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第71話 お父さんは自分を絶対に残さない

「……前に、お母さんがいなくなってから二年くらい引きこもって、精神障がい? 失語症? って言うのにかかって入院してたから……どこもイヤがって」


 そうか。確かに身体障がい者に対しては広く門戸が開かれているが精神障がい者に対する門戸はまだまだ狭い。理解が低い。

 身体の問題ならある程度の配慮で事は済む。が、心の病の場合不意に暴れられたりまともなコミュニケーションが取れなかったりするからだ。

 その辺り、ここ『ドーン・エリア』でも一緒か。


「でも、そう言った人たちの相談に乗ってくれる人いるよね?」

「どこも、こんな重い人扱えない、って」


 なにかあったら自分たちのせいになるから、だ。


「……そう。だから短期の仕事を繰り返しながら二人でいたってとこかな?」

「うん。短期ならあまりお父さんの事情もバレないから。

 けどお父さんの事を知ってバカにしてくるやつらがいて、酔っ払いに絡まれて、軍人さんが間に入ってくれたんだけど……」

「だけど?」

「軍人さんが言うんだ。

 お父さんは庇護対象? だって。

 それにお父さんは――」

「怒った?」


 首を横に振る少年。


「凄く……無表情になった」

「無表情」

「……あんなお父さん初めて見た。

 怒るのでもなくて、悲しくなるのでもなくて、ただ……なんか諦めたみたいだった。

 それで気づいたらケンカになってて、お父さんは軍人さんを殴って……軍人さんの鼻、変な風に曲がって――」

「良し、そこまでにしよう。思い出さなくて良いよ」


 落ち着いて来ていた少年の呼吸が乱れだした。

 苦しそうに咳をする少年を見て話すのを止める石見(がらみ)

 心樋(ことい)も思うところがあったのか少年の背後に回って何度か背中を摩る。

 ラオは軍人を負傷させて機械獣を奪った。その経緯が明らかになった。

 それでも。犯してしまった罪は――そこに残る。

 少年の呼吸が落ち着いてきた。


「その後、お父さんは自分をホテルに置いて一人で出て行ったんだ」


 ……まさか、わざと捕まるように普通に行動していた?

 そう言うと少年は首を横に振る。


「練習をしてたみたい。

 ちゃんとサメを扱えるように。

 サメを手に入れたから、最大限に利用するって言ってた。

 んで、腕を試すって言ってあんたらを誘って……」


 逆に捕まった、か。

 これは……やはりラオはわざと捕まったのではないだろうか?


「違うよ。お父さんは自分を絶対に残さない」

「……そっか。ね、お父さんが入院していた間キミはどうしていたの?」

「その時だけお母さんのとこにいた。

 でもなんて言うの? はれもの? に触るみたいって感じだった。

 だからお父さんが退院した時すぐにお父さんのとこに行ったんだ。

 自分にはお父さんだけだ。

 なのにあんたらが……」


 捕まえたか。


「あんたらに礼を言いたいからって言ってあんたらの特徴を()いてすぐに追いかけた」


 少年には悪い事をしてしまった。しかし。

 残念だが、ラオを放っておくのは……。

 今訊いた事情は必要なところに持って行こう。ひょっとしたら情状酌量があるかもしれないから。

 ラオには罪の分償ってもらって、その後少年と合流してもらう。多分これがベスト。


「これからは? どうするのかな?」

「お母さんから連絡があった。一緒に暮らそうって」

「行く?」

「……自分を逮捕してよ」

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