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第70話 長期の仕事に就けなかったんだ

 少年はまだ泣いている。

 オレを睨んでもいる。

 掴んだままの両手を離せばきっとまた殴ってくるのだろう。

 しかし殴られるいわれはないのだ。多分。


「理由を()かせてくれるか?」

「……」


 顔を背けられてしまった。お前と話す事なんざねーよ、とばかりに。

 うーん困った。


「ねえ、キミのお名前は?」

「……」


 にっこり笑顔で石見(がらみ)に話しかけられてもそっぽを向く少年。

 石見とも話したくないようだ。


「名前くらい言ったら?」

「……」


 心樋(ことい)にも応えない。

 どうしようもないな。迷子センターにでも連れて行こうか。まさか警察である総警庁に連れて行くわけにもいかないだろうし。事が大きくなるから。

 ……ふむ。

 少年の両手を離してみた。するとやはり殴ってくる。

 だが、今度は避ける。

 思いっきり振りかぶった拳を避けられて少年の動きが一瞬止まり、ムカつき顔になって更に殴ってくる。

 が、オレはそれを避け続ける。ずーと避け続ける。


「はぁ、はぁ」


 やがて少年の息が切れて殴打が止まって。


「避けんなよ!」

「避けるわ」


 狙い通りだ。少年をもっと怒らせればなにか言ってくるだろうと思った。

 これでやっと話が出来る。


「オレ、キミに殴られる覚えはないからね」

「ある!」

「ほ~どんな理由?」

「ラオは自分のお父さんだ!」

「「「!」」」


 マジか。

 ラオに息子がいた。そりゃあいつにだって――犯罪者にだって家族を持つ権利はある。

 が、それは。


「……悪いけど、それでも殴られる覚えはないよ」


 非はラオにあって、オレたちは彼を捕まえた側なのだから。


(わか)ってるよ! けど……けど! お父さんだけだったんだ! 自分といてくれるのは!」

「ねえ、お母さんは?」


 泣きながら怒鳴る少年に、腰を落として視線を合わせて石見。


「……いない」


 片親、か。


「お父さんが捕まった後どうしていたの?」

「ずっとホテルでお父さんを待ってた」


 怒り疲れたのか、肩で息をしながら怒鳴る事なく話を続ける少年。涙は流れ続けている。

 そう言えばオレを殴って来ても石見や心樋を殴ったりはしなかったな。子供ながらに女性に手を挙げるのはイヤって事か。

 見上げたモノだけれど、オレ、損してない?


「待ってた……連絡は?」


 通常、誰かが捕まればその周囲を調べ、共犯がいるなら逮捕、保護対象がいたなら必要な手を打つ。特に家族への対応は厚く行われるはずだ。


「あったよ」

「誰か迎えに来なかったの?」

「来たよ。けど逃げた」


 逃げたんかい。


「自分は……お父さんだけで良いから」

「でもキミだけじゃ――」

「お母さんがどっかに消えて、ずっとお父さんだけだった。

 イヤな目にあった時も、同情された時もお父さんが抱きしめてくれた。

 自分を守ってくれるのも育ててくれるのもお父さんだけなんだ」


 だから保護施設には入らない、か。

 他の大人に対する信頼はきっとないのだろう。


「けどね、キミのお父さんはやっちゃいけない事をやったの。

 人を――その……」

「……知ってる」

「……そっか。なら、その罪を償う必要があるのも解る――」

「お父さんは、長期の仕事に就けなかったんだ」

「? どうして?」

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