るんだと言いたくなる程の大食漢だった。


「クルミが良いアクセントですわ」


 こちらはお肉と野菜をひと通り味見して早速クッキーに手を伸ばしたルゥリィ。一枚食べるとまたお肉と野菜を一周してもう一度クッキー。変わった食べ方だ。


「ジュースでお腹いっぱいにするのはもったいないな」


 炭酸ジュースを三口飲んでお肉に手を伸ばすは石見(がらみ)。意外な事にトマホーク肉にかぶりついている。海賊や山賊のようだ。そしてそれをオレにも勧めてくる。なのでオレもトマホーク肉にかぶりついて――え? なにこの解放感。賊の気分が理解出来てしまった。


「これも焼きます」


 まだまだお肉や野菜も残っているのにマシュマロを焼き始める心樋(ことい)。お菓子の方が優先されるらしい。


「こう言う時だけの楽しみだよなあ」


 と言って焼きとうもろこしに歯を立てるのはカノだ。雑に噛みついているのに一つ一つの実――実、だよなあの黄色いの――が綺麗に取られている。器用だな。


「ふふ~ん」


 鼻歌を奏でながらお肉をしっかり焼くのはフォゼ。オレとは違って生に近いのは苦手らしく。お肉が焼けるまでにウィンナーに手を伸ばし口に運び、咀嚼しながらお肉の面倒を見ている。

 三者三葉、十人十色の食べ方を披露しつつバーベキューは進む。

 この後お腹の調子を見ながら一時間くらいかけて食事を終え、日課のトレーニングを終え、お風呂の時間。


「あ、火の粉で服に穴開いているや」

「おれもです。ずっと火の近くにいたせいか結構な数開いてしまいました」


 服を脱いでいる途中になって初めて気づく。

 気に入っていた服だからちょっとショックだがしようがないか。楽しかったからオッケーにしよう。


「ぼくら精霊の服は特別な繊維で出来ているから穴なんて開いてないぜ」

「その繊維を人間にくれたりは?」

「貴重品だからな、流石に無理」

「ですか」


 まあ良いさ、服はまた買おう。


「「「ひっろ」」」


 脱衣所から浴場への扉を開いて。

 中には他のグランピングリゾート利用者もいっぱいいて、石鹼やシャンプーの匂い、それと入浴剤の匂いがした。

 まずはきちんと体を洗って、済むと湯に浸かる。


「「「はぁ~」」」


 って声出るよねえ。

 お湯はちょっと熱めか。四十二度くらいかな。熱いけど気持ち良い。

 十分浸かり続けてお次はサウナ。

 いやあっつい。なにこれ地獄?

 たった四分でギブアップしたオレは競い合いを始めたフォゼとハィルベを残して浴場ではない方の出口を開ける。そこに広がる光景は水風呂と森林。

 オレは水風呂に飛び込み、体を冷やしてから空いていた椅子に横になった。

 これが整うってやつかぁ。頭がぼんやりするのに世界がクリアに感じる。木々の匂いも強く鼻をくすぐられる。


「良いねえこの匂い。ぼくらの国とは違うけど植物の匂いってのは心に良いもんだ」


 お? いつの間にやらハィルベが横の椅子に。人間サイズの椅子だからアンバランス。

 フォゼは――まだサウナか。


「科学的に発展するのも良いけどよ、植物を大切にする気持ちも忘れないでくれよな」

「……ああ」

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