第55話 ありゃアメリカの準魔法士だ
オレは多分少し震えていた。
魂に刻んだ。つまり、魂に勝手にアクセスされたと言う事だ。
それは潰そうと思えば出来たと言う意味にほかならず。
「んん。難しいお話です、とても。
けれど二號にアクセスは不可能です。保証します。
可能なのは『ドーン・エリア』の設計開発者、同時にテストを用意なされたお方だけですので」
「その人についての情報は?」
「もちろん差し上げる事は出来ません、糸掛さま」
教えていない名を呼ばれた。……こっちの情報は持っているんかい。
「しかし『ドーン・エリア』内で情報を集め、お会いになられるのは自由です。
申し訳ありません、二號の役目はドアの開閉とチケットの確認だけですので」
もしチケット持ってなかったらどうなってたんだろう?
「その時はお命頂戴で」
こわっ。
けどまあ考えてみれば当然の話か。セキュリティ、大事。出来れば処刑でなく逮捕からお願いしたいが。
「ではではみなさま、みなさまは問題ありませんのでドアをお潜り下さいな。
ドアの中は十メートルのトンネルになっております。
トンネルを抜けると街の中です。
幸運が待っているか不幸が待っているかはみなさまの行動とお心次第。
決して、決して間違いを犯さぬように」
バトラー二號を先頭にドアの前まで行き一度足を止める。中を覗くと、成程トンネルだな。ガラスのトンネルだ。
足を止めたオレたちをちょっとだけ置いてバトラー二號はドアを超えて振り返る。
「改めまして、ようこそいらっしゃいました『ドーン・エリア』へ」
恭しく頭部を下げて。
それを見たオレたちは一つ頷きあい、ドアを――潜った。
全員が潜ったのを確認してバトラー二號は。
「いってらっしゃいませ~」
軽く手を振るのだった。
雰囲気軽いなー。重くされるよりは良いけどさ。
そのバトラー二號に大きく手を振り返す心樋を伴ってトンネルを歩いていく。
カツンカツン、ではなくキンキンと高い音を出す床。
ガラスだから滑るかとも思ったがそんな事はなくて。滑り止めが塗られているかのように一歩一歩が止まって歩きやすいトンネル内部だった。
だった、そう、トンネルが終わった。
「すっご」
トンネルが終了した。即ちガラスの塔内に本格的に突入したのだ。
そこに広がる街並みを見て「すっご」と言ったのはオレ自身。
そうか、これが“未来”か……。
「人が当たり前のように飛んでるし」
と言うのは石見。
彼女の言う通りに住民は飛んで――浮いていた。足に履く靴からなんらかのエネルギーを放出しながら。反重力ではなさそうだ。なんだあの靴?
「ありゃペットの言葉か?」
と言うのはカノ。
彼女の言う通りに幾人かが連れている犬や猫や鳥の顔近くに言葉が“浮かんでいる”。
ペットの鳴き声に合わせて浮かぶ言葉は変化し、飼い主である人はそれを見て頷いたり応対をしたり。
おいおい、ペットと意思疎通が可能なのか?
「思っていたよりもずっと広いんですね。浮いているし」
と言うのはフォゼ。
彼の言う通りにトンネルを抜けたそこは広かった。
外からガラスの塔しか見えなかったから中もガラスの塔で埋まっているのだろうと安直に思っていたのだが全然違う。
なんと大地が雲に支えられて浮かんでいるではないか。
中央にあるのは大陸かよと錯覚するくらい大きな陸地。その周囲に小中の島。
大きな陸も小中の島も上部はドーム状のほぼ透明なエネルギーで覆われていて。きっと雨や雪、風を防ぐ為のモノだ。
ドームの中には更に小さな島々が雲に支えられて浮いていて、一つにつき一軒の家が建てられている。これもまたドームに覆われていた。
どうやらここの人々が住んでいるのはそれらの方で、ガラスの塔は商業施設やスポーツ施設、簡単に言えば職場にあたるようだ。
「光の道だ」
と言うのは心樋。
彼女の言う通りに光の道が見える。ゲーミングPCなんかに見られたグラデーションに輝く道だ。
人は浮く。大地も浮く。
けれどそれぞれの大地とガラスの塔は曲線を描くエネルギーの道で繋がっていて、幾人かはそこを歩いていた。
エネルギーの道、乗れる光の道。歩いてみたい。
それにしてもこの『ドーン・エリア』、先程オレはここを「ブーケ」と表現したが、あながち間違いでもないようだ。
花の部分に大地があって包む紙の代わりにガラスの塔がある。
科学と魔法の巨大ブーケだ。
「……ところで」
オレには一つ気になる事があった。
「何人かが機械の動物を連れているけれど、あれもペットかな」
超科学で出来た動物型アンドロイド、ってとこか?
「いや違うぜ」
違うようだ。あっさりジャイルに否定された、残念。
「ありゃアメリカの準魔法士だ」
「「「!」」」




