第54話 自分がどれだけ恐ろしい事を言っているか自覚出来てる?
「普通の船と、浮く船か」
港について停泊している船を見るオレ。言葉の通りに海面に浮かぶ船と海上一メートルくらいに浮いている船とがあった。
普通の船は外から来たのだろう、オレたちのように。
海上に浮く船は『ドーン・エリア』産か。
「魔力がある」
「え?」
浮上船を見やる石見。の表情が少し驚いている。
「この浮いてるの、科学じゃなくて魔力で浮いてる」
魔力で浮く。と言う事は。
「ワールド・ダウングレード以降に作られたって事か?」
ボートから桟橋へと飛び移りながらカノ。
「多分」
オレも桟橋に移動し石見と心樋に手を伸ばして引き上げる。
同じようにジャイルがエンリに手を貸していて。
「それに街全体からも感じるんだよ、魔力をさ」
「こちらも、ね。微量じゃなくて相当量の魔力、よ」
「対応が速かったのでしょうか?」
「ねーだろ、フォゼ。そんな浅い歴史じゃないと思うぜ」
「だな。カノの言う通りだぜ。
儂の知っている限りじゃワールド・ダウングレード以前からここはある」
「でも……」
ギュッと人形と化しているグリムを抱きしめるのは心樋だ。
? 少し怯えている、か?
「心樋? どうした?」
「……ここ、どこか【メルヒェン・ヴェルト】と同じ感じがするの、兄さん」
「……同じ」
「うん……【メルヒェン・ヴェルト】に比べたら魔力はずっと薄いけど、感じる空気は同じ。
他の場所とは違って古い空気があるの」
古い。ワールド・ダウングレード以降に出来た街とは違って。
それは、答えはオレからは出せないが……。想像で言うなら――
「科学だけじゃなくて魔法も利用して稼働している街だから、かな」
「……かな」
問題はいつここが建てられたのか、か。いずれにしても。
「――行こう。ここでジッとしていても答えは出ない」
怯える妹を同伴させるのは兄として心配だが、置いて行く事は出来ない。
「大丈夫だ心樋。今度はオレたちが心樋を守る」
「……うん」
「さ、行こう」
心樋の手を取って、石見。
全員揃って足を踏み出す。
科学と魔法が同居する、妖しげな街へと。
桟橋を歩いて進み、
「ん?」
手近な塔――ビルに向かっていると入り口と見られる場所が開いた。パッと見た感じでは隙間が欠片ほどもない場所がちょっとだけ奥に引っ込んで左右に分かれたのだ。
ドアだったのか……そう見せないのは凄いけど解りづらいな……。
けれど自動ドアだったとしてもまだオレたちとの間には距離がある。反応はしないだろう。
ならば向こうから誰かが現れたのだ。
だが姿はおろか影もなくて。
と思ったら誰かがドアの横からひょこっと顔を出し――
「こ、こんにちは……」
腰の低い挨拶をしてきた。
きこきこきこ タイヤが回る。まるで一輪車にでも乗っているかのように下半身にタイヤを固定されたそれは、執事風のロボットだ。日本のハニワにも見えるが、多分執事。
「ドアの開閉を努めますバトラー二號と申します。
生憎一號以下三~九號は別のドアの担当となっておりましてこうなりました。
ああ、役立たずとお思いなさるな。
いざとなったら腹を切る所存。決して邪魔にはなりませぬ」
腹切られても困るんだが。
「ねえ、開いてくれたって事は私たち入って良いんだよね?」
「二號の命を取らないのであれば」
「取らないよ」
「おおありがたい。日本人特有の武士の情けと言うモノですな」
多分違う。
「少々失礼をいたします」
うん?
バトラー二號の目が明滅しているぞ?
「確認しました。みなさま、チケットは有しておられます。
入れますよ」
「ちょっと待て!」
「うぉぉぉびっくりこき麻呂」
「いつの時代のギャグだよ最先端ロボだろうに。
いやそれは良いんだ。
それよりチケット? 儂らそんなん持ってないぞ? テストはクリアしたっぽいけどよ」
「大丈夫ですよ。テストクリアでみなさまの魂にチケットは刻まれております」
刻まれて。
待て、それは。
「……バトラー二號……あんた、自分がどれだけ恐ろしい事を言っているか自覚出来てる?」




