第73話 意図的に姿を消したか
さて夕方の――と言うよりも夜の始まり十九時です。
全員がホテルに集合する時間。だったのだが。
「帰って来ねえな」
誰が? アメリカ組が。エンリ、ジャイル、タータルがである。
「まあ時間に合うように行動するのは日本人の特徴みたいなモンだけど」
ホテルのロビーにてソファに座り足を組みさっさと来いよと不満をたれるカノにオレは言う。
アメリカ人がどうこう言える程アメリカに知り合いいないから日本人について語った。日本人、几帳面、良い事だと思う。が、時間にルーズな国も当然あるわけで、生粋のアメリカ人はどっちだろう?
「ま、もうちょい待とうか」
いくらなんでも三十分待てば来るだろう。
一時間ごとの定期連絡もちゃんとくれていたし、帰ってくるはず。
「来ねえしよ」
「姉さん、貧乏ゆすりが凄い」
「イラつきもするわ。こっちから連絡とっても応答なしだぜ?」
そう、問題はそこだ。
十八時の連絡は向こうからあった。十九時にはなかったが急かす必要はなしと見て連絡を取らなかったのだが、三十分経って帰って来ないからあちらに連絡を取ってみた。電話とメールだ。そのどちらにも応答なし。
「石見」
「うん、探知魔法にもひっかからないね、生命反応なしだ。
ただこれ、私たちと別行動になってすぐ消えているからエンリたちがわざと消したように思える。
でなければ直後に……でも“そう”なっていたらここの人たちが騒いでいるだろうし」
周囲に気づかれずに三人を殺して連れ去る。これは可能か? 多くの人物で囲えば可能か。
しかし物量でどうにかする理由があるとも思えない。あの三人、彼らの組織内で上位ではなさそうだった。
ならば。
「意図的に姿を消したか」
どうして? 彼女たちの目的は? 考えられるとしたらそれは。
「オレたちを『ドーン・エリア』に入れる事がエンリたちの任務だったか」
恐らくはこれだ。
「入れて、閉じ込めるって事? 兄さん」
「もしくは誰か会わせたい人間がいるか、オレたちを釣り餌に誰かをおびき出そうとしているか」
となるとエンリたちでは普通に会えない人物だ。大物、になるだろう。
政王。祭姫。軍神。そして『ドーン・エリア』の設計開発者。
「どれをとってもマインらを利用してるってこったろ? 気に食わねえな。けどよ、大物が出てくるなら願ったり叶ったりでもあるんじゃないか?」
「……そうだな」
『世界牢』――天使に至る情報が欲しい。これをもし知っているとしたら前述の四人だ。
「オレたちも動きながら向こうからの接触を待ってみるか。
とりあえず今日はここまでだ。もう日も落ちた。
心樋、部屋の変更はするからオレたちの部屋に来な」
「一人でも寝られるよ?」
「念の為さ」
心樋も結構な重要人物だ。
魔法麻薬『エンゼルエンゲージ』の総元締めである子供たちにも合流を待たれている。
一人には出来ない。
「マインらの部屋でも良いぜ? お前らんとこ、あれこれしたいだろ」
「「なに言ってるかな!」」
したいけどね。本音で言うと。
でも“最中”に襲われる可能性だってあるんだ。出来ない。出来ないんだよ……ちっ。
まあ良いさ。未来はまだまだ続くのだから。




