第66話 あった、これだ
「光よ」
ぽっ、と心樋の掌に光が燈る。蛍火のように小さな白い光が。
「そう、良いよ。そのまま光を頭の中で維持し続けて」
「う、うん」
心樋の手には魔法石が括られている。
魔法石は淡く光っていて、つまり掌のこの蛍火は魔法で生み出されていると言う事で。
「あ、消えちゃった」
「でも良く出来たよ。私はもっと苦労したんだから」
これは、嘘だ。石見には魔法の才があった。師であるガロアが驚くレベルの才が。
けれども今、嘘をついた。それは石見から魔法を教わる心樋を挫けさせない為。
「良い心樋? 魔法はイメージ、想像を現実にする力。
ふにゃ~とした朧げなイメージだとちゃんと現実には響かない。
けれど本物とそっくり、或いはそれを超えるイメージを描けたら現実でもそれを作り出せるの。
ただやりすぎてはダメだよ? 魔法は魔法石に込められた魔力と人の心と精神力をブレンドして作られる魔力、二つの魔力を使用して起動可能な奇跡の術だから、使いすぎると心がまいっちゃう。ドッと疲れが押し寄せてくるから気をつけて」
「はい」
心樋には魔法士としての才があった。だからこうして暇を見つけては石見に魔法を習っている。魔法起動の“言霊”が違うのは石見と心樋では言霊との相性が違うからだ。
ちょっと羨ましい。オレには魔法の才がなかったから。
が、今のオレには石見による助力と愛銃がある。羨ましいが、オレが腐っていてはダメだ。与えられているモノを大切にしっかり前を向こう。
「この辺か」
『ドーン・エリア』二階に戻ってきたオレたちはある人物を探している。
無論、賞金首一覧表・通称クエストリストに載っていた犯罪者の一人である。
今、その人物の最後の目撃情報があった場所に辿り着いた。
「石見、解る?」
「やってみる。心樋、見ててね」
「うん石見さん」
「示せ」
地面に手を着く石見。そして魔法を起動させる言霊を口にする。
するとどうだ? 地面に着いている足跡が光っていくではないか。
「糸掛」
「ああ」
オレはリストを見やる。そこに記録されている賞金首の情報を。人相や背丈の他に、好んで着ている服や靴の情報もあった。当然賞金首の物品購入履歴もある。
そして記録される幾つかの靴の中に、
「あった、これだ」
地面に灯った靴の跡と同じモノを見つけた。サイズも同じ。偶然かもしれないがそうでないかもしれない。
「これで――どうかな。
選ぶ」
石見が更に魔力を流し込む。
何人分かあった足跡の内、一人分だけを残して他が消えて行く。当然残ったのは目的の人物かもしれない足跡だ。
「ありがとう石見。
行ってみますか」




