第75話 そろそろ次に行きたいと思います
空中を往く“魔獣”を目に捉え、オレたちは宙やビルや家屋の屋根の上を飛び跳ねる。
最近街に現れるようになったと言う魔獣だ。その正体は『ドーン・エリア』で作られてしまった鷲の進化系。遺伝子操作と言うやつだ。
作り出された理由は外の世界でたびたび起こる獣害への対抗馬。空から見張り、追い払ってもらおうと言う魂胆だそうだ。
が、逃げられ、守りの獣になるはずだった鷲は魔獣なんて呼ばれる羽目に。
まだ食料品を荒らす程度の被害らしいが放っておいたらどんな形で被害者が出るか解らない。だから今の内に捕えると。
「みんな、あっち」
「うん?」
石見の指差す先を見てみると賞金稼ぎと思われる一行が。どうやら同じ魔獣を狙っているようだ。
「先を越されるのはごめんだな。石見!」
「ん!
飛べ! 速く速く!」
石見の魔法がオレたちを包む。空を飛翔する魔法と速度アップの魔法が。
そんなオレたちを見て賞金稼ぎの一行がなにやら叫び出した。「え! あいつらあんなん出来んの⁉」って感じで驚いている。
だが遠慮はなしだ。オレたちは魔獣を追って――後方で気配の圧が増した。なんだ?
「あ!」
先に目をやった心樋が声をあげる。機械獣を纏い空を飛び始める賞金稼ぎ一行を見て。
準魔法士だったか!
しかもオレたちより速い。どんどん差が縮まっている。余程性能の良い機械獣を使用しているのか使用者の努力か。
機械を使うのをずるいと言うかはさておいてこのままだと追いつかれ、追い越されるだろう。
ならば。
オレは銃を構える。飛翔しながらつけた狙いは魔獣との間にある空間。
魔獣に当てられればベストだがまだ距離があるからまずはこうだ。
一射。
撃たれた魔力を帯びた銃弾は魔獣へと飛び、しかし届かずに途中で炸裂。二者の間にある“距離”を破壊した。
魔獣がひと鳴きする。結構な距離を下がったのだ。「あれ? ここ通ったよね?」と戸惑いを感じているのだろう。
「うっそだろぉ!」
なんて声が後ろからも訊こえてくる。
それを無視して。
「いただき!」
カノが彼女の愛銃『ブリンク』を撃つ。飛び続ける限り速度を増していく杭に似た銃弾は魔獣の左翼を穿ち、バランスを失いビル屋上へと落下。その際にビルと魔獣が傷つかないように心樋が魔法で魔獣の体を支える。更に石見の魔法で魔獣の翼とくちばしと足が縛られて。おまけにフォゼが持っていた檻へとすぐに入れられた。
これでオールオッケー。
賞金稼ぎ一行がブーたれているけど、オッケー。
魔獣の入った檻を押して総警庁に行き、檻を貸してくれた保護団体の合流を待ち、魔獣を遺伝子研究者に譲渡。もう逃げんなよーってか逃がすなよー。
その後、賞金を貰った。十万エール。日本の地方都市でちょっと良いマンションに一ヶ月住めるくらいの賞金。まあ人的被害がほぼ出てないからこんなもんか。
「さて」
トリックアートのホテルに戻って、オレ。
「この辺りの大きな事件はクリアしたと言う事で」
動いたのはオレたちだけではない。軍人に警察・賞金稼ぎ、みんな常に動いている。
「そろそろ次に行きたいと思います」
「「「意義なーし」」」
小さな事件は残っているが前述通り大きな事件はクリアした。残りは地元の人たちに任せればそれで良い。こちらに余裕はあるのだがオレたちが賞金取りまくっても問題になるだろうし。
とは言え『ドーン・エリア』からは出ない。活動する区画を変えると言うだけだ。
「オレたちは今、首都であるイーラ・スカイの内、イーラ・ウォーターに近い場所にいる」
だから街中には星テーマの他に水も散見出来て。
「気分と景色を変える為に別の都に近いとこに行こうと思――」
と、その時『今年もフラワーフェスティバルの時期がやって参りました!』点けっぱなしにしていた部屋のテレビからこんなニュースが。
「あんだ? フラワーフェスティバル?」
「えぇと、イーラ・スカイの別区画で行われる花を育て、飾り、食し、販売し、愛でるフェスティバルだって姉さん」
パンフレットを開いて読み上げるフォゼ。それを覗き込むカノと心樋。
「どこの区画?」
「隣ですよ心樋。
華のある花の都、イーラ・フォレストの影響を受ける区画だそうです。
そこでイーラ・フォレストの住民が主体となってフラワーフェスティバルを開催するみたいですね」
他はこの時期静かになるですって。と説明は続いた。
フェスティバル。祭り。と訊いて心が湧き立たない人間がいるだろうか。いやいるだろうけど。しかしオレたちはそうではなく。
「決まりだね」
「ああ」
フェスティバルへゴー、だ。




