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第62話 虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うしな

「オオ?」


 靴の一部が白く発光し、光が溢れる。

 一歩踏み出す。するとどうだ? 靴の下に足を置く光が。二歩、三歩と踏み出し続けるとまるで階段を昇っているように上へ上へと昇る事が出来た。

 今はまだ、落ちないかと肝を冷やしながらだが、慣れればとても気持ち良さそうだ。


「フォトンを一部だけ放出に変える事で飛んでいるような移動も可能ですよ」


 マジか店員さん。


「コツがいるのでちょっとだけ難しいですけど」


 そ、そうなのか。

 放出、放出、一部だけ放出。

 念じてみるが、


「うぉう」


明後日の方向に行ってしまった。他のお客さんとぶつかりそうになり頭を下げる。

 そこで意外な才能を発見。


「兄さん見てー」


 心樋(ことい)である。あの子、なんと自由に空を飛んでいる。あいや飛んでいるように見せている、か?

 我が妹ながら見事だ。

 一方オレと同じく苦労したのはカノとエンリ。


「普段色々と考えるタイプの方ほど難しんですよ」


 と言う事らしいが、カノって色々考えてたのか。


「失礼だなオイ」

「すまん」


 まあ、魔法麻薬やらなんやら頭を使っているのだろう。

 石見(がらみ)は普段から魔法で飛んでいるからか、靴での飛行も少しの練習でマスターしていた。

 他のメンバーは歩くのは簡単にマスターし、飛ぶのに時間を使っていた。

 だが三十分もすると全員慣れて。


「はい、みなさんオッケーですよ」


 練習終了だ。

 ここからは購入用の靴を選ぶ時間である。

 みんな、自分の足のサイズと相談しながら気に入ったデザインの靴を選択し、そのまま店を出た。

 え? レジを通さないのか?

 ここ、ドアがレジを兼ねていてそこをタグのついた商品を持った状態で出ると自動でデジタルマネーが引かれる仕組みなのだ。

 基本、物を売っている『ドーン・エリア』のお店のほとんどがそうらしい。

 便利。

 因みに靴の値段は千エールから二千エール。デザインした人の無名有名で値段が変化していた。

 オレたちは店先にあるベンチに腰を下ろし靴を履き替えて、元の靴は亜空間に収納、タグを取った新品の靴に心弾ませながら再び歩き出した。


「さてと、これからどうする?」


 オレの問いかけに、


「ここに来るまでに気になったところに寄るのは決定として」


応えるのは石見。決定なんすか。


「ホテルを取った後ジャイルの気にしていた総警庁に行くので良いんじゃないかな?」

「お、おお?」


 総警庁の名が出るとは思っていなかったのか狼狽えるジャイル。


「一階はどうするんだ?」

「パンフレットを見ると一階って学校とその関連施設、病院に研究所とちょっと私たちは立ち寄りがたいのが多いんだよ。学校なんて近くうろついてるだけで不審者扱いされるだろうし。

 総警庁も一階にあるんだけど、一階はそこと研究所だけでも良いかなって。病院の位置は頭に入れときたいけど」


 カノの質問に石見はパンフレットを見せる。それを覗き込んでカノは。


「研究所ってのは【メルヒェン・ヴェルト】関連の可能性があるからだな?」

「うん。ただ堂々と研究してたとこが残っているかと言われると疑問だけどさ」

「パンフレットの上ではあくまで『ドーン・エリア』の為の研究、となっているわ、ね」

「そう。

 詳しく調べられるか(わか)らないけど行ってみる価値はあるかなと」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うしな。一度行ってみよう」


 オレの同意にみんな頷いて。

 続けてオレはこう言った。


「んじゃまずは気になったとこだな。

 来た道を戻りながらここまで一周してくるか」

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