第78話 え、なにこれ凄い
レモンイエロー髪レモンイエロー眼のルゥリィ、そしてエバーグリーン髪エバーグリーン眼のハィルベと言う名の精霊二人はどこからともなく花を一輪ずつ取り出して。
星の形に似た白い花だ。これは確か『カエルム』を構成する花畑の花。
『カエルム』ってのは精霊が国だと主張する花畑。世界中に存在する花畑の名になる。
「花本体ではなく、差し上げるのは蜜になります」
「ぼくらが『カエルム』に帰るのは寝る時がほとんどだ。日頃は蜜と花粉を他の虫に与える為に方々へ散っている」
「貴方がた人にも貰ってほしいのです。ついでにちょっとだけ食事を分けていただければ」
精霊は通貨を持たないが蜜との交換で他種族の食事を嗜む。
おまけで言うと宗教も政治も持っていない。
そんな精霊たちは地上から花が絶えないように積極的に動いていると訊く。お腹も減るのだろう。
「だもんで、くれ」
……まあ良いか。これも縁だ。
一度石見と顔を合わせて、頷きあう。
「了解。食用花で良いかい?」
「クッキーが欲しいですわ」
「ぼくは肉。トマホーク肉な」
……イメージ。イメージ崩壊である。現実厳しい。
て言うかクッキーはともかくここでトマホーク肉(骨つきのでっかいお肉)ってどこにあるんだろう?
「調べはついてるぜ! この街にゃ大きな森林があるだろ? そこでやってるグランピングリゾート用に色々売ってる店があるんだ。食材だってある。トマホーク肉もあった!」
あったって事は前にも食べているな。
「クッキーはいろんなとこで売っていますけど、手間を省こうと思えば同じところが良いかと」
「森ねえ、こっからはドームを挟んで反対側になるね」
パンフレットを広げて場所を確認する。
ドーム、イーラ・スカイ最大のドームがあって、その向こうが森林になっているようだ。
「大体二十キロメートル――路面電車使って一時間三十分くらい向こうか。
他の三人に確認する必要があるな」
と言うわけで心樋・カノ・フォゼを呼び寄せた。
「ワタシ精霊さん初めて見た」
「マインは良いぜ。ここのテンション、ついていけねえ……」
「花の香りが……花粉症でなくて良かったです」
心樋は精霊に興奮し、カノは精神的にやられ、フォゼは花の強烈な香りに鼻を抑えている。
三人とも精霊のお願いを訊くのに前向きなようだ。
オレはもうちょっとフェスティバルを楽しみたかったけど……行くか。
「あら、それなら一度ドームで降りるのをお勧めしますわ。わたくしたちは後で構いません。
と言うかわたくしたちドームに用があってこちらに来ていますので助かります」
「フェスティバル中に観られれば良かったんだ。今でも良いぜ。
こっち飛ばないで済むし」
移動中ずっと頭に乗ってるつもりかい。オレたちだって移動には疲れるのだが。
「では早速こちらをどうぞ」
「うん?」
こちら、と言われて先程出した白い花を振るルゥリィ。
「ちょっと上を向いてお口を開けてくださいな」
言われるままにしてみる。ルゥリィが落ちないか心配したが彼女は器用にバランスを取って立ち上がり花をオレの口に向けて傾けて――蜜が口に落ちてきた。んぐ。
「! え、なにこれ凄い」
「へ? なになんかあったの?」
「体力が一瞬で回復した」
パワー、湧き上がる。
「すっげーだろ? この花はな、ぼくらが魔力を込めて育てているやつでな、なんと滋養強壮に効くエナジードリンクの最高位だ!」
そんな説明で良いんだろうか? 本当に凄い蜜だろうに。
「ワタシ! ワタシも飲んでみたい!」
「おう良いぜ、飲みたいやつみんな口開けな」
「あーん」
まずは心樋、空に向けて口開く。なぜか目を瞑っている。
そんな彼女の口にハィルベは蜜を落として。
「ホントだ! なんか目まで覚めた!」
「マジか? んじゃマインも。んぐ。オオ? 確かに! 睡魔も飛ぶな!」
「私も飲みたーい。ごくん。うわっ、疲労回復がえぐい」
「精神にも効きますか? ぬぐ。なんと! 垂れていた鼻水が引っ込んだ!」
「とは言えお気をつけてくださいね。頼りすぎると疲労の蓄積に気づかずぶっ倒れますよ」
こわっ。
笑顔で言ってくるからますますこわっ。
「んじゃ行こうぜ。まずは路面電車にゴーだ」
「み、耳ひっぱって私をコントロールしようとしないで?」
「そう言えば貴方がたのお名前訊いていませんわ。上質な乗り物――じゃなかったお友だちなのに」
今乗り物扱いしたな? フォローも入れてたけど。
「気のせいですわ。
改めまして自己紹介を。わたくしはルゥリィ」
「ぼくはハィルベ」
「私、石見」
「はあ、オレは糸掛」
「心樋だよ。この子はチャーミング」
「カノだ。こっちは弟の――」
「フォゼです。よろしく」
「よろしくお願いしますね。長いお付き合いになるのを祈っておりますわ」
「じゃ! 行こうぜ!」




