第82話 今夜が楽しみですわねー
「え? キミらって恋人なんだ?」
「そうなんです超一応恋仲ですよ石見」
「超一応ってなんだよルゥリィ……」
超意外。ルゥリィの方がお姉さんに見えたからハィルベは可愛がっている弟分だろうくらいに思っていた。
「そちらはどうなのです?」
「兄さんと石見さんが恋人だよ」
「マインとフォゼは姉弟だ」
「あらそうなのですね。
恋人二組と」
「待て、なんでマインたちを恋人にカウントした」
「血縁で恋人は神話の時代から当たり前なのでは?」
「確かに神話じゃありだしそう言う国も残ってるけどよ、マインらは違うぞ。なあフォゼ?」
「ですねえ。姉さんが恋人作らない限りおれはずっと世話役って感じですねえ」
「おま……そんな感じでマインといたのか」
こんな話をしながら、
「あ、施設に着いたぞみんな」
歩道の角を曲がってゴールに辿り着いたオレたち。
グランピングリゾート施設に着いてまずは入場料とテント二つ分の利用料を払った。フラワーフェスティバル中だから空いているかどうか不安だったが杞憂に終わった。どうやら街中のホテルや旅館が頑張って数を確保し、ここのようなフラワーフェスティバル中にもかかわらず通常営業中の施設には空きがある程度は存在するようだ。と言ってもオレたちが入った事で満室になったのだが。
「みんな~中入ってみなよ、色々揃っているよ」
石見に手招きされて、白いテントに入ってみる。
まず中の快適な室温に驚いた。テントの中って少し暑いイメージがあったが、小さな空調がしっかりと仕事をしていた。
他にはテレビと椅子とテーブル、冷蔵庫に金庫、ホテルの一室かいと言いたくなる程に手厚い歓迎っぷりだ。キャンプ初心者にはちょうど良い。
の、だが。問題が一つ。
「……またか」
「まただねぇ……」
以前と同じ問題がドヤ顔でやってきた事に苦笑する。
「あら? なにか問題がありまして?」
「あるんだよ。なぜならオレと石見って一線超えていないので」
「糸掛、臆病だからな」
「どうして訳知り顔で言うのか、カノよ」
お前オレの夜知らんだろ。
「話訊いてるとカノ・フォゼ・それに心樋と合流するまでは二人旅だったんだろ?
どうしてそうならなかったんだ?」
「どうしてって」
今考えると本当にな。チャンスをモノに出来ない男・オレ。
「いえいえ、昨今は女の子から行くのもありですわ。
石見、どうぞ」
「どうぞ言われても」
「「せっかくベッドがあるんだから」」
声を揃えて言うな精霊たち。
そう、テントの中にはベッドがある。ドーンと、おっきなのが一個だけ。
綺麗にシーツは整えられ、大小五つの枕がディスプレイされていてテントの中央に居座っていらっしゃるのだ。
「覚悟決めるっきゃねーな!」
楽しそうに言うな。精霊ってこんななのか。
「……糸掛」
「うん?」
「お風呂は?」
「え?」
「お風呂」
「えっと、近くに大浴場があるからそこで入るんじゃないかな、石見」
「成程」
「……どうして急にお風呂に話が及んだ?」
「……男は狼って言うし……」
そうか。オレと言う狼が石見と言う兎を喰おうとする可能性があるから身は清めておきたいと。
……いやいや。ない――とは、言い切れない、か?
「心樋と精霊たちはおれたちの方でお預かりしますよ」
「「え」」
「心はもちろん体でも伝えないとどっかの誰かにとられますよー」
「そうだぞー」
まじ黙ってて。
とは思うモノの精霊たちが言うのももっともで。
誰かにとられる未来と現実なんて想像だってしたくない! とられてはたまらないのだ! “最中”に襲われるかもなんてどうでも良い! だから!
「石見。
今日は二人で寝ようか」
「……」
あれ? 沈黙?
「若干勢い任せって気がした」
そうだけど……呆れられている?
「けどまあ、ここまで時間があって良かったよ。
私たちの相性? ってのも解ったし。
後になって つまんない男 とか思いたくないし」
「……うん」
「ここで最終確認です。
糸掛って私をどう思ってる?」
「……」
それをみんなの前で言えと。宣言しろと。
ならば。
「好きだよ」
言うさ。みんなの前であろうとも、堂々と。
「……そっか。
私も好きだよ。
その、よろしく?」
「なんで疑問形」
互いに苦笑が漏れた。けれどこれはイヤな苦笑ではなくほぼ照れ隠し。
なにはともあれ一歩前進だ。
「今夜が楽しみですわねー」
「だなー」
「じゃ、バーベキューしようぜ! 祝いも兼ねてな!」




