第60話 乗る事自体にロマンがあんだよ
上、どうやらこのイーラ・スカイは三階までしかないらしく。さっきまでいたのは二階。
で今三階。
「飛行船の発着場か」
と言うオレの言葉通り、三階は外から見えた飛行船たちの飛び立つ場所だった。住民たちはここに飛行船を置き、必要に応じて利用しているようだ。
ただ中には、
「買っちゃう?」
チラッと石見がオレを見てくる。
中には、販売されている飛行船もあって。
「いやぁ」
流石に買えない。安くても百万エールだったから。日本でちょっと良い中古車が買える値段だ。
ぽんっと出せる金額ではない。
「レンタルもやってるみたいだぜ」
と言って誰の返事も待たずに見に行ってしまうカノ。はぐれないように慌ててオレたちは後を追って。
「三十分千エールからだってよ。これならいけるんじゃないか?」
いけるのは良いのだが、乗ってどこに行く?
と言う質問をぶつけてみたらカノは。
「乗る事自体にロマンがあんだよ」
解ってねえなあ、って顔をされた。
「お前だって車にこだわってんだろ。あれと一緒さ」
「……そう言われると、納得」
確かにこだわってあの車を選んだ。カッコ良さにこだわった。
だから今のカノの気持ちが解ってしまった。
なので。
「乗って一周してみようぜ。全景知るのも地理の把握には必要だろ」
との提案を断れずに。
いかん、断るどころか気持ちが解ってちょっとワクワクしている。いやいかん事はないか? ここには目的があって来たが楽しんではいけないなんて事はないだろう。
「兄さん、乗ってみたい」
「私もー」
「……オレも」
「よっしゃ決まりだ。じゃあ誰が払うかじゃんけんで決めようぜ」
「の前に何台借りるかだろ。この人数だと二台はいるんじゃねえか?」
「そうですね。
シンプルに日本組とアメリカ組に分かれましょうか。
おれと姉さんは――どっち?」
「日本組で良いだろ。アメリカ人だけど」
ややこしいな。
けどジャイルたちには日本組として扱われているのだから、日本組で良さそうだ。
「んじゃそれぞれでじゃんけんな。出さなかったら負けだぞ、じゃーんけーんホイ」
「バカな」
じゃんけんに負けて「ぐぬぬ」状態になっているのが誰かと言うと、音頭をとったカノだったり。
「アホな」
もう一人負けて「うっくぅ」とか意味不明な言葉を発しているのが誰かと言うと、ジャイルだったり。
「気にすんな、安いんだから」
「お前糸掛、勝ったからって随分上機嫌じゃんか。呑気に頭に手を置くな撃つぞ」
こわっ。からかうのも命がけ。
でも良かったー安いとは言え人のおごりで乗る車、さいこー。
「やっぱ撃ってやろうかこいつ」
「ジャイルも、いつまでも拗ねない、ね?」
「……ま、まあエンリが助手席に乗ってくれるってんなら」
「え? イヤだけど?」
「そんな当たり前でしょみたいな顔……」
「ほら、決まったモノはしようがないとして早く車選ぼ。
カノが選ぶと良いよ」
「そうか? なら――」
石見に背中を押されて、尚且つ選択権を与えられてちょっと機嫌が良くなって。カノもわりと単純だ。
「こいつが良いね」
五十タイプあるレンタル飛行船の内、カノが選んだのは――どピンク。派手だ。目が痛い。可愛い色が好きだったのかカノって。
「儂はこいつが良いんだが」
ジャイルの選択は、炎がデザインされたロック系。
それを見たエンリは、
「これに……乗るの、ね」
ちょいと頬をひくつかせる。
ま、男は好きそうなデザインだけど。タータルも目輝かせているし。普段大人しいタータルだがこう言うの好きなんだな。
カノとジャイルは選んだ飛行船のレンタル料をそれぞれ払い、
「じゃ、乗っていこうぜー運転マインで――と思ったら自動運転か。ルートを決めてその通りに動いてくれるらしいぞ。ぶつかったりしねえのかな?」
支払いと同時に開いた飛行船のドアから中を見るカノ。見て、ちょいちょいと船内の床に足を押し当てて、丈夫そうだなと呟きつつ中にイン。そりゃなあ、飛行途中に床が抜けたりはせんでしょう。
カノが着席すると心樋を次に乗せて、オレたちも順次乗り込んで。どうやら座席は360度ぐるりと回転する仕様。固定も出来るが外を見たり内を見たり自由にして良いようだ。
アメリカ組も乗り込んで、それを見たカノは、
「んじゃあ払ったマインが権利持ちって事で――エンジンオン」
ポチっとボタンを一つ押す。するとこれと言った音もなしに飛行船が浮いた。
「ルートは適当で良いよな? ここに戻ってくる必要もなさそうだし。
ゴー」
飛行船が動き出す。




