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第06話 ダメ。絶対

 ◇


「オカリナ! オカリナ!」


 ばいんばいん、と膨れたお腹を盛大に揺らしながら廊下を走る年老いた女性が一人。


「オカリナ!」

「ん~~~~?」


 少女はベッドの中で自分の名前を()きながらモソっと動いた。訊こえたはずなのに顔は上げない。


「ん~~」


 しかも布団にくるまって騒音をシャットアウト。

 ここは北海道。夏とは言え涼しい地域だ。しっかり布団をかぶりましょう。あとカーテンは閉めようよ。


「オカリナ!」


 暖かな布団の中でまどろむ時間、そんな甘いひと時があるわけもなく……。

 乱暴に開かれたドアの音にオカリナは――


「うひゃい!」


 奇声と共に体を起こした。


「あんた! あれ! あれ!

 出したままでしょう⁉

 早く消しなさい!」

「あれ?」


 目元を手で擦ってハテナマークを浮かべる。


「あ、目ヤニが手についちゃった」

「目ヤニなんか良いの!」

「え~? 良くないっすよせんせ~。

 ほら、乙女は常に男子に見られてると思わなきゃ」

「今は乙女としての心得は良いの!

 窓の外! 見なさい!」

「ん~? うわ」

「って、なるわよね?

 あれは誰の仕業かしら?」

「えへへ」

「なぜ照れた」


 オカリナは恋しい布団をベッドに預け、窓を全開放する。

 途端。

 木の蔦が蛇のように部屋に侵入してきた。

 その蔦はオカリナを持ち上げると――


「うっはい」


 近くにある中等部のグラウンドまで神輿の如く抱えて連れ去った。


「お~みんな生きていますなぁ」


 オカリナの視線の先で、ポップな音楽に乗せてバカでかい花たちが踊っていた。


「オカリナ!」


 先程の太った女性が器用にミニバイクに乗りながら追っかけて来る。小さいタイヤが砂を盛大に巻き上げていた。


「今すぐ! スケッチを破るのです!」

「ちゃんとしつけますからー!」

「ダメです! あんた準魔法士なら『記述(アート)』でやって良い事と悪い事の区別は習ったでしょう!」

「習いました」

「ダメな事! 言いなさい!」

「一つ、人心掌握を目的とした『記述(アート)』は描いてはならない!

 一つ、生命を作ってはならない!」

「これを見た教会はどう思うかしら⁉」

「やだなぁ。これはダンシングフラワーって言って、音に反応するオモチャですよ。

 命なんてないです」


 そのダンシングフラワーにボールのようにパス、ほいパスっと投げ合いっこされながら。


「魔法具の面倒は最後まで準魔法士がみる! あんたがやらないならこっちが消しますよ! その代わり罰がつきますが良いですね⁉」

「そっそれはやだ!」


 両手を パン と叩くオカリナ。

 すると、ぽん と可愛らしい爆発音を伴い掌の中にスケッチブックが出現。

 一枚二枚とページをめくり、目的の絵を見つけると、


「う~~~~ごめん!」


破く。

 同時に止まるダンシングフラワーの動き。

 そして次々に煙となって消えていく。

 オカリナ、キミはなにかを忘れている。と部外者であるオレが意味ありげに呟いてみる。


「…………はっ」


 気づいた時にはもう遅し。

 ダンシングフラワーたちに遊ばれていたオカリナは、高さ二十メートルの位置に。


「わー!」


 落ちる寸前でスケッチブックの別のページを開くオカリナ。焦りながらも的確に行動出来るのは素晴らしい。()いで彼女は。


召喚()!」


浮遊するボードを召喚。


「あっぶな~」


 間一髪、ボードに飛び乗って怪我を免れた。






「驚いた……」


 そんな寮とグラウンドの一幕を中等部校舎の屋上で眺めていたオレは半ば呆然と言葉を零す。

 なぜって?

