第61話 空飛ぶ靴欲しいな!
「「「お~」」」
まずは徐行、そこからスピードは増して行き、時速五十キロで安定する。
「おっきいね」
「ああ」
窓にがっつり顔を近づける妹・心樋にオレは首肯を一つ。なにが大きいかと言うと『ドーン・エリア』がだ。空に躍り出て改めて実感した。半径三十キロってところかな。
この小型の飛行船――或いは空飛ぶ車が頻繁に利用されるのも解る。因みに小型ヘリの可能性は消えた。プロペラついていないから。ではどうやって浮上し推進力を得ているのか? その答えは。
「魔法石だね」
「え?」
「魔法石が使われてる。ずっと同じ、浮遊と移動の魔法だけを使い続ける魔法石」
船内で唯一の魔法士、石見が断言する。
「私たちよりもずっと進んだ魔法石の使い方だよ。
ぶつからないのはAIのおかげ、科学力だと思うけど」
「……そうか」
「まあ今は良いじゃねえか。空の旅、楽しもうぜ」
「……だね」
そんなわけで、周遊三十分。
オレたちは空の上から『ドーン・エリア』を拝見し、すれ違う他の飛行船客と手を振り合ったり、謎の靴で空を歩く人に目を奪われたり、鳥と並走して見たり、中央・居住用の陸地が五色に分かれているのを発見したりしつつ、出たのとは別の発着場に降り立った。
そして声を揃えて言うのだ。
「「「空飛ぶ靴欲しいな!」」」
――と。
だもんで次の行き先が決定。二階、ホテルとショッピング・ゲーム・エンタメ関係施設が並ぶエリアだ。
近くにエスカレーターがあったのでこれを使って一階下に。
辿り着いてみるとまあ人の多い。人ごみを避けて飛んでいる人もいるがそれでもだ。
「はぐれないようにな~」
言いつつ念の為にと心樋の手を取るとオレの逆の手を石見が握ってきた。
「いや? 糸掛迷いそうだから?」
「疑問形で言われても」
良いんだけどね、全然。
「って、なんでマインの手を取るフォゼ」
「姉さんってあちこちに行くから」
「子供扱いかよ」
「え、エンリ。儂らも」
「繋がないわ」
食い気味に断られジャイル・轟沈。
赤くなったり落ち込んだりしながらバラけないようにゆっくり一丸になって進み、
「あれ良いな」
石見がアパレルショップを指差して止まったり、
「遊びたい!」
心樋がゲームセンターに惹かれて寄って行ったり、
「あら、良さそう」
エンリがコスメ関係のお店で足を止めてしまったり、
「ほう」
カノがスポーツ用品を売っているお店に興味を持ったり、
「可愛いですねえ」
フォゼがモニターに映るアイドルに珍しく反応したり、
「これ随分古いな」
ジャイルが懐かしい昔の家電を手に取ったり、
「……綺麗だ」
タータルが絵画に一目惚れしたり、
「あ、ここでも売ってんだ」
オレが日本のマンガ本に視線を彷徨わせたりとしながらなんとか目的のアイテムを発見した。
空を飛べる靴、である。いや正確には違った。
「“飛ぶ”んじゃなくて“歩く”んだってさ」
説明書の代わりにだろうか、店頭に流されている映像を見るオレ。
それによると。
「靴の下に人工光子を発し集めて固める事で空を歩く靴」
と言うアイテムらしく。
光の道の簡易版ってとこか?
「なんでも良いさ、試し履き試し履き」
ウキウキしながら店内に入っていくカノを先頭にオレたちも続いて中へ。一直線に靴を試せるちょっと広い場所へと向かう。
試し履きはもちろんタダ。
オレたちはそれぞれの足のサイズに合うテスト用の靴を手に取って早速履いてみる。
「すっごい軽い」
ぴょんこぴょんことジャンプする心樋を真似てオレもジャンプ。本当だ、履いている感覚が確かにあるのに重さを感じない。けれど丈夫そうだ。
履いた順に店員さんに案内されて、軽く指導を受ける。
「本来は盗難対策にパスワードを知り生体認証を済ませたユーザーの心を感じ取りフォトンを発生させるのですが、テスト用の靴はオープンにしています。履いている誰の心も感じ取ります」
なので思うだけで良いんですよ、と朗らかな説明を受けたオレは早速思って見る。
飛べ、歩け、フォトン出てくれ。




