第69話 ――で、キミは誰?
「さて、と。浮け」
石見によって浮上させられるラオとサメ。
これからこの一組を連れて総警庁に行くからだ。
「すぐに行く? それとも別のターゲットも狙う?」
「いや、行こう。ラオに仲間がいないとも限らない。奪われたりしたら厄介だ」
そもそもラオがどうして犯罪に手を染めたのかもオレたちには解らない。独断か誰かに命令されたのか。後者だったら面倒な事になるが……。
しかしてそれは杞憂に終わった。
総警庁までの道すがら、浮いている一組を見た人々が目を向けてきたがそれらは気にせずにラオたちを連行し、無事に引き渡しを終えられたから。賞金もデジタルマネーで受け取り、終了だ。
それでも仲間がいる可能性は排除出来ないけれど、その場合でもラオは棄てられたのだ。
ラオを巡って戦闘になりはしないだろう。
「はぁ~落ち着く光景だ」
公園に戻って来て、湖の畔に設置されていた椅子の一つに背を預ける石見。
先程ここを通った時に綺麗な公園だと思ったから気を落ち着ける為に再訪したのである。
椅子は誰もが自由に使用して良いらしく、オレも心樋も座して。
湖では泳いでいる人もいる。遊具も幾つかあって心樋は遊びたそうに見つめていた。だからオレは、
「あそ――いたっ」
遊んできて良いぞ~と言おうと思ったのだが、頭に衝撃が。
「?」
軽く、凄く軽い衝撃だったが頭になにかがぶつかった。
肩越しに、椅子越しに後ろを見やると少年がいた。フロスティグレイの髪でダックブルーの眼、身長は百三十くらいか? 顔の幼さから想像するに多分六・七歳。まだまだ子供。
そんな子供が、拳を握って振り上げている。
涙目で。
「え?」
なんだ? ひょっとして殴られたのか? この子に? 敵意があまりにも小さいから気づけなかった。んでもってもう一発殴られようとしているのか? なんで? なんで泣きながらオレを殴ってくる?
「うああああああああああああああああああああ!」
もう一発だけではなかった。
少年はオレに向けて拳を何度もぶつけてくる。頭や腹、肩なんかに。
が、やはり力が弱いからほとんど痛みは感じずに。
ただなぁ。
日が傾いているから人の姿は少なくなったとは言え、まだまだ人は残っている。その人たちがなんだなんだとこちらに目を寄せている。
無理もないか。子供が泣きながら人を殴り続けているのだ。目立つ目立つ。
「こら!」
と、心樋が少年の頭をどついた。
「兄さんになにすんの!」
おお、怒ってくれるのか妹よ。愛しているぞ。
「邪魔すんな!」
「するよいくらでも!」
尚も殴ってこようとする少年と止めようとする心樋。ケンカが始まってしまったな。このままでは心樋が殴られかねない。
「糸掛」
「ああ」
立ち上がって少年の両の手を受け止めるオレ。
「ちょっと失礼」
そして少年を抱え上げて脱兎。石見と心樋を伴い一目散にこの場から離れた。
とは言っても離れすぎて誘拐扱いになっても困るんで公園の端っこに移動しただけだが。先日ラオを捕えた場所に近い。小さな滝のある場所だ。
そんなところに、岩の一つに少年を座らせる。
「――で、キミは誰? どうしてオレを殴ってきた?」




