第72話 家族を信じよう
「え?」
「そこの兄ちゃんを殴ったんだ。自分も犯罪者だろ?」
あぁ、そう言う事か。
ラオと同じところに入りたくてオレを、暴力を振るった、か。
顔を見合わせるオレと石見。
この少年を逮捕する? いや出来ないだろ。
気持ち的にも、法的にも。
「キミ、名前は?」
「ラウン」
「ラウンくん。私たちはキミを捕まえない」
「どうして!」
「ラウンくんはもっと人を知って」
「……人?」
「お父さんだけじゃない。もっと人を知って、もっと人を頼って、一緒にいられる人を増やして。
きっとラウンくんがいられる場所は出来るから」
「必要ない!」
必要は、きっとある。
ラウンにはいろんな事を学んでもらいたい。
学校に行けとは言わないが、友人を作れる居場所を見つけてほしい。
これについては心樋も同じなのだが、こっちには色々事情があるから今は仕方がない。
「お母さんはね、ラウンくんを大切に想っているよ」
「想ってない!」
「想っていないなら、放り出しているでしょ?」
「――あ」
「ね? 大切だからどう扱って良いのか解らない。
きっとそんな感じだよ。
もう一回お母さんに会って暮らしてみよ?
今度はラウンくんから歩み寄ってみよ?」
大人である母に出来ない事を子供であるラウンがやる。難しいだろう。が、どちらかが歩み寄ればきっと。
「……会うだけ、なら」
「うん」
「一緒に暮らすかは解んないよ?」
「おっけオッケー。
お母さんから連絡あったんだよね? いる場所とか待ち合わせの場所とか訊いた?」
「うん」
「んじゃ、送って行くよ。
どこかな?」
その後、石見の言葉通りにオレたちはラウンを母のところに、カフェに送り届けた。
約束の時間から二時間が経過していたがちゃんと待っていてくれた母を見てラウンは少しホッとした表情になって、それでもオレたちが離れる時には不安そうな表情になって。
互いに手を振り合い、母には頭を下げられながらオレたちはラウンと離れたのだった。
「うまく行くと良いんだけどな」
「大丈夫。家族を信じよう」
「……そうだな」
オレと心樋には血の繋がりがある。
忘れていた時期もあったけど元に戻れたのだ。
そこに絆と言うモノがあるから。
血の繋がりがあるから安心といかないのは承知しているが、家族の間には絆が出来ると信じよう。




