第76話 旅の恥は掻き捨てだー!
歩き・路面電車にて移動を開始して一時間と少し。線路の脇に花壇が並び始めた。小さな季節の花々が植えられている花壇だ。
まだまだイーラ・フォレストの真骨頂と言うわけではないが、それでも影響下には入ってきたのだろう。
ゆっくりと進んでいた路面電車が極めてシンプルな停留場で停まる。遅延する事なく予定通りに停まるあたり『ドーン・エリア』の人々の几帳面さが出ている。
「花の香りが強くなったな」
路面電車から降りてオレの第一声がこれ。
「お腹空いてきた」
石見の第一声がこれ。
いや、確かに甘い香りだけどね……。
「お腹空いたなら花でも食べるかい?」
「う~ん」
決してからかいの言葉ではない。
イーラ・フォレストでは実際に花を食べる人が少なくないようなのだ。食用の花の開発にも力を入れ、肉料理よりも好まれているとパンフレットに記載されていた。
「私、お花食べた事ないんだけど、お腹膨れるかな」
「オレも経験ないからどうとも……」
だからだろうか、お肉や野菜の方がぶっちゃけ栄養も摂れ、なにより食べていて美味しいんじゃないかと思ってしまう。
経験不足。
それが今日どのように変わるのか楽しみでもあった。
なので早速フラワーフェスティバルとやらに向かう――必要はなかった。
「凄いですねえ」
「すっげえな」
だって、停留場の周囲からしてフラワーフェスティバルの会場だったのだから。いや違うか。元々シンプルであるはずの停留場も花で飾られているから停留場も会場の内なのか。
花弁が舞い、人も舞っている。ここまで盛り上がっているとは。
車道は全て歩行者天国に変わり、テーブルが並べられて花の販売が行われ、試食が行われ、生け花の実演が行われていた。
更に大胆に肌を見せる衣装に身を包んだ女性や男性が音楽に合わせて躍っていて、路面電車から出たオレたちに花冠を被せていくのだ。
否、花冠だけではない。首に手首にと花輪がかけられる。
え、やばい、テンションについて行けない……。
半ば呆然としながら隣の心樋を見ると――目・キッラキラ。ドキワクで輝いておられた。
「いっくぞー!」
と言いつつオレの手を引っ張り速足で歩きだしてしまう程に。
うわぃ、フェスティバルのテンションにあてられてるぅ。
「心樋、気いつけなよ」
「なにに?」
「まず人にぶつからないように。次に散財しないように。も一つオマケに恥ずかしい写真や動画を残さないように」
後で観て後悔するぞ? 経験あるから良く分かる。冷静になると超はずいんだあれ。
「旅の恥は掻き捨てだー!」
あ、ダメだコレ。