 まさか日本の片田舎に魔法士・準魔法士の育成専門学校が建っているとは思わなかったから。

 魔法士・準魔法士は各国が早急に育成を目指しているのだが、ワールド・ダウングレードからはまだ一年だ。大抵の国は後手後手に回っている。

 それが生徒数・百人弱と小規模ではあるけれど、学校を運営出来る程に日本が熟しているとは思わなかった。

 え? オレたちはどうしたのかって? “先生”の下で個別に習ったわけ。


「知らんかったやろ? ここは国と『日雷(ひがみなり)』直営の育成学校や。グリムに気づかれんよう秘密にされとるからな。気配も魔法石(まほうせき)で絶っとるし」


 オレ『日雷』の下の方にいるからなぁ。良いけどさ、別に。


「さっき暴れていた子が使っていた魔法具、『記述(アート)』って言っていたけどそれを基本に教えているの?」


 珍しそうに学校を眺める、石見(がらみ)


「うんにゃ。覚える魔法はみなそれぞれ」

「それじゃ教師は大変だろう」

「せやな。みなさん優秀な人ばっかやで。

 ところで――」


 古栞(こおり)は屋上の端から身を乗り出す石見を見る。


「珍しいんは(わか)るけど落ちるで~」

「大丈夫。私、魔法士だし」

「ぬ」


 とは言うものの石見は素直に身を引っ込めた。

 忠告はちゃんと訊く、良い子である。


「それで、学校で呪われたのか?」


 スゥさんに言われた通りにやってきたオレたち。呪った人物の追跡と撃退(必要ならば)、古栞には身を引くのを『懸命』と言っていたけれど、オレたちの修行にはぴったりと判断したらしく笑顔で送り出されたのだ。


「その前に二人部外者やし、学校の校長にまず挨拶」

「古栞はここの三年生なの?」

「せやで石見。

 し・か・も! なんと副生徒会長や! 偉いやろ! 凄いやろ! 頭を垂れて敬っても良いで!」

「「遠慮します」」

「……っち」


 舌打ったよこの子!


「さっさと行くでぇ」

「やれやれ」


 屋上から階下へと続く木造りの扉――と言うか校舎自体が見事な木造りだが――を開けて、古栞はぎょっと目を見開いた。

 ん? どうした?


「こ~お~り~」


(うい)(ねえ)さま。お顔が超怖いですけどぉ⁉」


 うん、オレから見てもこわい。般若のようだ。


「怒っているからな」


 扉の向こう側にいた茶髪に黒眼の人物は、ぷんすか状態。……そんな可愛いモノでもないか。


「なぜ?」

「お前仕事、書記に任せて逃げたな?」

「う」

「賢人に逢いに行くのはアタシの仕事だったと訊いたが?」

「う」

「ついでに出かける日程をわざとテスト期間にしたな?」

「う」

「そ・れ・が生徒会の人間のする所業か!」

「うきゃあああああ!」


 木造りの校舎から伸びて来た枝に絡め捕られる古栞。

 ほぅ、ちょっと感心した。

 この初と言う少女が行ったのは魔法具を介さない魔法石の行使。つまり魔法士だ。在学中でもこれ程の技が出来るとは。

 って言うか……魔法士ってだけでオレより立場上なんだけど……っち。


「初姉さま! 校舎を操ってはいけません!」

「お前怒られてる立場でアタシを説教するつもりか!」

「あ、しもうた」

「余裕があるやつは!」


 おお? 屋上に真っ赤な彼岸花が咲き乱れた。香りが凄い。そして一面の赤で目が痛い。


「ちょっと三途の川まで行ってこい!」

「えええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」


 華が一斉に飛び散って、古栞を包み込む。

 するとどうだろう? 古栞の姿が消えてしまった。


「……成程、極小範囲に幻想世界を造りだしたんだね」

「……貴女がスゥさんか?」


 気を落ち着かせて、初君。


「そうだよ」

「…………いや、違うだろ石見」

「バラしやがった!」


 て言うか初対面の人で遊ぶのやめなさい。


「では、二人はどこのどなたかな?」


 初君はさして気を悪くした気配も見せずに。

 良かったさっきの勢いで怒られるかと思った。


「石見だよ。告乃(こくの) 石見(がらみ)。スゥさんのお得意さま」

「成程。……なかなか膨大な魔力だ。魔法士だね。

 そちらは?」

「糸掛。告乃(こくの) 糸掛(いとかけ)。石見とはいとこの関係」

「…………言っても良いかな」

「ダメ。絶対」

「褒められる程の魔力は感じないな」

「言いやがった!」


 どうやら歯に衣着せぬ性格らしい。喋り方も男っぽいし、怒らせると怖そうだ。て言うか実際怖かった。


「オレたち、スゥさんに古栞を呪った人物を捕まえるように言われて来たんだけど」


 紙飛行機は一直線に飛んでいるから追えなかった。だから別ルートから捜査だ。


「犯人か。こちらも探してはいるのだがトンと見つからなくてな……ありがたい。

 では、まず校長のところに案内しよう」

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