第80話 耳ひっぱんないで?
はぁ~、堪能した。
計六曲歌った綵のライブを終えてオレたちはドームを出た。
出て、みんな放心状態。
ライブは短時間だったのに体は熱くなり、ドームの外の冷えた空気が心地良い。
とは言えドームの外も人でごった返している。いつまでも立ち止まっていては迷惑だ。移動移動。
「みんな、一先ず路面電車だ」
「ふぁ~い」
いかん、石見が夢の彼方から戻って来ていない。ならば。
「てい」
「いたっ」
目覚まし代わりのデコピンを一発。
「起きたかい?」
「お、おお」
手を繋いでいる心樋は――
「だいじょぶ」
むしろ目が冴えているな。
「ちょいと待ってくれ、フォゼが撒かれた紙吹雪記念に拾ってる」
あ~それオレも初めてライブ行った時やったなあ。三年くらい大事にして今どっかにいってしまったけど。実家に残っているかな?
「ルゥリィとハィルベは――いっか。頭の上だし」
精霊二人はオレと石見の頭の上で寝そべり状態だ。こちらも夢の彼方から戻って来ていない。
体の小さい二人に一撃デコピン加えたらもの凄い殴打になりそうだからちょっと放っておく事にした。頭の上にいるなら移動に支障ないし。
「行こうみんな」
フォゼの合流を待って溺れるような人の波をかき分けて進み、あ、良く見たら凄く近くに楽器店がある。満員御礼状態だ。ライブ直後に買っていく人が多いんだろうなきっと。
若干オレも買いたくなってきたがグッとこらえて再び路面電車へとインする。
ドーム前だったからだろう、降りる人が多く今度は全員座れた。お? すっごいふわふわした座席だ。座り心地も手触りも良い。背もたれも絶妙の角度で苦痛にならない。色々考えられているな。眠ってしまいそう。
とか浸っていると三人の子供が立ったままなのを発見。このままオレたちが座っているのは居心地が悪いので席を譲る事にした。まあいっか。
ドア近くに立った状態で幾つかの停留場を経由し、目的のグランピングリゾート近くに着いた。
施設はもう見えていてここから徒歩五分って感じだ。
「は! トマホーク!」
ハィルベ、お肉の匂いで復活。
確かにお肉を焼いている匂いだ。流石にグランピングリゾートからの匂いは届かないだろうから、お店で試食用のモノを焼いているのだろう。
「クッキーの香りもしますわ」
え? それは感じない。精霊って嗅覚優秀なんだな。
「こっちだぜ」
「耳ひっぱんないで?」