第77話 わたくしたち世渡り上手ですからねぇ
遅れてスタートした石見も石見で早速とばかりに――食べた。試食用の花を食べて食べて食べまくる。そして気に入った花を買いまくる。そう言えばお腹空いたって言ってたっけ。
人と言うのは面倒な生き物で、隣に爆食する人がいると自分も食べてみたくなる。なのでオレの手も――お腹は特に空いていないのに――食用花に伸びてしまい口にイン。え、なにこれ甘い。チョコレートやクリームと良い勝負出来る。
太りたくない。太りたくない。のに手が止まらーん。
旅に出てからも体を動かす修練を欠かしていないが、いつもより後で動こう。
「ちょ、ちょっと休憩」
食べまくっていた石見がブレーキをかけた。流石にお腹がいっぱいになったようだ。
心樋がオレの見える範囲で動き回り、カノとフォゼがプレゼントされた花に埋まる中ベンチに腰掛けて空を見ている。オレもダウンする石見に寄り添い同じように空を見上げる。ここからは壁であるガラスを通して晴れの空が見える。晴れ。快晴だ。そんな上空をバックにしてホログラムウィンドウが大きく表示され花に関する歴史が上映されていて。
イーラ・フォレストが花の都になったのは人の努力も当然あった。
が、映像では『精霊や妖精の協力も大きかったのです』と語られていた。
精霊とはモノや植物に宿った付喪神。
妖精とは風に流れる魔力が渦巻く場所に生まれた超自然生物。
人間と非常に友好な関係にあり、グリムとも適度な距離を保ち友好な関係を維持している。
「そうそう。わたくしたち世渡り上手ですからねぇ」
「「……」」
その声は、オレの頭の上からした。
「おいルゥリィ! 男の頭に乗るなよ!」
「「……」」
その声は、石見の頭の上からした。
「え? 女の子の頭に乗りながら言いますそれ」
「「うわぁ!」」
思わず立ち上がるオレと石見。見てくる人々。
だって、だってさ?
精霊にいきなり乗っかられると普通はそうなる。精霊二人、立ち上がった衝撃で落ちそうになったけど。
「あらあら危ない」
「危なくないだろぼくらには羽があるんだから」
羽。十センチメートル――オレの掌程度の小人のような姿とカラフルな髪、青色の肌に加えて虹色の蝶の羽を持つ精霊。確かに飛べはするが。
「ハィルベ、咄嗟に羽広げられる神経持っていないでしょう」
「も、持っているし⁉」
ってか降りてくんない? そもそもなぜたくさん人がいるのにオレたちの頭を宿り木にしているのか。
「そこに頭があったからですわ」
「疲れた時に頭があったからだ」
……そうかい。まあ良いけど。
互いに言語があるから会話が成り立っているが、感覚はズレてんのかな……。
「まあまあ、代わりにこれをお二人に差し上げますので」
「うん?」




