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第64話 理不尽!

 で、四部屋取る流れになりその内一室。


「オオ、結構広いね」


 部屋に入って、石見(がらみ)の感想。

 確かに広い。なんかレコードまで回せるみたいだし。

 ただ、な……。


「石見」

「ああ、うん」


 どうやら石見も気づいたらしい。

 ここ、ベッドルームが……二つなんですよねえ。

 そう二つ。それなら問題ないじゃないかって? あるんだよ。だってガラス張りの壁に仕切られた二部屋だから。丸見えだ。

 さあ、どうするオレ?


「……全て承知の上でオレからアプローチを……」

糸掛(いとかけ)

「うぇい!」


 しまった、変な声出た。


「私は十六歳で糸掛は十七歳です」

「だ、だな」

「糸掛の『なにも出来ない! オレには……なにも!』からは一年と少しです」


 ……あぁ……そうだ。無様に泣き叫んでいたっけ。


「あの時は役に立てずごめんなさい」

「いや謝る事じゃない」


 誰もが遠巻きにオレを見る中唯一近くに来てくれたのが石見だ。

 手を引いて立ち上がらせてくれたのが石見だ。

 同情されたのではなかった。憐れみでもなかった。

 石見は涙目になりながらただ真剣な表情で、無言のままオレを立たせた。父と母を見せた。それだけだった。


「むしろ立たせてくれてありがとう」

「いえいえ。

 で、私も決意したの。糸掛の隣にいようって。一緒に立っていようって」

「……」

「二人で旅して、わりと進展していると思います」

「……だろうか」


 心は近づいた。キスはした。でも比較対象がいないからぶっちゃけ良く(わか)らないんだよなあ進展度。


「しかし周りに急かされて一線超えるのは違うと思います」


 ですよね~。


「別々で寝ましょう」

「……了解」


 がっかりなんてしてませんよ? いやしているが。


「では、汗をかいたので着替えます。

 こっち見ない事」

「うす」


 ベッドルームに入っていく石見。

 え、オレがこっちにいんのに着替えんの?

 思わず「うす」なんて言ったが……オスですよ?


「見ない事」


 恥ずかしそうに念を押し――いや深々と刺してくる石見。

 そして背を向けておもむろに、上を脱いだ。

 まっず。

 慌てて顔をそむけた。と言うか体ごと壁側を向いた。

 ジッとしたまま二分くらい時間が過ぎて――


「……少しは見て良かったんだけど」


 石見、ドアから顔を覗かせながら不満げに。

 見て良かったのか……。


「一線超えない代わりのサービスでした」


 マジか。けど見たらだ。


「怒るんだろ?」

「怒るけども!」

「理不尽!」

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