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第58話 ……ここ、入れないのでは?

「「「おぉ~」」」


 ガタンゴトン、なんて揺れを一切感じさせない電車が駅に着いた。

 三つの塔を囲う樹々の手前、ぎりぎりイーラ・ウォーター内に建てられた駅に。

 下車をして他の乗客の邪魔にならないよう横にずれてまず見た光景は天井のステンドグラス。

ス テンドグラスが多用されている天井からは海中にいるかのような光が降り注いでいて幻想的。


「ちょっと涼しいね」

「氷だしな」


 そう、オレの言う通りに、氷だ。氷の塊が床から生えている。おまけに天井中央からも氷が金の鎖でぶら下がっている。落ちたりして。なんて言う心配は不要なのだろう。オレで思いつくなら作る側だって思いついて当然。対策くらいしているはずだ。

 ホームを出て駅構内に行ってみると床の全てが本物の水槽。なんと色鮮やかな立派な鯉が泳いでいた。

 そんな床だからドタバタと歩くのが憚られる。

 そろーりそろーり、とまではいかないがそれでも鯉たちを驚かせないようにゆっくりとした歩行になってしまう。

 五分くらいかけて外に出てみると。


「見えねえな」


 少し呆れ気味に、カノ。


「木が邪魔だな」


 うっとおしそうに、ジャイル。

 街の反対側、三つの塔側に出てはみたものの、樹々が邪魔をしてほぼ三つの塔は見えずに。

 枝の間から手とカメラを突っ込んで撮影している人がいたから 真似してみようか? と考えている間にフォゼが実行していた。腕輪型のデジタルガジェット『(よすが)』のカメラ機能を使っているようだ。

 良し、オレもやろう。


「……ここ、入れないのでは?」


 手を樹々に突っ込んでいるとタータルがボソリと。

 確かに……入れるならこんな撮影しなくて済む。オレも他の人も。


「そうね。パンフレットにも職員以外立ち入り禁止と書かれている、わ」


 ……先に言おうよエンリ。


「んじゃ、どうするの?」


 頭を傾けて心樋(ことい)。我が妹ながら可愛い仕草である。

 それはそれとして、どうする、か。

 どうしよう。

 天使を捕えている『世界牢』とグリム関係の情報、いかにも“持ってます”って雰囲気ではあるのだが強行突破して三つの塔に入るとお尋ね者になってしまうだろう。

 ここに戦いに来たのではないからそれは御免被る。


「しようがないよね。

 この大きな陸地は居住用みたいだし、外周囲んでいるガラスのビルに戻ろうよ。色々見たいし」


 そうだな、石見(がらみ)の言う通りだ。


「とんぼ返りする形になるけど、ここで突っ立ってるのもなんだしな」


 とはオレの言葉。

 少々名残惜しいが戻るとしよう。

 電車賃、安くて良かった。

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